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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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揺れる太陽

 おはようございます。

 昨日も色々ありました。アサヒです。

 楽しみだった料理教室も先生の事情で中止になり、わたしはその後そのまま自室に追い払われてしまいました。



 昨日のこともあったけど、今日は今日で何かおかしい。鳴ってるはずの目覚まし時計の音がとても遠いのです。

 壁を隔てた隣の部屋の時計が鳴っているかのように、ぼんやりと聞こえます。


 ああそうだ、昨日の変態さんの声を遮断したときの魔法をかけたままだった。聞こえるようにして……



 いや待て。これは本当に声を遮る魔法の解き忘れだろうか。

 そう思ったら、手が止まってしまいました。


 自身さえも騙して窮地を脱する作品があっただろう。的確な単語があったはず。そうだ、自己暗示だ。

 


 自分が万能であるようにと自身で魔法をかけている可能性は?

 昨日指摘された事で何か魔法が解けてしまったり、制御ができなくなってしまったなんて事にはなってないだろうか?

 考えれば考えるほど、運動した後のように身体が重くなっていきます。



 もしかしたら、今目の前にある光景が、感じているものが全て夢か幻かもしれない。


 本当のわたしが居るのは強制収容所で、わたしは投獄された身で。硬くて汚いベッドで監視員に叩き起こされ、食事の遅さで罵倒され、従事している作業の遅さでもやはり罵られ、毎日ガス室送りになる恐怖のあまり、幸せな夢を見ているのかもしれない。


 心の病で世間から隔離されていて、壁から天井まで全面真っ白の、窓は格子が嵌められ鍵もついてない部屋で目が覚めて、なんだかよくわからないお話を毎日毎日聞かされ続けているのかもしれない。


 今自分が認識している自分は、本当の自分と言えるの?

 だめだ、わからない。

 動いたらわかる。でも、今の学園都市の生活が夢だったらどうなる。どうするんだアサヒ。


 頭は痛いし身体は重いしで、目覚ましが止まっても起き上がる事ができませんでした。




(アサヒさん、おはようございます。)


 姿は見えないけど、先生の声がしました。

 幻聴でしょうか。いえ、認識できている世界の中では本物です。


 声を使わず先生とお話する魔法は、元はといえば先生が持っている探査の為の魔法をわたしが外付けで利用しているだけ。双方向でのアクセスはできて当然なのです。


(無事ですか? 返事ができるのなら返事を、できないのでしたらそのまま無言でお願いします。どうぞ。)

(おはようございます。自分の部屋です。二度寝しちゃってました。ごめんなさい。どうぞ。)


 食堂にも教室にも現れないので、また何かトラブルに巻き込まれたのではないのかと心配してくれていました。


 そうだ、夢の中には先生が居る。皆が居る。もうすぐ覚めてしまうのなら、せめて大好きになった人の顔を見ておきたい。

 目覚めて厳しい現実があったのなら、その時にいろいろ考える事にしよう。


 何も問題はなく、ただの寝坊だと答え、とにかく重い身体を起こします。

 頭も重い。指も動きが鈍い。それになんとなくだけど、身体が熱い。着替えも上手くいかない。最後くらいちゃんとした格好してお別れしたいけど、リボンタイも靴下の向きもめちゃくちゃです。まあいいや。




 扉を開ける度、その先が全く別の光景になっていないか心配でした。地続きな事に胸をなでおろしました。

 ずっと続けていたので、教室に着いたのは先生からの連絡からかなり後になっていたと思います。


「おはようございます。遅れてごめ、んなさ、い?」


 言おうとした言葉は全部言えませんでした。足に力が入らなくなってしまいました。この夢の世界に意識を保つのもそろそろ限界のようです。

 今日もまた、先生に抱きかかえられました。先生はいつも倒れるわたしを支えてくれます。誰かに甘えたいというわたしの願望が叶ったかのようです。


「具合が悪いのなら休んでてもよかったのに。」


 それはそうかもしれませんが、これで最後かもしれないので。


「医務室に……えっと、僕が運んできます。皆は自習で。」

「了解っす!」

「後で私達も行きますね。アサヒさんをお願いします!」


 ここから離れたくない。最後は教室がいい。起きるまでは皆を見ていたい。

 感触を忘れぬよう、先生の腕を掴みました。これは薄い毛布でも雑な造りのベッドの柱でもない。誰が何と言おうと先生の身体だ。魔法が解けたとしても、この事実を揺るがしてなるものか。


「大丈夫です。皆も僕も傍に居ますから。」


 ありがとうございます先生。大好きです。

 でも、教室が遠ざかっていく。もう戻れない。夢が終わっちゃう。




 水に浮いているかのようにフワフワした感覚が心地いい中で目が覚めました。

 暗くて硬くて寒い、寝具と呼ぶのも躊躇われる布の上ではなく、柔らかくて温かい布団に包まれています。


 視界の隅には先生がいるような気がしましたが、いま認識しているものが夢なのか現実なのかわかりません。


「自分の名前言えますか。僕がわかりますか。」


 わたしがアサヒであり、先生が先生だという事を告げると、意識があると判断した先生からの、とても手短な説明がはじまりました。

 熱が出てた。教室入ってすぐに倒れた。先生に運ばれてきた。以上。

 今こうやって話を聞いている間も変わらず朦朧としてるので、今日は休んでくれということでした。



 話を聞いているうちにずっとフワフワしてた意識がはっきりしてきました。頭が痛くて考えがまとまらないので、これが夢かどうかはひとまず置いておきましょう。

 医務室に運ばれたのはわかりました。ではなぜ先生はまだここにいらっしゃるのでしょうか。


「離してくれませんでしたので、このままお邪魔してます。」


 先生が手を上げると、わたしの手が引っ張られて持ち上がりました。

 寝ている間も、ずっと先生の腕をしっかり掴んでしまっていたようです。これは大変失礼しました。


 窓の外は陽が傾き始めていました。あれからずっと眠ってしまっていたようです。

 先生には一日中付き添いをさせてしまいまいました。本当に、迷惑もいいところです。


「すみません。」

「ごめんなさい。」


 謝罪の言葉が被りました。私と先生、何故かいつも同じタイミングで口に出てしまいます。

 わたしが謝るのは今日一日の付き添いへの謝意。この小さい手ならば先生の力でも引き剥がせたはずなのに、ずっと付き合ってくれたことに対して。


 先生のほうはというと、ここ最近のトラブルの対応。

 閲覧禁止になっている資料を見てしまったり、昨日の暴言にも等しい強い言葉を浴びたわたしへのフォローを失念してしまっていたと、頭を下げられました。




 そうだ、思い出した。思い出してしまった。

 熱のせいもあるんでしょうけど、いま、わたしは何を信じていいかわからなくなっています。


 こんなことを誰に相談すればいいんでしょう。わかりません。

 相談する相手を誰にするかを相談するなんて、もっと意味がわかりません。


 それに、言ったところで何をバカなと悩んでいる事さえも笑われたりしてしまわないでしょうか。

 自分の方が辛いからお前の悩みなど比較にもならないと一蹴されないでしょうか。


 わたしはわたしがわからない。

 先生を好きになる魔法を自分にかけているかもしれない。この世界そのものがわたしの夢かもしれない。

 何を言ってるんだろう。自分でもちょっとよくわからないです。




 どこまで何を伝えたのかもわかりません。めちゃくちゃでぐちゃぐちゃです。

 自身の魔力を抑えられないポールやマッシュなら、ここで医務室をめちゃくちゃにしてしまうくらいはやってしまうかもしれない。


「アサヒさん、いいですか。」


 まだ掴んだままだったわたしの手を、先生は両手で包みました。

 いつまでも掴んでいては迷惑なのに、離せていませんでした。自分の手なのにそれができません。


「まず最初に。僕はアサヒさんを信じます。」


 先生は、先生を好きだといつも名言しているアサヒ・タダノを信じると言ってくれました。でも、わたしは……

 最後まで聞いてくれと、反論を制してから先生は続けました。


「アサヒさんは、僕を信じてください。僕が信じるアサヒさんをアサヒさん自身が信じる事になります。」


 それは相互に信じあうだけで何の問題解決にならないのでは?

 先生も説明するのは辛いようでしたが、言葉に詰まりながらゆっくりと説明してくれました。




 アサヒ・タダノは先生が大好き。

 魔法を使っていなければ、それはそのままアサヒの感情である。


 そして、なんでもできる魔法で自分の感情を偽っているとしても、それには理由がある。


 アサヒはとても賢い。だから家族から虐待とも言える育て方をされた環境から、自分が人を信頼できない事も理解していた。そのままの自分では人間関係を築くのは無理だと判断した。

 それでも好きでいたいから、誰かを好きになりたいから、自身に魔法をかけた。


 もし魔法で自分の認識を書き換えていたとしても、アサヒの先生に対する感情は、やはり大好きなのだ。




 先生の仮説は以上になります。

 とても納得してしまいました。目から鱗です。


 騙される可能性も、匿名で忠告してきた誰かの言う通り騙されて利用されて捨てられる可能性もあったのに、自分自身に魔法をかけてまで人を好きになろうとしただなんて。無茶苦茶です。でも、とてもわたしらしい思考です。



 今更なんですが、先生にとってわたしは迷惑ではないでしょうか。

 先生には好きな人がいました。もういなくても、彼女が好きだという気持ちは変わりはありません。今も同じはず。


 わたしだけを好きになれ。彼女の事を忘れて生きろ、新たな出会いを見つけろとは言えません。わたしは先生を尊重します。

 ずっと家族の事を想い続ける先生も大好きです。なんなら今からでも奥さんの事も好きになります。もういなくても、二人まとめて愛します。

 わたし以外の誰かを好きな先生も、わたしが大好きな先生なのだから。


「迷惑なんてとんでもない。」


 ずっと助けられている。何かある度に真っ先に問題を解決してくれるのはいつもわたしで、何も返せていないのが申し訳ないと。

 わたしの手を包んでいる手に力がこもってました。大人の力で挟まれるとちょっと痛いのですが。




「先生、大好きです。」

「僕もアサヒさんが好きですよ。」


 初めて会った日から待ち続け、およそ半年くらい。

 ようやく、先生からの返事が聞けました。

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