身体を触られたけどノーカウントです
教師と生徒との関係を絶対に許さないと憤る人達がいました。
特に、男性教師と女子生徒の間柄にものすごい怒りをぶつけていらっしゃいました。
先頭に立ち旗を振る女性が言うには、真っ当な人間関係が作れない社会不適合者が教師の立場を利用して子供を搾取しているアンバランスな関係であるとか、精神的に未熟な子供が一時の感情に流されているだけだとか、何やら色々と。
遊び扱いされ、酷いフラれ方でもしてトラウマになってるんでしょうか。
年下との歳の差恋愛をする男性を精神異常とまで言い切っています。
詳しい話を聞く気にはなれません。なのでどんな主張をしているのかもよく覚えていません。
そのナントカのナントカが本当に存在していて、今も陰で泣いている被害者がいるのならば、居もしないものを糾弾するよりも先にその子に手を差し伸べ救い出してあげるのが彼女らの仕事のはず。何故「どう思いますか? 許されませんよね?」と不特定多数の相手に訴えかけるだけなのでしょう。
発言も許されない国ならばともかく、この学園都市ならば口に出すのは自由。そして法を破らない程度に行動する事もも自由。自滅した自警団や、わたしが彼らの前で歴史資料を開けてしまった事件以来大人しくなってしまった洗濯会のような活動も、迷惑だけど許されています。
感づかれれば、わたしと先生の間柄にも何か言ってくるだろうな、とは思っていました。
いえ、思ってしまったことで因果を引き寄せてしまったのかもしれません。存在を認識しなければ彼女たちの声はわたしには届かなかった可能性もある。忘れてればよかったと深く後悔しています。
「あなたは騙されている!」
五人分の宿題を先生の元へ届ける道中の廊下で、わたしは出会い頭に指をさされ、先生に搾取されいてると宣言されてしまいました。
何がなんだかさっぱりわかりません。
目の前のお姉様曰く、わたしは先生に、先生を盲目的に好意を抱く魔法をかけられている。不都合な部分の記憶を消されているのでどんな酷いことをされていても覚えていないだけだと言っていました。
覚えていても、おぞましい行為を忘れたいがために自ら記憶に蓋をしているかわいそうな女の子。それがわたしなんだそうです。
言っている言葉それぞれの意味は理解できますが、どう考えてもそれがわたしとは繋がると思えません。
呆けてるわたしに構わず彼女は続けます。変な設定のファイルを出力してしまった時の印刷機のように止まりません。
彼女たちにとってわたしが先生を大好きというのはまさに理想的なシチュエーション。若い先生と懇意の女子生徒。男と女を意識した関係という仮定があれば、疑わないわけがありません。それ故に、無知な被害者であって欲しいという事なんでしょう。
残念ながら、わたしと先生はお互いを支え合う清い関係であり、お姉様方の言う醜悪なものではありません。心も体も繋がる一心同体と言っても過言ではないでしょう。
「急いでますので。」
こういうのに下手に関わってはいけません。
出会ってしまっても、積極的に逃げて他の誰かに助けを乞うのが一番だと先生から教わりました。信頼できるのは先生だけ。それ以外の言葉は全て邪魔です。
「ああ! いけないわ! あの教師の仕業ね!? いいでしょう、キモメガネの呪縛からあなたを解き放つわ!」
芝居のかかった動きと棒読みのような台詞を吐き、先輩はおもむろにスカートをたくし上げ、太腿のベルトから杖を引き抜きました。
かっこいい。その動作と、背の低さに付随した視点の低さでちらっと見えてしまった下着。どちらもセクシーだと思います。
ですが、許可の無い魔法は校則違反だと、そこの壁にも張り紙があるというのに魔法を使うのはいただけません。わたしが張り紙に目を向けたのに気づいた先輩は、詠唱途中の上ずった声で私に告げました。
「許可は下りてますので心配ご無用ですわ!」
長い呪文が終わると、背後から何かがわたしの肩に触れました。振り返りましたが誰も居ません。
この感触、指でしょうか?
服は着たままですし、何かが服の下に潜り込んだわけでもないようで、ただ触られている感触だけが続いています。
見えない指は腋の下をくぐり、前のほう、胸に這っていきました。足の多い虫に這いまわられているかのようです。
状況から察するに、これは目の前にいる先輩の魔法でしょう。見た限りでは単純に何か実体を持つものを操って身体をまさぐるものではなく、わたしの感覚を誤認させる魔法。
他人に干渉するのですから、それなりに高度な制御が要求されると思われます。
それにしても、気持ちの悪い事この上ない。
まだ育つ余地も感じられない胸ですが、何だかよくわからないものにいつまでも揉ませてやるほど物好きでもありません。
気付かれぬように、わたし自身の触れられる感覚を鈍らせましょう。感度ゼロではどこかにぶつけても気付けないので、ギリギリの所で抑えます。
よし、触られてる感覚は無くなった。直接揉まれてないから問題ありません。ノーカウントです。
自信満々に語る先輩の話では、これは身体の記憶の想起らしいです。
好きな相手に部屋に連れ込まれて幸せなかもしれないが、実はこうやってみだらな行為を行っている。記憶を操作されているので気付けていないだけなのだ。というお話です。
図書室の本の中にそういう物語があったような気がします。確か、催眠とかいうやつでしたっけ。
毎晩会いに行くのだけど、扉を開けてからの記憶が抜け落ちていて、彼氏の犯罪に手を貸していた事に最後まで気付かないというすごく胸糞の悪い展開でした。
何でもいいから、早く解放して欲しい。ノートを持つ手がそろそろ辛いんです。こっちも感覚鈍らせれば大丈夫かな?
「私はあなたの味方。協力しましょう。あのキモメガネを学園から追いやる為に。」
「お断りします。」
茶番に次ぐ茶番の後、ようやく話の本題に入ったので丁重にお断りしました。
自分で発言してても気分が悪そうなのに、その不快なものをわたしの先生と結びつけないで欲しいです。
そのような酷い男も、被害者も、もしかしたら居るかもしれません。
でも、それは先生とわたしには当てはまらない。手を伸ばす先を間違えています。
だいたいキモメガネって何ですか。先生は格好良いじゃないですか。
信じられないものを見たようで、それはもう凄い顔をしていました。カメラがあったら写真に撮って、写真の投稿コンテストに応募してもいいくらいの芸術的な顔でした。
「そんなにひどいことをされてもまだ信じるって言うの!?」
感覚を鈍らせていたので何をされているのかわかりませんでしたが、今現在、彼女の魔法はわたしの下腹部から股の間にかけてを念入りに掻き回していたり、太い棒状の物を突っ込んでいたりと酷い状態なんだとか。
そんなものを股に入れるなんて恐ろしい発想を思いつくこちらの先輩のほうがわたしは怖いです。肛門とは出す為にあるのです。
「あなたはおかしいわ! 絶対ヘン!」
「変も何も、なにも不快なことはされてませんので。」
「あなたの話は聞いてない!!!」
狂ってしまったわたし自身の認識は必要ないそうです。大事なのはセイテキ?被害を認識したわたしであると。
本当に、何がなんだかわかりません。
先生に肯定的な言葉は全て子供の戯言と一蹴するその口で被害を訴えろと言えてしまう無神経さ、無責任さは苛立たたく思います。
それに、わたしの先生への想いを何も知らない子供の一時の感情だなんて言わないで頂きたい。確かに立場上は弱い存在ですが、わたしは一人の人間です。わたしという存在の否定は例えサワガニさんであろうともさせません。
「急いでますので、失礼します。」
「目を覚まして! 騙されてるのはあなたなのよ!?」
求めている答え以外は聞いてくれないのなら、これ以上お付き合いする意味もありません。どんなに議論を重ねようと考え方を変えないのであれば時間の無駄です。
わたしからすれば、目を覚まして欲しいのはあなたのほうです。
以上が、今日の宿題提出が遅れた理由でした。待ち伏せされていたのは由々しき事態です。
「使う廊下、変えましょうか。」
この学園の校舎、なんと魔法で最短ルートの一直線から難攻不落の迷路に至るまで、あらゆる形に変更することができます。
特別学級が他の生徒との関わりが少ないのは、他の生徒達があまり使わない廊下を利用していたから。誰かと会えばほぼ喧嘩になるナミさんや、崇拝が行き過ぎて身体の一部を採取されそうになっているクロード君を守る為に重要な措置でした。
使用してる場所を特定されていて、他との接触が増えるとなれば、これ以上のトラブルが起きる前にルートを変えてしまうのが一番だと仰っていました。
全く同じ感覚で同じ距離を歩く事ができるので、利用する私たちに不都合はなにひとつありません。
早急に対策をお願いしたいと思いますが、それとは別に質問があります。
「お腹の下とかお股を触ったり、お尻の穴とか前の穴に棒を入れたり出したりするのはどういう意味があるんでしょう?」
みだらな行為として状況を再現したという名目の、あの先輩の魔法なんですが、何であんなにも執拗に気持ち悪い動きでワサワサ触る必要があるんでしょうか。そこがわかりません。
先生に触られてもあの身の毛のよだつような感覚はありません。それも謎です。
いろいろ確かめようと考えて、先生の手をわたしの胸に宛がおうとしましたが、抵抗されてしまいました。先生はおっぱい好きではないのですか。巨乳派なのですか。わたしの平坦な身体では勃たぬというのですか。
「彼女達から余計な攻撃をされない為にも早まらないでください!」
具体的に何がどういう状態なのかはボカされましたが、あのお触りは大人同士が愛を確かめ合う行為であり、どちらかの一方的な感情を押し付けた状態で行為を行ったので気持ち悪く感じたのだと説明してくれました。
納得はできます。先輩からわたしに向けられた感情は確かに一方的でした。
捕まえていた先生の手は解放します。パイタッチは次の機会に。
あの指遣い、想像にしては妙に臨場感がありました。
信頼していた人物にああいうことをやられたのでは、せっかく膨らませていた淡い想いも砕け散ります。
もしかしたら、先輩はわたしを助けようとしたのではなく、わたしを助けるヒーローになる事で自分が助かりたかったのかもしれません。
例えそうであっても、先生をキモメガネと言い切ったのは許せない。
わたしの好きを否定した時点であの人とは絶対に分かり合えません。もう話す気にもなりません。
ヒーローになるのでしたら勝手にどうぞ。
でもわたしを巻き込まないでください。




