宿命の少年と学園の秘宝・裏切者の視点
先生と二人で協力し、料理失敗の片付けをしている間にとんでもない大事件が起きました。
図書室からそのまま宿舎へ帰っていたはずの特別学級の四人が、閉鎖中の食堂へ侵入を試みていたのです。
人気のない食堂の周囲をくまなく探したそうです。中から感じたことのない怪しい気配があり、何かを必死に探している声も聞こえたとのこと。
裏口の鍵が開いていて、いつでも侵入することができるという成果を持ち帰り、わたしに包み隠さず自慢げに話してきた事には驚きました。
四人全員が、何もできる事は無いと理解したものだとばかり思っていたのに、全く諦めていなかったんです。
今回は誰にも見つからずに見逃されましたが、発覚すれば自分達だけではなく、先生も監督不届きの責任を負わされてしまいます。
巡りに巡って全員退学、特別学級が解体される事もあり得ます。
無責任な行動への怒りよりも、何も顧みない探求心への呆れを感じました。
「わかりました。次はわたしも行きます。」
謎を解き明かす為に協力したいという事ではありませんが、彼らにはそう見えたのでしょう。弾数1の強力な爆弾を手に入れた冒険者は湧きあがりました。
学級委員長として、愛する先生の為にもこの悪い子供たちはわたしが見張ります。
一度見つからなかった事で付けなくていい自信を付けてしまった四人が次に何をやらかすか分かったものではありません。
わたしが密告してから先生方に動いてもらうのでは全てが遅いので、対策の手は先に打っておきましょう。
というわけで、わたしがスパイとして動く事の了解を取ります。
先生の頭痛の種が増えてしまいますが、どんなに口酸っぱく言い含めても、今の彼らを止める術はもう無いでしょう。本当にダメな領域に踏み込むまでは許しますが、それ以上行くのなら全力で止めます。
制止の際に戦う事になってしまったら、わたし一人で四人を相手にするのは絶対に無理。応用には一日の長があるものの、全員が段違いの魔力を持つ見習い生徒。止めるには先生達の力添えが必要です。
そんな状況は来てほしくないのですが、そうなった場合すぐに伝えられるように、先生の探査の魔法とわたしの目を同期してもらいましょう。術式を大きく書き換えないとできないと言われましたが、無茶を押し通すのがわたしの魔法です。それくらいはできます。
(先生、聞こえてます?)
「はい、大丈夫です。届いてます。」
口を使わずに言葉を伝える魔法も混ぜたので、連絡もスムーズにできるようになりました。遠距離の意思伝達は混線が激しくすぐに別の誰かの会話が混ざってしまうので、両方のチャンネルを揃えた今だけの限定使用です。
(教師どころか特別学級の連中まで嗅ぎまわってる。ここの閉鎖が解ける日も近い。急げ、急ぐのだ。)
なにやら聞いてはいけない会話まで聞こえてきましたが、ここでは聞かなかった事にしましょう。
それだけで済むのならその方がよかったんですが、トラブルは重なりました。
先生との打ち合わせを終えて、四人の下へと向かう途中の事です。
(解けません、解けません、ワガニン様、すみません、ごめんなさい。)
意識して避けようとしたせいで逆に感度が良くなってしまったらしく、慌てるサワガニさんの手下の声がどんどん頭に入ってきました。せっかく隠れて行動してたのに黒幕の名前を呼んでしまうのはダメだと思うんです。
特別学級の四人の推理通り、サワガニさんが全ての黒幕でした。嗅覚の良さには驚きです。
サワガニさんは生後数か月のクロード君の働きにより十数年経った今でも深い傷で身動きが取れないんだそうです。
そんな彼を回復させるためのアイテムがこの学園都市にあるという情報を彼らが得ました。そして食堂に隠されている所までは突き止めた。人避けをして、入っている箱を見つけるまでは順調だった。しかし封印が解けない。刻限が迫っている中サワガニさんからは急げと急かすばかりで助言が貰えない。生徒が何か怪しんでいるから急がなくてはいけない。焦れば焦るほど行き詰っているのが現状らしいです。
全部聞いてしまいました。聞きたくなかったそんな事情。
潜入任務を受けたこの人がとてもかわいそうです。追い詰められすぎてます。
それにサワガニさんもサワガニさんです。ただ急かすのではなく一緒に考えてあげればいいのに。
焦る敵の会話を聞きつつ、どうせ今から特別学級の生徒が食堂に入るのだから、彼らを利用すれば封印は解けてしまうのではないかと考えてしまいました。
(そうか! そうだ! それがいい! さすがですワガニン様!)
(ん? 我はそんな事言ってないんだが……まあいいか。そうだ、奴らを使うのだ。)
助け船を出すつもりはなかったんです。混線はしていても、わたしの思考が相手に伝わるとは思ってもいませんでした。
これはまずい。敵に塩を贈ってしまった。
(先生! 大変です! 大至急です!)
(お! 出番かな!?)
先生への連絡に応答したのは理事長でした。声だけのはずなのに筋肉の張る音が聞こえてくるような気がします。というか二人だけの回線にいつの間に割り込んできたんでしょうか。いやいや、それは別にいい。状況を悪くしてしまった事を伝えないと。
敵の通信と混線してしまっている事と、わたしの思考が相手に伝わってしまった事を理事長に話したところ、その誰かが開けようとしている封印の中には何も入っていないので解除して構わないとの言葉を頂きました。
サワガニさんが求めている物は確かに学園都市にあるんですが、奪われない為にあらかじめ偽物をそれっぽく隠しているそうです。
つまり特別学級が見つけたのは偽の宝の地図。これは皆から不評を買うだけの骨折り損になりそうです。
(サヴァンの野郎がブロックしてるから俺に聞こえないんだろうなあ。ま、気つけてな。)
いざという時は自分も動くし、特別学級が勝手になにかをやらかしている今の状況も何とか軽い処分で片付けてくれると約束してくれました。
気を取り直して皆との集合場所に向かいます。
日も落ちて薄暗くなった裏口の前で。皆ソワソワしながら待っていました。
皆で周囲に気を配りつつ、じゃんけんで負けたクロード君が静かに裏口の扉に手をかけます。一日経っても誰も確認には来なかったようで、鍵はかかっていませんでした。
静まり返った調理場を通り抜け、フロアの方へ。何も変わった事はなかったので、再度調理場へ。
わたし達の足音だけが響く中、食料倉庫の方から漏れる明かりにナミさんが気付きました。
倉庫の棚の後ろにあった隠し部屋に、目的の物がありました。
淡い光を湧き水のように湛える謎の箱。理事長が言っていた封印だけが厳重にかけられている空箱です。
わたし達が入ってきた事に気付いてどこかに隠れたらしく、サワガニさんの手下はこの部屋に居ません。
封印されたままでも持っていけなかった理由はすぐにわかりました。重くて動きません。開けて中身を取り出さないといけないのです。
「面白そうね! 何が入ってるか開けてみましょう!」
サワガニさんの手下とわたしを通して先生達が見ている中で、特別学級の生徒達による謎解きが始まりました。




