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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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出会ってしまったふたり

 おはようございます。ちょっと気を失ってました。

 増水した川の底石のように激しく転がされたので、角が取れて丸い身体になってしまいました。


 拝啓。暑さ続く毎日ですが、わたしを捨てた家族の皆様は今日も使用人いじめにお忙しい頃と存じ上げます。わたしは球体になりました。ご覧ください、この突起ひとつない滑らかな体を。


 冗談です。そんな事でも考えて気を紛らわさないと全身痛くて死にそうです。




「アサヒ・トゥロモニ」


 誰かがわたしを呼びました。

 わたしのことをそう呼ぶ人は一人しかいないはず。夢の中で一度だけ出会ったのみなので、実在しないはずの人物です。



 あまり深く考えずに爆発させたのですが、間に合わなかったようです。

 先程までは居なかった何者か、わたしを旧姓で呼ぶ人物がいました。サヴァン・ワガニンことサワガニさんです。

 ゴミが入ってて目も開ける事ができないので、そのお姿を見る事はできません。見なくてもいいです。


 とりあえず、全身が痛くて本気で死にそうなので放っておいて貰えますか。今の爆発はわたしがやったので自業自得ですが、どんなに偉かろうと凄かろうとお返事する義理はございません。


「予知していた未来が少々変わった。お前が変えた。」


 ああ、独り言でしたか。喋りたくなかったので丁度よかった。でもわたしに聞かせるのはなぜでしょうか。あなたにとっても宿敵のクロード君はこの部屋のどこかに居るはずですし、あっちに挨拶したほうがいいんじゃないでしょうか。

 放っておいて欲しいのに、サワガニさんは続けました。


「我がここに来る事は必然。箱の中身が無いのも必然だった。だが、分体を、メルベスを止めるのはヤツであった。」


 サワガニさんはある程度近い未来を予知ができるんだそうです。

 ここがハズレだって知ってたんじゃないですか。なんで来たんですか。貴方が来るって言ったから殺されるかもしれない恐怖を感じながらもこんな痛い思いして全部吹っ飛ばしたんです。


「鍵を手にするのもヤツ一人だった。お前達が事件を知る頃には全て終わっていたはずだった。」


 サワガニさんが予知した未来では、この隠し部屋にたどり着くのは男子三人だけだった。

 さらに一番に箱の鍵を手にして謎の空間を脱出し、手下ことメルベスさんに組み伏せられるのはクロード君だったと。


 その場合わたしとナミさんは何をしていたんでしょう。物語は好きなので選ばなかった先の展開が気になりますが、身体の痛みに興味は負けてしまいました。涙を拭う事も出来ていないので、顔はたぶんぐちゃぐちゃです。


「結果は変わらぬ。だが、誰が命じた。誰が未来を狂わせた。」


 具体的にどこが痛いと言えないくらいあちこち痛いので息するのも一苦労なわたしに問いかけます。もしかして、意識がはっきりしてるのはサワガニさんの力でしょうか。


 食堂へ侵入しようとしていた事を先生達に伝えたのも、来るかもしれないものに対して色々準備したのも、真っ先に謎を攻略したのも、メルべスさんから離れる為に爆発を起こしたのもわたしの判断です。

 もし、同じことを先生にやれと命じられていたのなら、今とはまた違う決断をしたでしょう。


「お前か。」


 サワガニさんも、予知とは違う道を辿ったのがわたしだという結論に至ったようです。



 この流れは物語でも見たことがあります。

 もしかしても、しなくても、わたしを目の前で殺されたクロード君が怒りで覚醒する展開ではないでしょうか。


 今のわたしはまな板の上で捌かれるのを待つ魚。水から上げられた魚は跳ねて抵抗しますけど、わたしはできません。身体が痛い。


 クロード君とサワガニさんの対決の物語、わたしは早々に退場してしまうようです。

 先生ごめんなさい。先に逝くのをお許しください。まだ何もお返しできないので未練しかありません。幽霊になってもわたしは先生の傍に居たいですし、なんなら生まれ変わってもう一度先生を好きになりたい。大好きです、先生。




 トドメは刺されませんでした。


「時間だ。今日は引く。」


 機器の音量を下げたかのように、サワガニさんの声が遠のいていきました。どういう事かはわかりません。身体の痛みと、どうしても伝えなくてはいけない事への意識でそれどころじゃない。


(わたしは、トゥロモニじゃ、ありません! タダノです!)


 どうしても伝えたかったのは、彼が間違って覚えてしまっている事への訂正。それだけです。

 引き際の良さで命拾いした者が言っていいものではないかもしれません。でも知りません。次に会ったら訂正したいとずっと思っていました。本人が現れたのは状況としては最悪でしたが、これはとても大きなチャンスなんです。


「その名、二度と忘れぬ」


 やりました。覚えてくれました。これで忌まわしく忘れたい家を記憶の隅からも追い払う事ができます。名前を呼ばれる度にあの家を思い出すなんて拷問を受けずに済みます。大事な事なのでもう一度言います。やりました。




 意識がはっきりしていたのはやっぱりサワガニさんが何かしていたからだったようです。

 彼が居なくなってから、頭の奥から物凄い痛みが来ました。


 ああ、これは、殺されたほうが楽だったかもしれない……

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