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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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実ったアサヒと散った人

 おはようございます。アサヒです。

 本日わたしは半年以上過ごしている校舎で迷子になりました。



 学園の校舎には、廊下の行き止まりや建物の入口など、色んな場所に、通ると別の場所に転送される魔法がかけられています。

 外見はとてもシンプルなのに、内部構造は迷路。ルートを知っていないと目的地には永遠にたどり着けません。


 毎日複雑な迷路を通って教室に向かうのでは授業どころではありませんが、そこは対策済み。

 学園の生徒は玄関から廊下をまっすぐ突き進むだけで、自分たちの教室にはたどり着けるように魔法が組まれています。


 所属が同じ生徒であれば同じ道順が通れますが、学級が違うとそうはいきません。他の学級の友人と一緒の移動ができないのがとても厄介です。



 そんな校舎の廊下の接続経路が変更されたことが先日発表されました。

 ここ最近、待ち伏せからの誘拐や宗教勧誘等の不要なトラブルも起き始めていたこともありましたので、歩く距離は変わらない経路変更は不都合なことは何もない、はずでした。




 教室に向かうはずだったのに、今わたしが居るのは演習場です。

 誰もいない演習場を見て、わたしの魔法を皆に教える授業をまたやりたいと思ったりはしたのですが、今はそれどころじゃありません。

 授業の開始までには余裕を持って登校しています。でも迷路を攻略してる時間と体力はありません。


 どうやって教室に行こうと考えていたら、後ろから別の学級の先輩が飛び出してきて追突されてしまいました。避けて様子を見ていると、広い演習場に学園の生徒達がどんどん放り込まれてきます。この学園、こんなに生徒が居たんですね。


 バトルロワイヤル的なお話の導入に似ています。

 一定の人数が演習場に閉じ込められた後、ゲームマスター?なる人物が現れて殺し合いをしてもらうとか言い出したりするんでしょうか。

 状況がわからぬまま先生を残して先に逝くわけにもいきませんが、そうなってしまったら、わたしは生き残ることができるんでしょうか。


 誰も居なければ空間の人が集まってしまったので、わたしだけ魔法で脱出することもできなくなってしまいました。

 困った時は先生に相談しましょう。


「特別措置として、ただいまから三十分間魔法を解除します。生徒は速やかに教室へ向かってください。」


 先生への連絡よりも先に、校内放送が流れました。

 それでも先生に連絡しなければいけない理由がわたしにはあります。

 なぜならば、わたしは教室の本当の場所がわからないのです。


 皆、遅刻は嫌だったのでしょう。先生への連絡を取ろうとしたのと解除の時間が重なって、わたしは一斉にスタートした先輩達に弾き飛ばされてしまいました。


 出鼻を挫かれましたが、まずは先生への連絡。そして教室の物理的な位置の確認をしないと。

 ずっとまっすぐ歩いてるだけで教室に辿り着ける便利さを返して欲しい。


「あなたは!」


 なんということでしょう。先日、先生をキモメガネと罵ったあの先輩が目の前に居ました。





 姿は見たくないし声も話も聞きたくありませんが、あちらは入口でわたしを見つめ、固まっています。あそこを通らないと校舎に入ることもできません。


(アサヒさん、すみません。)


 特別学級の方でも何かあったようで、今すぐにはわたしの救出に来れないとの連絡が先生から届きました。


 好きだと言った相手の優先度が低いのは、普通ならば蔑ろにされていると怒るところでしょう。

 わたしが優先されない理由はただひとつ。苦境を超える事ができると信じて貰えているからです。

 先生にとって今の一番星。ここは期待に応えてみせねば。


(大丈夫です、こっちは自分で何とかしてみます。)


 大丈夫と返答しておきましたが、今の状況が大丈夫かどうかは正直わかりません。

 前は無視できましたが、今回も同じ手が通じるとは思えません。廊下のワープが無いので逃げ切ることができないのです。


 先生ごめんなさい。今は二重の緊急事態です。校則破るのを許して下さい。


「待って!」


 制止されましたが止まるつもりはありません。あなたが話を聞かなかったようにわたしも聞かないことで応えましょう。わたしは魔法でわたし自身をその場から弾き飛ばしました。

 すごい速さで先輩の傍を横切る事には成功しましたが、このままでは壁に激突して全身がバラバラになってしまいます。が、それはもちろん最初から想定済み。わたしがぶつかる壁の前に、先生の部屋にあるとても柔らかくて肌触りと寝心地のいい枕を模したクッションを魔法で作ってあります。


「え、今なにを…?」


 ほぼ同時に使用した二つの魔法に驚く先輩には目もくれず、一旦は競争中止のアサヒ・タダノ、出遅れスタートです。



 いつもならば廊下が切り替わる場所をそのまま走り抜けます。同じように出遅れていたいろんな先輩達にぶつかりそうになりますが、それも構っていられません。

 何度も謝りながら廊下を駆けました。あの先輩は、追いかけてきますね。放っておいて欲しいのに。


「話を、聞いて! キモメガネは、奥さんしか、見ていない!」


 魔法がかかっていない校舎の廊下はとても長くて、教室に辿り着く事も、校舎を脱出することも、追いかけてくる先輩を振り切ることもできません。

 わたしを振り向かせようと、より強烈な言葉を吐いています。先生をこれ以上バカにするのは止めて欲しいのに、わたしではあの先輩の口を止める事ができないのがもどかしい。



 先生が亡くした奥さんを今も愛しているのは知っています。本人からも聞いてます。

 わたしは、そうやって相手を想い続ける優しい先生が大好きなんです。奥さんを捨ててわたしだけを見る先生を求めてはいないのです。

 どうしてわたしと先生の仲を裂こうというのですか。何が目的なんですか。



 進行方向の角や扉から人が来るのを事前に察知するのに魔法を使っているうちに、思考が落ち着いてきました。 

 清涼感のある薬草を肌に塗ったときのような冷たさが頭の中に広がります。


 先輩の目的はもしかしたら、わたしのセイテキ?虐待からの救出や、わたしを救う事で自分が満足するのではなく、先生を痛めつけるところにあるのではないでしょうか。


 執拗に相手のダメなところを指摘して、先生の印象を悪くする。わたしの心を先生から離す。

 嫌いになったり不信感を抱いてしまった相手なら、わたしも色々と拒絶してしまうかもしれません。


 先生が喪失感と絶望を再度味わい、傷付くのを求めている。だとしたら、それはなぜ?

 もしかして、先輩も先生が好きだったり?


 もし足が止まればチャンスです。聞いてみましょうか。




「ふざけるな!」


 わたしの質問への返答は、後ろからの、声にならない声でした。これは無意識に魔力を込めてしまった悲鳴で、魔法の暴発です。

 魔法が使える子供が危険と言われるのは、こうやって感情の発露と魔法の使用を無意識のうちに繋げてしまう事があるからです。

 うわあ、めんどくさい事になりそうだ。


「誰が! あんなキモメガネ!」


 怒りの声に魔力が混ざって刃物となり、廊下を切りつけていきました。

 このまま逃げようとしたんですが、既に進行方向の先まで切り裂かれています。相手の攻撃範囲はとても広い。まずい、逃げられない。


「ええ、そうよ! 好きよ! 好きだったわよ!」


 散々に荒れ狂った後に自白する様は、ミステリー小説の真犯人のようでした。

 好きになった。告白した。奥さんが忘れられないと言われた。その先生も好きだと言ってみせたわたしと違って、先輩はそこで終わってしまった。

 諦められなかった先輩は、猛アタックをしている事を見ていた別の教師に声をかけられた。

 そしてわたしにかけた魔法のようなことをされてしまった。先輩は、やっぱり被害者だった。


「また失えばいい! 今度こそ私が慰める! そして私のモノにする!」


 先生は直接も間接的にも先輩に手を出していません。

 他の教師に言い包められてしまった事には同情しますが、先生は関係ないですよね。 


「先生はわたしを好きだって言ってくれました。」

「キモメガネは私を捨てた! 認めなかった! あなたも認められてない!」


 自分と他人を同一視しているこの人、やっぱり怖いです。

 私たちには同じ人を好きだという感情以外に共通点はありません。背の高さも外見もおっぱいの大きさも違います。



 何度も確認するようですが、この先輩はわたしの話は何一つ聞いてくれません。言葉で止める術が無いのです。

 事情を全く知らない人が先輩の話を信じれば、先生とわたしの事をデタラメに吹聴するでしょう。どうにか、先輩が支離滅裂な思考と発言で動いていることを第三者に伝えなければいけません。


 先輩の魔法で怪我をすればこちらが有利になりますが、石を紙のように切り裂く程すごい切れ味なので絶対痛い。当たりたくないなあ。




 私の言った内容は全て反論されてしまいましたが、押し問答で時間を稼ぎました。

 ここで先輩を加害者にさせてはいけないと思ったので、直接向けられた言葉の刃は弾いておきます。


 校内放送で魔法が再び稼働を始めたことが告げられましたが、それで目撃者が増えてしまうことも意に介さず。攻撃も口撃も止まりません。

 加熱した過激な発言が何を意味して誰に対して言ってるのか、わたしにはもうわかりません。

 この状況を打破できて、解決できる権限を持つ人の到着を待ちます。


「遅くなりました!」


 先輩の言葉に折れずに待っててよかった。やっぱり来てくれました。信じてました、先生。


「なんで、キモメガネが……!?」

「大事な人ですので。」


 姿を見つけて駆け寄ったわたしを抱き寄せ、ただの生徒ではない、大切な一人だと臆面もなく宣言してくれてしまいました。今日は一段とカッコイイです先生。

 先輩による、信じられないものを見る顔、再び。


「キモメガネ、言った、妻が……居るからって……」


 短い呼吸と一緒に言葉を吐き出す先輩は、水から揚げられた魚の、呼吸ができず苦しんでいる姿とよく似ていました。


「何であろうと校則違反は違反です。わかりますね?」

「うそだ、なんで、キモメガネが……嘘だッ!」


 これ以上刺激したら爆発するかもしれないという私の不安は杞憂でした。ぐちゃぐちゃな感情で長時間魔力放出を続けた為に、最後の一言はただの悲鳴に変わりました。


「妻も好いてくれるという想いを受けて僕は決めました。それだけですよ。」


 先生が手を取らなかった理由を、先輩が理解できたかどうかはわかりません。

 そんな先輩への処分は、廊下での魔法の乱用のみにして欲しいとお願いしました。

 セイテキ?被害を受けてしまった先輩への同情とかではなく、いらない恨みを買いたくなかっただけです。




 これは余談なのですが、先生の謝罪はその日の晩まで続きました。

 先に特別学級四人を助けたら、皆にはわたしの元へ一番に駆けつけるべきだったと散々に怒られたんだそうです。


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