先生との休日
先生の部屋からおはようございます。
教師と生徒の恋愛関係という不可能を可能にしているアサヒです。
黎明の魔女が元の時間に帰ったので、学園の平穏も帰ってきました。
休日を前日の夜から翌日朝まで大好きな人の傍で過ごせるわたしはとても幸せです。
亡くした相手の物を持ち続けていて情けないだの、今だに過去に捕らわれているだのという他人からの評価に価値はありません。わたしはこうやって死後も想い続けることができるのが先生だと認めた上で好きなんです。
自己暗示でも確認でもありません。誰が何と言おうとわたしたちは相思相愛なのです。
さて、そんなわたしですが、今日は実績をひとつ解禁します。
運動着に着替え済みで準備万端。
目の前には女性用の服がみっちりと詰め込まれた先生の部屋の禁忌、衣装棚があります。
先生に女装趣味があるわけではありません。そういう趣味があってもわたしは構わないのですが、女装という単語を本気で嫌がっていたのでその話はしない事にします。
先生の部屋に眠るこの衣類は、先生が今日まで処分できなかった奥様の遺品です。
本来休日の予定にはなかったのですが、急遽こちらの衣類の整理と処分をする事になりました。
昨晩、先生の夢に彼女が現れて、開口一番で服を片付けろと叱られてしまったそうです。
奥様の遺品で部屋が埋め尽くされている事で、わたしの物が入り込む余地はほとんどありませんでした。
泊めて頂くときはいつも使っていなかった物をお借りしているんですが、それは気分的にもどうなのかとずっと考えていたそうです。
本人があの世からメッセージを夢を通して送ってきたのか、先生の深層意識が彼女の姿を通して訴えかけてきたのかはわかりません。
動機はどうあれ、ずっと止めていた心の歩みを進めて一念発起したのです。その気持ちに甘えましょう。
先生はわたしの基準で選び、そのまま貰って欲しいと仰いました。生前の彼女は流行り物は好まなかったそうなので、流行おくれのファッションに身を包んで恥をかくことも無いだろうとのことです。
顔写真すら残ってない彼女の遺品をゴミとして処分するのは忍びないのですが、心を鬼にして選別させて頂きます。
長い間封じられていた戸を開けて、わたしは早速前妻からの洗礼を受けることになりました。
おそらくは、何も考えずに片っ端から詰め込んだんでしょう。解き放たれた布の壁に押し潰されてしまいました。幸い、先に部屋を整理してスペースを空けておいたので服の山に埋もれるだけで済みましたが、せっかく片付けた部屋がまた散らかってしまいました。
駆け寄ってきてくれた先生に掘り起こして貰ってから、起きてしまった惨状を確認します。
上着から下着から夏物冬物、フォーマルな物からカジュアルなもの、なにやらよくわからない安っぽいコスチュームのようなものまで何もかもが混在した混沌の山。この狭い押し入れのどこにこんな量が詰まっていたのでしょうか。
片付けの秘訣は、そもそも散らかさないことにあり。これは既に混沌と化している場所に対しての教えではありません。
先生、既に散らかっている場所を片付ける方法を教えてください。
「すみません、本当に。」
質問への回答で真っ先に謝られてしまいました。
故人が元気なうちから一緒に片付けておくべきだったという後悔があるのでしょう。
この状況から察するに、今まで手を付けていなかったのは亡き妻の遺品を整理できないくらい打ちひしがれていたのとは別の理由から。
一人では手が付けられない程酷い状態だったので、いつか手を出さないといけないと思いつつも多忙さで後回しにしていた。そんな気配を感じます。
心中お察しいたします。それに今はわたしもいるので二人での共同作業。二人で背負いましょう。
正直、どこから手を付けたらいいのか全く分かりません。
今日一日で終わる気がしない……
絶望していても仕方ないので、わたし好みなものとそうでないものを判断基準に選り分けをはじめました。
良さそうなものはできる限り畳んで再び衣装ケースの中へ。いらないと思ったものは、もったいない気がするんですがフリーマーケットやオークションなんてのは存在しないので、ゴミ袋へ。
手当たり次第分けていると、お椀のように膨らんでいる胸だけ隠せる下着が出てきました。これではお腹が丸出しで冷えてしまいそうなんですが、大人は皆こういう下着を付けていらっしゃるんでしょうか。
これが噂に聞く「ブラジャー」というものであると先生に教えて頂きました。さすがにわたしが付けるには早いのと、胸のサイズは成長具合や大きさに個人差があるので、今手にしているコレを使えるかどうかはその時にならないとわからないそうです。
誰もが認めるフラットボディに大人のブラは服の上からでもブカブカのスカスカです。でも、装備した上でもう一枚何か着ると……なんということでしょう。大人の女性のそれが、胸の膨らみが誕生しました。
いずれ自分にも生えてきて、これが必要になる日が来るんでしょうけど、やはりお腹の冷えが心配です。これの上にもう一枚着ればいいのか。でも着込むのもなんだかなあ。
その時になったら考えようと脱いだら広い範囲のカビを見つけてしまったので、色は好みだった淡いピンクのブラもゴミ袋へ。作業は続きます。
続いて飛び出してきたのは、紐。わたしが履いても色々はみ出しそうな紐状の下着と呼ぶも烏滸がましいヒモです。
大人の女性すごい。こんなの着て夜に挑むんだ。でも引っ張ったら千切れちゃったのでこれもゴミ。
亡くなるよりずっと前から押し込んでいたという話の通り、変色したり経年劣化でボロボロになっていたり、虫に食われていたりカビてしまっていたりで、半分ぐらいはゴミ袋行きとなりました。
サイズこそ合わないものの、残りの半分は全てわたしが頂きます。大きさは魔法で合わせればいいから大丈夫。
数もだけど、服そのものの種類も多いのなんの。
変なところに結び目があったり穴があったりして着方もわかりません。試着しているうちに裁縫が分解してゴミになったりもしました。
親しき仲にも礼儀ありとは言いますが、ここで洗濯したりもしているので、先生に今着ている下着を見られるなんてのは気にしません。
一日部屋から出ていないのにとても疲れました。
結論。服選びめんどくさい!




