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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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黒歴史

 突然ですが、神というものを信じますでしょうか。

 わたしは信じません。


 今、学園都市でこうして伸び伸びと暮らしているのは幸せですし事実です。

 仮に運命を司る神が居て人々に幸福と不幸を公平に分け与えているとしたら、今の幸せの代償の先払いとしての実家での家庭内暴力は全く釣り合いが取れません。全然足りません。



 後先考えず魔法を使ったのは、庭に植えていた花を踏み潰されたあの時が初めてです。

 目覚めても身体が動かず、やっと動けるようになった頃にはわたしの意思に関係なく全てが決まっていた理不尽さをわたしは許しません。


 報復のつもりはないのだけど、許すつもりもない。

 どうも先生以外の大人には理解しがたい考え方のようです。


 許さないのならば復讐をしたいのだろう。

 関与したくないというのは、今までの行為を赦す事だろう。


 行動と認識を関連のあるものとしてインプットされているようで、なんとしてもその定義をわたしに肯定させようとしてきます。

 いまの先生との生活があるのだから、あんな家族はもうどうでもいいのです。



 魔法使いの体系には、最初にその技法を編み出した開祖という存在がいるんだそうです。

 大人達は口を揃えてこう言います。彼らの教えに沿う事で同じ奇跡を行使できるのだと。


 今幸せなので幸福を掴むための宗教にも興味はありませんが、開祖と宗教上の神は似ていると感じました。



 わたしの何でも願いが叶う魔法は今のところ、誰にも使う事ができません。

 あの後も数回特別講習は行われましたが、無詠唱で物をすこし動かすという小さな奇跡が起きる程度でした。


 わたしを開祖と定義し、ワガママをなんでも聞いていたらいつか同じ魔法が使えるようになるのではないかと考えたりもしました。

 そう思っただけです。実行しません。

 わたしは何でも言う事を聞く召使いや下僕が欲しいわけではありません。自分自身がすぐバテるのでそれほど大掛かりな事はできませんが、それを踏まえても全部魔法で事足ります。


 神とか開祖とか、そんなことよりも先生の体調が心配です。

 いきなり倒れる事はなくなりました。でも頻繁にフラフラしています。食の細いわたしよりもまともな食事は摂れているはずですが、やっぱり心配なんです。




 学園内で一部に熱烈な支持を得ている宗教みたいなサークル活動により、特別学級が授業を行うのが困難な程の被害が出てしまいました。

 サークル名は『純粋の魔法使いによる魔法社会清浄の会』。長いので洗濯会としましょう。

 


 洗濯会は魔法使いは純血のみが名乗ることを許されるものであり、開祖の魔法を汚す混血や両親が一般人の者達は魔法を捨てて生きるべきである。というスローガンを掲げています。

 その標語の行先は、両親が普通の人のナミさんや、普通の人の上に魔法を使えない(事になっている)わたしのような存在はギロチンにかけるべき大罪人と糾弾する事に繋がりました。なぜか、そうなってしまいました。

 かつての自警団と同じく、一見まともに見えるけど物凄い迷惑なサークル活動です。


 呪文を唱えて魔法を使う事を広めた開祖が居ます。純血とはそんな人の弟子の子孫たちです。

 魔法陣には魔法陣での開祖が居ます。その信仰心は宗教でいうとこの神に対してのそれによく似ていました。


 両親が魔法使いで、全ての権利を持つ者を純血。人間と関係を持ち魔法使いを汚した者を混血、両親から先祖まで魔法使いではなかったのに魔法が使えるようになったわたしやナミさんのような存在を突発と、彼らはそう呼んでいます。


 彼らは突発が特に嫌いです。新たな開祖になる可能性があるからだと。自分たちの神の格を落とされたくないと必死なのです。




 その日はとてもタイミングが悪かった。先生の体調が悪い日と、彼らが不必要に直談判に来た日が重なってしまった。

 体調の悪さと自身の生徒を貶されるストレスに曝され、あまりにも辛そうな先生の姿をわたしは見てられませんでした。



 わたしは先生を庇うように彼らとの間に立ちました。

 何か言っていますが聞く気にもなれませんので、以前ナンパされた時に行った、あらゆる音を遮断する魔法で耳を塞ぎました。


 さて、どうしましょうか。

 彼らの身体にちょっとでも触れれば、暴力を振るわれたと大騒ぎします。地位のある人物が向こうに混ざっていれば揉み消されます。こちらは自警団の時に批判された事なのですが、そう簡単に状況は改善されません。

 純血だ混血だとか出自は魔法使いとしての素質に何ら関係は無いとわからせればいいのですが、おそらくこの人たちも、わたしの発言は世間を知らぬ井の中の蛙によるものだと一蹴してしまうでしょう。


 ただ脅かしたのでは、転んで怪我をした後、それをわたしからの危害だと宣う。

 相手に危害を加えず、先生にも迷惑をかけず、この場をどうにかする。すごく難しい宿題です。


「アサヒさん、僕は大丈夫ですから。」


 この場で唯一遮断してない先生の声が後ろから聞こえます。振り返ってみると、なんとも言えない表情の先生が居ました。

 とても疲れた顔をしていても、生徒達には絶対に手を出させないという強い意志は感じられます。嬉しいのだけど、そんな辛い思いをいつまでもして欲しくはありません。

 妻を失った事を未だに苦しむ先生にも、幸せになって欲しい。



 なんでも願いが叶う魔法。

 何がなんでも叶うだ。先生を幸せにはできていないじゃないか。


 こんな使えない魔法ならば必要ないと思った事はありません。この魔法が使えなくなってしまったらわたしは何もできないただの女の子になってしまう。そうなってしまったらもう先生を幸せにすることもできない。わたしの生きる目的が失われてしまう。



 はじめて全力で魔法を放った日、花壇を潰された日のような何かが、身体の中でぐるぐると渦巻いています。

 今この場でこれを放ったら、何が起こるかはわたしにもわかりません。


 それでも、これは放たなくてはならない。そうとしか思えませんでした。

 わたしは何でもできるんだ。大好きな相手の一人や二人、幸せにしてみせろ。


「アサヒさん、やめ……!?」


 先生の制止は間に合いませんでした。ごめんなさい先生。またやってしまいました。




「な、なんだこれは……!?」


 彼らの周りに、横に長い長方形の板がいくつも現れていました。実体を持たないらしく、触ろうとしても触れていません。


『混血は排除せよ! 排除せよ! 根絶やしにせよ!』


 それは突然現れた板の一枚からの音声でした。 

 集団にどよめきが起きました。それは確かに純血のみが魔法使いであると宣言していましたが、彼らの言葉ではありません。では何なんでしょうか。よくわからない魔法を使ってしまったわたしにもわかりません。


 別の一枚に、学園の制服を着た集団の映像が映りました。彼らは様々な道具を手にして、一人で怯えている私服の子供を囲っていました。

 彼らが何をしようとしているのか、一番近くで見ていた数人が気付いたようです。実体の無い板にしがみつきました。


『淘汰せよ!』


 降り下ろされた鈍器は一撃で相手を絶命する事ができなかったようで、鮮血が飛び散る映像は息絶えるまで続き、泣き声が割れんばかりの大音量から段々となくなっていくまで、その場に響き渡り続けました。

 わたしが叩かれていた時も、こうやって泣いたけど止めてくれなかったなあ。


「まさか、これ、混血や突発が迫害されてた時代の映像?」

「いやいやいや、あんな時代に映像で残すとか無いだろ。」

「でもこの女子の制服はあの時代の頃のデザインだし、再現映画にしては、ちょっとグロいっていうか。」


 映像は止まりません。スプラッターなホラー映画顔負けの集団による殺戮映像が引っ切り無しに流れ、自らの行いを正義と疑わない者達が揃えて言う『修正せよ』の言葉が鼓膜を貫いて頭の中にまで突き刺さってきます。


「もうやめてくれ!」


 とうとう我慢できなくなった誰かが叫びました。

 わたしも今すぐ止めたい。同じくらいの歳の子供が痛めつけられるのは見ていて気持ちのいい光景ではありません。

 でも、これを止める事ができません。自分でも何をしたのかわからないんです。

 

『焼却せよ! 消毒せよ!』


 一番大きかった板に映った映像で、寮が燃えていました。

 今の学生寮ができる前、一度火事で全部焼けてしまった事があるという話を聞いたことがあります。

 窓から助けを求めて腕を振る小さい何かが居ます。あ、落ちました。落ちて動かなくなったそれに向けて、彼らは……




 その非道が見せつけられる前に、動画を見せていた板が一斉に消滅しました。

 わたしの魔力切れです。身体から力が抜けて、崩れるように倒れるよりも前に先生に抱き抱えられました。


 すごく嫌なものをみてしまいました。夢に出そうです。

 わたしのような子供の精神衛生上とても悪いものだったんですが、いったいなんだったんでしょうか。


「俺達と、同じ主張だった……」


 衝撃を受けたのは洗濯会の皆様も同じでした。


 魔法社会の正常化として、純血のみに価値がある世界を求めて暴走した。

 かつて全く同じ主張を唱えた集団があって、過激な言動があんなにも酷い結果に行き着いたのかもしれません。


「皆さん、今日はお帰り頂けますか。」


 先生が言ったのはそれだけ。何で解散しないといけないのだとか、今の魔法がなんなのかを解説しようとはしませんでした。

 抱きかかえられたまま、青ざめた顔で去っていく洗濯会をわたしも見送りました。




「あれは今は閲覧禁止の資料です。僕が生徒だった頃には教材として見せられました。」


 先生の部屋で、産まれたばかりの馬とか鹿のように、震えながらも立てるまでに回復したのを見て安心を意味するため息をついてから、先生が教えてくれました。


 あまりにも過激な凶行を見せられる事で大きく傷ついてしまう生徒が多い事から、先生の代を最後に授業が無くなってしまったのだと。

 この授業を受けなかった事で、学園の中では等しく生徒であり生徒は平等であるという大前提が揺るがされるようになってしまったという事も。


「どこでアレを?」

「わかりません。先生が辛そうなのを見てたら、家の庭を壊した時みたいにぐるぐるってなって、それを身体の外に出さなきゃいけないと思って出したら、アレが。」


 何を言ってるのか分からないと思うけど、わたしにはそう説明するほかありません。

 洗濯会の主張を聞いて、先生があの映像の事を思い出して、わたしが魔法でその記録映像を閲覧禁止の区間から引っ張り出した。

 こう考えれば辻褄は合います。


「情けない先生ですみません、本当に。」


 違う。先生は頑張ってるんだ。さっきも状況を利用して上手く丸め込んで洗濯会を追い払ったじゃないか。絶対に情けなくなんてない。



 伝えようと思ったんですが、それよりも早く意識が遠のいてしまいました。

 今日も先生の部屋にお泊りです。


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