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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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太陽は秘宝の部屋で爆発する

 先陣を切ってクロード君が箱に触れた瞬間、淡い光がとても強いものに変わりました。


 そこから先は何が起きたかわかりません。

 強い光に眩んでしまった視力が戻ったとき、わたしはこの場所に居ました。


 青空です。青空が見えます。とても良く晴れて、大きな雲とのコントラストが綺麗な夏の青空です。

 それに反して肌で感じる気温は先程の隠し部屋のもの。目に入ってくる光景だけならとても暑いのに、夕暮れの倉庫の奥のひんやりとした空気がそこにあって、なんだか変な感じがします。



 ここはどこなんでしょうか。

 わたし達は、箱の明かりだけが満たされる倉庫の隠し部屋に居たはずです。

 一緒に居たはずの皆は居ませんでした。



 箱の鍵を開けるための仕掛けもあるかもしれないと予想はしていました。


 今この状況だけで察するのなら、一人一つずつ、何らかの試練が与えられる仕組みのようです。孤立してしまった際にトラブルを解決して合流を果たす力を試されているのでしょうか。


 外との連絡はできるようです。ならばこれはサワガニさんの手下が使った魔法ではない。

 つまり、この大自然の開けた原っぱと夏空の景色の中に、箱の封印を解くための鍵があるという事です。


 空間を魔法で破ってしまう事も考えましたが、他の皆が出られなくなる事態は避けるべきです。

 合流するのはひとまず後にして、試練の内容を確認しましょう。




 時計を持っていなかったので、どれほどの時間このいい景色の中を探したかわかりません。

 わたしには根性が無いので、十分も経っていないと思います。


 何らかの違和感を覚える物が置いてあると思うんですが、気になるものは何もありませんでした。

 魔法の使用がフラグになっているのかと思って物を動かす魔法で岩をよけてみたり、なんとなく積み重ねてみたりしましたけど、本当に何も起きません。詰みました。


 まさかのノーヒント。ただ個別に隔離しただけ。サワガニさんの手下が行き詰まるのもわかります。あの人もわたしと同じく、ノーヒントの場所に放り込まれたんでしょう。


 この空間は箱を触れた者を捕まえるトラップであり、そのうち扉が突然現れて、開けたらサインするだけの退学届を持った教師たちが待ち構えていたりするのでしょうか。それは勘弁して欲しい。

 時間もありませんので、製作者に聞きましょう。教えて! 理事長先生!


(看板無いかー? 夜の飯屋みたいに光ってるのがあるはずだぞー?)


 自然豊かな場所にネオン輝く看板があればとても目立ちます。それでなくても人工物ならなんでも目立ちます。最初立っていた場所の真正面にあるという話でしたが、見る限り何もありません。


 無い事を報告すると、連絡回線そのままでの待機を命じられました。ちょうどいい高さの石に腰掛けて待ちました。暇なので数を数えていると、百八十二まで数えたところで返事がきました。



 あるはずの看板が無いのは、サワガニさんの手下が弄っているうちにトラップが壊れたのかもしれないとのこと。

 そしてクリアする方法は、この空間のどこかに星の刻印がされている石を探すこと。それを壊すと中に鍵が入っていて、手に取れば先程の隠し部屋に戻れるようです。


 目的の石はわたしのお尻の下にありました。もしここに鍵が入っていなくても、目に見える石を片っ端から壊していけばどこかにあるでしょう。疲れるけども、一番早い手段を使います。


 鍵はありました。

 砕けた石の中から拾い上げると、夏の青空景色が氷のように消えて、暗い隠し部屋に変わっていきます。




 短時間でクリアできた事の嬉しさと、攻略に夢中になりすぎたことで油断していました。

 景色が変わりきったところで手首を掴まれて、手を引かれるのと同時に足を払われ倒されて、床に組み伏せられてしまいました。


 特別学級の五人ではわたしだけが危険な存在が居るのを知っていたんです。トラップ攻略なんかよりも、サワガニさんの手下がどこに隠れているのかを常に警戒しておくべきだった。

 外部への連絡手段を持つ自分が捕まってしまったのも失敗です。わたしの通信は一度この人に気付かれています。至近距離ならば誰かに向けて言葉を放っている事などすぐに感づくはず。悠長に連絡を取っていられない非常事態の為の緊急発信も決めておけばよかった。



 五人の中でも一番小さいわたしなら、体術でも言い争いでも負けないと思ったんでしょう。


「カギだ、鍵、持ってるんだろう。よこせ!」


 この隠し部屋に侵入した生徒を捕らえるために来ていた教師ではありませんでした。

 頭を押さえつけられているので顔は見えませんが、この人がサワガニさんの手下で間違いありません。


「変態! アサヒさんから離れなさい!」


 ナミさんの声と、彼女が杖を振る音がします。あの鍵探しをノーヒントで突破して隠し部屋に戻ってきたみたいです。すごい。


「合わせるぞマッシュ!」

「遅れんなよポール!」


 ポールとマッシュの声が左右の耳から入ってきました。察するに、ナミさんが杖を構えて注意を引き、隙を見せたところで二人が両側から同時攻撃を仕掛けたんでしょう。

 二人がかりの体当たりでしたが、残念ながらサワガニさんの手下はびくともしません。ですが、驚いた事ですこしだけ余裕ができました。


「クロード君! 任せた!」


 わたしは声も気配も無いクラスメイトの名を呼び、持っていた鍵を投げ捨てます。三人が鍵探しを終えてここに戻って来れたということは、最優秀の彼だってクリアできているはず。皆とはまだ半年のお付き合いですが、そこは信じてました。


「任された!」

「お前は……!」


 存在感は薄いけど、やっぱり最優秀。彼はそこに居ました。部屋の中心でわたしを床に押し付けるサワガニさんの手下を、四人が四方から囲む形になっているようです。


 クロード君を見たサワガニさんの手下は動揺していました。ちょっとだけ押さえつける力が緩みましたが、やっぱり逃げられません。この人重すぎです。


(特別学級ならば来ていてもおかしくはなかろう。我が出る。)

「お待ちくださいワガニン様! 私めにお任せを……!」

(ヤツが居る以上お前では勝てぬ。我を出せ!)


 四対一でにらみ合っている中、身動きが取れないので状況を音で把握していたのですが、頭の上で聞きたくない言葉を聞いてしまいました。


 最悪の魔法使いがこの場に現れてしまう。

 そうなるとわたし達の手には負えません。先生達への連絡をしなくてはいけないんですが、掴まれてる手首が痛くてそれどころじゃない。


 魔法使いの社会でサワガニさんがどんな存在なのか分かりませんが、名前を聞いただけで一般人が恐慌状態に陥ってしまうような人です。そんな人がこんな場所に現れてしまったら何が起こるんでしょうか。


 最悪の魔法使いに侵入を許した事、秘宝を持ち逃げされた事、生徒を傷つけた事の責任を誰が取ることになるか。

 勝手な行動を取ったこの特別学級と、先生が誹謗中傷に立たされるのは火を見るよりも明らかです。


 こちらは五人居るのに、手下一人にさえ歯が立ちません。実力差がありすぎます。

 その状況からサワガニさんがこの場を手下に任せて立ち去るように仕向ける事はできないでしょうか。


「貴様、ワガニン様に対し不敬だぞ!」


 彼の主人をサワガニと呼んでいるのが漏れてしまいました。掴まれた手首が強く締め付けられます。いででで。



 わたしが足元で人質にされているせいで皆は自分達の持ち分を存分に発揮できず、場は膠着状態になっていました。


 こちらに向かっているというサワガニさんですが、すぐに来ると言った割にまだいらっしゃいません。

 理事長や先生が注目しているので、その監視網を潜って来ないといけないのが原因でしょう。

 今ここで隙を突いて救難信号を出せば状況は良くなるかもしれないけど、助けが来る前にわたしが殺されてしまうかもしれない。


 だからと言って大人しく魔王の登場を待つわけにはいきません。今サワガニさんの手下が脅威と認識していないのは、足の下に居るわたしです。何かできる事はないでしょうか。





 色々考えていたら、お前の思考はお見通しだと言わんばかりに腕を掴み直されました。


 そのタイミングで、初日に誘拐された日の事を思い出します。

 相手がそれだと気付かない方法で、誰かにこちらの異常を伝える方法。一度やったことがあります。そう、花火。


 ですが、こんな狭い場所で大きな打ち上げ花火なんて放ってしまったのでは皆に怪我をさせてしまいます。やり方を変える必要があります。音と閃光。至近距離ならサワガニさんの手下を怯ませることもできそうです。


 迷ってる時間はありません。例えここにあるのが空箱でも、学園に脅威を、サワガニさんを入れてはいけない。

 手下は外部に通報したわたしに対して容赦はしないでしょう。すごく痛いかもしれないけど、サワガニさんが学園をめちゃくちゃにして、先生や皆が死んでしまうよりはずっといい。



 そういえば、花火の魔法が先生の防犯グッズだと嘘を教えていました。後で先生とナミさんに謝らないといけませんね。

 さ、やるぞアサヒ!


「皆! 目瞑って耳塞いで! 口も閉じてて!」


 皆からすれば突然の指示ですが、すぐに察してくれたようで、床に伏せたりローブを被ったり、それぞれ違う形だけど言う通りに動いてくれました。

 ありがとう皆。そして後はお願いします。


「何を……ッ!?」


 さきほど空の箱が輝いたような、とにかく強い光。そして学園の校舎に居ればどこでも聞こえるほどの音。

 そして大地が揺れるほどの衝撃を発するけど、食堂は壊さないように小さな爆発を。




 わたしの魔法と空箱にかかっていた魔法が共鳴し、自分でもびっくりするような炸裂音が響き渡りました。


 大音量の後の耳鳴りで聞こえませんが、サワガニさんの手下は悲鳴を上げてわたしから飛び退きました。

 爆発の衝撃で拘束を解かれたわたしの身体も転げ回ります。全身をあちこちぶつけてしまったので、意識が遠のいていきます。

 みんな無事でいて欲しいけど、ちょっと難しいかな、これは。




 体力も魔力も少なくて、体も小さくて、本当に何かあればお荷物にしかならないけども。

 一発限りの爆弾が、場の流れを変える事もあるんです。

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