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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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太陽を見た男

 特別学級では、五人いる中で一人以外はニックネームで呼び合っている。


 本名で居る子が女王として君臨し四人を従えているのか、彼女だけ与えられなかったのかはわからない。

 彼らは自分達の学級だけで授業を受けていて、業間時間も会わないので関わり合いが無く、事情が掴めない。



 本名で呼ばれている娘、アサヒ・タダノは魔法が使えない。

 この疑問に対しての答えは風の噂で推測することができた。

 この魔法学園に入学したにも関わらず魔法が使えないといのは前提からありえない。魔法の素質を持っていると勘違いして入学してくるただの人間はよくいるんだそうだ。きっと彼女もその一人に違いない。

 厄介払いの特別学級、その中でも異端な彼女は村八分なのだ。


 自分がそうであったように、きっとそうなのだろうと、勝手にイメージしてしまっていた。



 ある日、人が少ない食堂に、特別学級の生徒が二人居た。

 学園の制服は所属によってネクタイやリボン等、色が学級ごとに違う。彼らのそれは夕日のような紅色だ。

 天然パーマのナミと呼んばれている少女と、苦労人であることからクロードと呼ばれる眼鏡の少年が会話している。

 例によって、どちらも自分たちの事は本名では呼んでいない。


 卓に置いたままストローでカフェオレを啜っているナミと、ずっと突っ伏しているクロード。

 魔法が使えない者、不能者であるにもかかわらず自分達を従える立場に居座り幅を利かせる厄介者を追い払う為の相談だろうか。積極的に意見を交わしているのは微笑ましい。


 そこに、話題の人、大きな本を一つ抱えてアサヒ・タダノが食堂に現れた。

 何と間の悪い事だろうか。今食べてる日替わり定食を完食しなければこの場を離れられない。今から始まるであろう彼女に向けられる言葉の暴力を私も聞かなくてはならない。昔を思い出して飯が不味くなってしまう。


「アサヒさん、こっちこっち!」


 驚いた。アサヒを見てしまった瞬間、薄汚い生物に向けるような冷たい視線を向けるはずだったナミが、手を大きく振って自分の存在を知らせている。クロードもなにやら嬉しそうだ。

 どういう事だ。さっきまでの議論は陰口ではなかったのか。


「すみません、お待たせしました。」


 アサヒは自分より大きい本をテーブルに置いて、引かれた椅子に腰かけた。その動作には躊躇いが無い。嫌われている事を自覚していないのだろうか。いや、違う。


「それで、見つかった?」

「ナミ、落ち着いて。」


 好物を前にした犬のような顔で本とアサヒを交互に見つめるナミを、遅れて来たアサヒにも飲み物を渡したクロードが宥める。

 これが全て演技であれば大したものだが、一連の動作には全く違和感がない。あるがままなのだ。


「この本で合ってると思います。あと、説明は二百五十八ページに。」

「にひゃくごじゅう……はち……あった!これだ!」

「ありがとうアサヒさん! これでなんとかなる!」


 ふたりに感謝されたアサヒは、はにかんでいた。




 私の食事は冷めてしまっていた。口に運ぶ手が止まっている。それほどに衝撃的だったのだ。


 魔法学園は、特別学級はアサヒ・タダノを鼻つまみ者としていたのではないのか。

 彼女は教師に媚びを売り、立場を身に着け、横柄な態度を取っているのではなかったのか。

 四人は、いや、後の二人がどう考えているかは分からないが、不能者を貶していないのか。

 強い魔力を持つ彼らにとって、普通のヒトの家から生まれ、魔法が使えない彼女は差別の対象ではないのか。

 今の会話は、介助を要する同級生と、それに手を差し伸べるアサヒちゃん係のものではない。

 断じて、違う。



 魔力が弱いことをいつも弄られていた。

 魔法が使えぬことをバカにされていた。


 魔力が極端に弱かった私は在学中、雑用ばかりしていた。教室にはそうすることでしか居場所が無かった。

 一時は率先して行動したことが教師に認められて学級での地位を得た。だが妬まれ引きずり降ろされた。わたしの天下は一週間もなかった。

 友人と思っていた者に裏切られ、どこまでも蔑まれた。

 一度失敗した者は再起できぬ。全て捨てても捨てたものを拾い上げら押し付けられる。汚いものとして永遠に縛られる。




 主は、サヴァン・ワガニンはそんな私を受け入れてくれた。

 学園に講師として応募したのは主の命令。全盛期のサヴァン・ワガニンの力を取り戻す為にこの学園の秘宝を手にすること。


 学園の中枢を暴くために、関係者になる必要があった。

 経歴の汚れ切った私でも学園は快く受け入れてくれた。なぜなのかはわからない。だが好都合だった。


 この学園にはいい思い出など何一つ残っていない。ここで不能者の認定を受けた事で全て終わってしまった。いや、全てがが始まったと言うべきか。


 私が奪えと命じられた秘宝とは、学園都市の機能全てを統括する大魔法。

 奪えば都市が丸ごと沈む事になる。多くの人間が死ぬことになる。




 夢でもいいからあって欲しいと願ったがずっと叶わなかった。

 絶対にありえないと考える事も止めていた、理想の光景がそこにあった。


 学園都市の最期を前に、いいものを見た。

 古の伝統を誇る魔法使い達による停滞は終わった。時代は変わったのだ。


 今からこの幸せな光景を壊すのは忍びないが、破壊する。

 たとえこの場だけの光明で、それが数日のうちに失われようと、いずれ明かりは魔法使いの社会全体に届くであろう。






 隔離された五人の様子は映像として壁に写されていた。

 この箱は本来学園の試験用として作られていたらしく、このように教師が進捗を確認しつつ、採点する仕組みのようだ。本来の用途としては、戻って来れた生徒の前に立ち、拍手で出迎え試験突破を讃えるのだろう。


 特別学級の生徒が突破するのを待っていたのだが、一人だけ様子が違っていた。アサヒ・タダノだ。

 彼女は教師だけでなく、理事長とのパイプまで持っていた。それだけじゃない。呪文も魔法陣も、道具すらも使わずに魔法を使ったのだ。


 あいつは、不能者ではなかった。それどころか、ただの魔法使いよりも先に居た。まだ何も知らぬようだが、あの力は開祖のものだ。

 魔法使い達の新たな流れを作る存在になれるのだ。



 私の期待は裏切られた。魔力を持たぬものでも受け入れられる世界など、やはり幻想だったのだ。

 ちょっとでも躊躇ってしまった自分が情けない。


 まだ幼い命だが、ここから先、私のような苦しみを味わう事になる。これは間違いない。だからここで終わらせてやろう。

 これは、私の優しさだ。



 一番に攻略を終えて戻ってきたアサヒを組み伏せる。

 時間差で攻略してきた特別学級の生徒達に体当たりされたりしたが、そんなものは主の力を借りた私にはそよ風程にもならない涼しさだった。


「クロード君、任せた!」

「任された!」


 私の目的が秘宝であると見抜いていたのだろう、アサヒは私の隙を突いて鍵をクロードに投げ渡していた。

 何倍もの体格差がある男に組み伏せているのに、怖がりもしない。身体も痛いだろうに泣き叫びもしない。


 聡明な指揮官、アサヒ・タダノよ。君は一つ勘違いをしている。

 私の目的は君だ。



「奴が居るだろう。我が出る」


 主が話しかけてくる。だが主がここに来るのはまだ早い。この場に居る全員を殺し、理事長達の目をこの部屋に引きつけなくてはならない。


 外部との連絡が取れるアサヒを抑えた今、外の理事長達には中の状況は把握できない。

 それはこちらの勝利という意味だ。他の四人の攻撃など、驚かされはすれど作戦遂行の障害にはならない。主も、足の下にいるアサヒも、理解できるだろう。


 学園が滅べばどのみち死ぬのだ。今死ぬか後で死ぬかの二択。ならばせめて友人と一緒に埋めてやろう。




「皆! 目瞑って耳塞いで! 口も閉じてて!」


 私が杖を手を取ったのと、足下のアサヒが叫んだのは、どっちが先だったのかわからない。

 わからなく、なってしまった。



 目の前で、爆発が起きた。



 何が起きた? 誰がやった?

 さっき何か指示を飛ばしていたアサヒが何かした。そうだ、そうに違いない。


 だが何が爆発した? 目が眩んだ。真っ白で何も見えない。弾き飛ばされた。壁に背中をぶつけた。息ができない。

 アサヒがどうなったかもわからない。まさか、自分の死期をも悟り、自身を代償として私に一矢報いたとでもいうのか。


 わからない。身体が、目が、○○が、××が、いたい。痛い。わからない。

 何が起きた。何がどうなった。思考が纏まらない。どんどん崩れていく、熱さに焼かれていく。


 主よ、傍まで来ているのなら助けて欲しい。こんな汚らわしく今も子供に手をかけようとした私を助けてくれるなんて、烏滸がましい考えなのは理解している。だが、それでも……






 私の名前はメルベス。

 ついこの間まで学園の講師をしていたが、もう戻れない。

 あれからサヴァン・ワガニンをはじめ、組織からの連絡も無い。帰る場所も失ってしまった。


 挙句の果てに、自分自身が今どこに居てなにをしているかもわからない。

 魔法学園に入学などしなければこんなことにはならなかった。因果応報というやつなのだろう。

 わかる事はただひとつ。



 そこにいるだけで温もりを分け与えている存在。 

 在るだけで周りを強く照らす存在。

 時には災害の種にもなる強力な存在。


 強い光を、温かさを、私は知っている。



 そうだ、太陽だ。


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