代弁されるクロード君
クロード君の捕獲とお説教は全てアサヒさんにお任せします。
わたし達はいつも通り。の、はずでした。
なぜアサヒさんは、教室に先回りしていらっしゃるんでしょうか。
目標はここに来る。ならば居て待ってて何が悪いんだと開き直られても困ります。わたしが二人いるのは異常なんです。
「偽アサヒだー!?」
「偽物言うなよー本物だぞー?」
そこのポール、仲良くじゃれ合わないでください。気さくなお姉さんに見えるけど、理事長並みにすごい魔法使いですよ、それ。
鍛え抜かれた肉体による物理的な面だけなら分がありますが、このアサヒさんは死なない性質持ち。打ち負かすのには理事長でも骨が折れそうです。
「今日はわたしの下着を賭けたりしないのかい?」
対称的に、マッシュのほうはからかわれてしまっています。
君は同年代は良くても年上の女性に対してはそこまで弱くなってしまうんですか。
「アサヒさんにお聞きしたいことが!」
「はい、なんでしょう?」
「小さいほうじゃなくて大きいほうのアサヒさんに!」
ナミさんはずっと興奮状態。偽物のわたしを見つけたら質問責めにすると決めていたんでしょう。何か書かれたノート片手に呪文の高速詠唱のように言葉を投げかけています。それができるナミさんも凄いんですが、対処できているアサヒさんも凄い。
肝心のクロード君だけは授業開始の時間になっても現れませんでした。
先生にも確認を取りましたが、今日は休む等の連絡も無いようです。彼がサボるだなんて珍しい。
自身の失敗を自覚していて、気まずいのでしょうか。
わたしが二人居る原因が彼にあるともう一人のわたしが言っていました。違うのなら違うと弁明し、正解ならばさっさと頭を下げたほうがいい。相手は理事長並みの実力を持つ魔法使い。しかもわたしがベースになってます。不誠実な行いは気分を逆撫でするようなもの。
「さあて、来ないかなー?」
クロード君の席の前で腕を組み、待ち構えているアサヒさん。
(聞こえているだろうクロード君。君の罪状は既に明るみに出ている。筋を通し素直に謝罪するならばわたしも譲歩しよう。だが、そうやって逃げ隠れを続けるのならば考えがある。)
即興で作られた、先生から特別学級の生徒全員に言葉を伝える魔法を乗っ取る形でアサヒさんが告げました。
(いいかい。君の願い、願望器に代わりわたし自身が叶えてやろう。わたしと同じ存在、今この時間に居るアサヒ・タダノを殺す。それが君の望みだろう。)
六人とアサヒさんしか聞けない通信で、とんでもないことを言い出しました。
わたしを殺すのがクロード君の望み? なんか好意を抱いているような雰囲気なのは昨日のアサヒさんの話で感じていましたが、愛を通り越して殺意は重すぎやしませんか。
「説明はしますけど、本人の前で答え合わせした方がいいので、まずは彼を引っ張り出さないとね。」
アサヒさんはとても悪い笑みを浮かべています。
(違うと言うのならば今すぐ出てきて証明すべし。わたしは待つのが嫌いだからあと十数えたらアサヒ・タダノを殺す。待ったは無しだ。じゅーう、きゅーう、はーち……)
問答無用でカウントダウンを始めてしまいました。わたしはそんなにもあっさり殺されてしまうのですか。愛する人に別れの言葉を投げかける猶予も無いのですか。
演技にしてはあまりにも淡々と数を進める姿に怖くなり、先生に抱き付いてしまいました。
おい、早く答えろクロード君。わたしはまだ殺されたくないぞ。
(ちがう! そんなの望んでない!)
残り二でようやくクロード君が返事をしてくれました。泣きそうな声色です。
(違うも何も、現にわたしは目の前のアサヒ・タダノを殺したくて殺したくてしょうがない。君が使ったのはそういう魔法だろう?)
(違う!)
「とりあえず出てきなよ。コレを使って話すのは疲れるんだからさ。」
アサヒさんが通信ではなく自分の口で呟いた後に手を叩くと、今まで誰もいなかった空席にクロード君が着席していました。
予兆も予備動作も無かったので、わたしと同じ、なんでも願いを形にする魔法で彼をこの場に引き寄せたんでしょう。
クロード君は恐怖のあまり顔が青ざめていて、全身も震わせていました。なにか刺激を与えたら漏らしてしまいそうですが、トイレには行ったんでしょうか。
とにかく、声を出した勇気には拍手を送りましょう。わたしが殺されずに済みましたので。
「話を聞くのは僕とアサヒさんだけでいいのでは?」
「『偽アサヒを捕まえ隊』でしたっけ? 皆巻き込んでるので説明の必要はありますよ、先生。」
間違いない。これは公開処刑です。しかも私怨が入っています。彼女は彼女の時間のクロード君によって不死の存在に昇華されてしまいました。死のうと思っても死ねない身体にされた積年の恨みはそう簡単に晴れるものではないのでしょう。
怯えすぎでまともに喋れる状態ではないとの判断から、アサヒさんが昨日寝ずに考えた推測とその答え合わせで種明かしをする事になりました。
クロード君には「はい」か「いいえ」の意思を表示する権利が与えらえます。
直接裁くことはできないから、答えたくないものには答えなくていいとも言っていました。
召喚されてしまった当事者だけどもこの学園にとっては部外者で、クロード君の罪を裁く権利は持ってないんだそうです。
「発言次第では、気が変わったとか言ってアサヒちゃん食べちゃったりするかもねえ。」
「骨ばっかりでおいしくないと思います。」
もう会う事ができない顔ぶれが勢ぞろいしたことで気分を良くしたのか、先程までの冷淡さは鳴りを潜めてしまいました。冗談が飛び出しましたが笑えません。
アサヒさんの推測通り、クロード君がアサヒさんを呼び出した召喚主でした。
何かを呼び出す魔法では無く、願望を形にした結果としてアサヒさんが呼び出されてしまったそうです。
魔法は道具を使っての事であり、願望を形にする魔法を用いてはいませんでした。わたしのアイデンティティであるこの魔法は確かに皆にも教えましたが、まだ完全な伝授には至っていなかったようです。
使った道具はその場で消滅してしまったため、手元には何も残っていないのだとか。なんでそんな怪しいものを使ってしまったんでしょう。先生も頭を抱えています。
さて、本題です。クロード君は一体なにを願ってしまったんでしょうか。
「自分で言える?」
事実が明かされていく中でさらに萎縮してしまっているクロード君は首を横に振りました。
わたしなら、ここまでバレているのだから自分で言ってしまったほうが楽です。でもそれはわたしだから。わたしはクロード君ではないので、その辺の感覚を共有することはできません。
違うならすぐ否定して欲しいと伝えてから、アサヒさんは続けました。
この推測は、今まで生きてきた中で一番驚いたと思います。
彼がその万能の願望器とされるものに望んだのは、先生一筋で恋に生きていないアサヒという少女。
まさかのまさかで、クロード君はわたしに淡い恋心を抱いていた。わたしが先生しか見てない事と、その感情を打ち砕く事ができず、なんでも願いが叶うという言葉の誘惑に抗えなかった。
わたしから先生への感情を取り除くという願いは願望器の限界を超えていたんでしょう。
そのままでは叶えられないことから、魔法の道具は代替手段を取った。先生を好きにならず、他でもないクロード君からの想いを本人の意思とは関係なく受け取った別の時間で生きるアサヒをこの場所に連れ込んでしまった。
さらにもうひとつ、先日の廊下の接続経路がおかしくなった事件は、クロード君が願望器を使って強大な魔法使いをこちらに呼び寄せてしまった為に起きた事故だった。
「どこか間違いとかある?」
「ありません。」
廊下の接続不良、ただの不具合だと思ったら、そんな理由があったとは。
このことをどう報告していいのか、後始末の事を考えているのか先生は上の空です。
「わたしの事は意思疎通できないゾンビってことで、ここで皆で焼いて追い返したって事にしておきましょう。」
大きすぎる願いを叶える為に呼び寄せた存在が強過ぎたので結果的に壊れてしまったが、願望器自体は本物。そんなものが管理されない状態で市場流通しているのはちょっとまずい。
そのまま報告したら、クロード君の停学だけでは済まない大問題に発展してしまいます。
なので、クロード君は偽物を掴まされた。願いは叶わず皆に怒られ散々な目に遭った。それで落としどころを付けようとアサヒさんは言いました。




