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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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英雄はモテる

 おはようございます。包帯も解かれ、まだあちこち痛いけどほぼ元通りのアサヒです。

 特別学級が全員休みで学級閉鎖になっている数日の間で、わたし達を取り巻く情勢が大変なことになっていました。



 この学園、秘密を秘密にできません。情報のセキュリティ管理がとても酷いです。


 サワガニさんの手先として動いていたメルベスさん、わたし達とは関係ありませんでしたが、講師として学園で働いていたそうです。

 職員会議でどこまで情報が共有されたのかは分かりませんが、彼がサワガニさんの手下だったという事実も、学園に隠された秘宝を巡る戦いがあったのも大勢に知られていました。

 職員のうちの誰かの口が軽かったか、口の軽い誰かに話してしまったんでしょう。



 生徒数人が不審な動きをしているメルベス講師を問い詰めたら暴れ出し、激闘の末に怪我人を出しつつも追い払う事に成功して学園の秘宝も守られた。メルベス先生は現在捜索中。

 特別学級の生徒による校則破りの小さな大冒険は、怪しいよそ者をやっつけた武勇伝に置き換わっていました。



 その武勇伝なのですが、内容がめちゃくちゃです。


 メルベス講師を追い詰める際、先陣を切って立ち向かったのはクロード君という事になっていました。

 じゃんけんに負けて食堂の裏口の扉と空の箱を開けたり、わたしが投げ捨てた鍵のひとつを受け取って最後まで守り切ったのは確かに彼です。それがサワガニさんを倒した英雄としての前例と混ざりあって曲解されたのでしょう。


 話によると、普段の慎ましげで温厚な雰囲気からは想像もできない勇敢さで、メルベス先生を終始圧倒したそうです。


 部屋の中だけを破壊した爆発は、メルベスさんがサワガニさんから借りていた魔法の道具によるもの。強い光を放つ道具でしたが、空の箱の魔法が共鳴してその場にいる全員を攻撃する爆裂魔法になってしまった。



 そこで再び主役として登場するのがクロード君。不思議な力で結界を張り、その場にいる全員をギリギリ守り通したんだそうです。


 偶然一緒に居合わせて、怪しい講師を追うためとはいえ校則破りを是とせずに同行したアサヒ・タダノはというと、高い水準の戦いを目前にして、自分の無力さにずっと打ちひしがれる役でした。

 それでも彼女は落ちて来た瓦礫からクロード君を庇い、大怪我をしながらも勝利に貢献した。



 以前から知れ渡っている、わたしが普通の魔法が使えない話が脚色されて、物語の中ではそういう役を与えられたんでしょう。


 目の前でわたしの活躍を見てくれていた皆はその扱いの悪さに憤っていましたが、わたしは構いません。

 ずっと怯えて皆の後ろに隠れていた女の子がちょっとだけ勇気を振り絞る。大きな代償はあったけど勝利に貢献できる。健気でかっこよくていいじゃないですか。物語の華です。


 そんなわけで、何もかも活躍したのはクロード君という事になりました。

 手柄を持っていかれるのは構わないけど、いくらなんでも盛りすぎだと思います。




 大英雄クロードは学園の注目の的となりました。

 どこで何をしても黄色い声が上がりますし、積極的な女の子はぐいぐい迫ってきて、奥手なほうの子は頬を染めて俯いてしまいます。


「さっきの人、まだ探してるみたいですけど、いいんです?」

「ここがいちばん落ち着くんだ。二人なら迫って来ないし。」


 誰よりもこの状況に困惑しているのはクロード君でした。

 最初はまんざらでもないようでしたが、猛烈なアタックとアピールが何日も続くので音を上げてしまっていました。



 自分の意図とは関係なく、自動的に最大の功労者として神輿の上にあげられてしまったんです。皆の求めるヒーローとして立ち振舞わねばならないというプレッシャーに押し潰されてしまいそうです。


「みんな英雄の称号だけに目が眩んでるのよ。そのうち冷めるから大丈夫よ。」


 クロード君を学友としては見るけど恋の対象とは見ないと断言しているナミさんがため息と一緒に断言しました。 

 学友以外の何でもないと思っているのはわたしもですが、選択肢に無いというだけで、人として嫌いだというわけでもありません。



 見た目は悪くない。顔の傷は皆から言われる通り称号だから誇っていいし、成長したらきっとイケオジになれる素材。

 性格はかなり大人しく、ポールやマッシュのように突然沸騰したりもしない。ちょっとビビりなところもあるけど慎重さは戦場では長生きできる。

 気配りもできる。手が届かない本棚の上段にある本をよく取ってくれます。

 あと眼鏡少年。眼鏡スキーには需要がある。ずっと傷だらけの曇ったの付けてますので、買い替えたほうがいいと思います。

 サワガニさんに両親を殺されたという暗い過去持ち。でも復讐心でギラギラしてるわけではない。

 家が無い。でも莫大な財産を相続したという噂があり、本人も後見人居るからすぐ全部は使えないけど持っていることを認めている。

 今の評価に驕らない。英雄扱いされても平常運転。



 先生を比較対象とせずに見た場合、これはそれなりに優良物件なのではないでしょうか。

 わたしは先生が好きなので、選択肢のうちに入りません。


「クロード君は居ないんですか、好きな人。」


 わたしの発言に、目の前の二人が苦い顔になりました。言えない相手なのか、禁断の恋なのか、なんだかんだ言ってこの二人が既に相思相愛になっていたとか?


「この状況で皆に好きな子が居るって言ったら、皆その子を探すと思うし、見つけたら絶対イジメると思うのよ。」


 先に口を開いたのはナミさんです。脈絡もなく突然廊下で脱ぎ出す等過激なアピールを行う程の人達です。彼の隣という椅子を奪い合う為なら死闘なんて朝飯前でしょう。


「だよね?」

「う、うん。だから黙ってる。」


 気になっている人物は居る。でもセキュリティの甘すぎるこの学園ではどこで誰が何を聞いているか分からないから、居る事も、誰なのかも話す事はできない。という事のようです。

 なんて優しい心の持ち主なんでしょう。彼に好かれている人は間違いなく幸せ者です。




 数日振りの自室に帰ってきて、アザラシくんを抱きしめてゴロゴロしているときに気付いてしまいました。


 学園の情報セキュリティは皆無。

 なのに、わたしが先生を大好きな事や、先生の部屋で一緒に食事を作ったり食べたり、夜遅くまで話に花を咲かせたり、同じ部屋で寝泊まりしたりした事が一切広まっていません。

 魔法を使えない小生意気な子供が優等生を演じて贔屓されていると妬まれる事はあっても、愛人関係を冷やかされたりしたことが無いのです。


 どこかに認識のズレがあり、わたしの好きが恋人としての好きだと思われていないのかもしれません。

 恋愛であることを示す為に積極的になるべきなんでしょうか。クロード君に迫ってる先輩達のように目の前で脱いだりするとか。



 なにか方法があるかとゴロゴロしながら考えてみましたが、やめました。

 周りに認められないと恋愛ではないのでしょうか。いいえ、違います。誰かが誰かを想う事が恋です。


 わたしと先生がいれば恋は成立します。

 恋は○○であるという固定された視点はいりません。恋路を邪魔するのは全て敵であり、観客ではない。



 やる事は変えませんし変わりません。明日も先生の為に自分ができる事を精いっぱいやるだけです。

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