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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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ふたりだけの教室

 わたしの名前はアサヒ・タダノ。誰が何と言おうとこの名前がわたしです。


 変な夢を見た事でまたしても騒ぎになってしまいましたが、特に使命に目覚めたり等はしていません。

 もとより体力と運動神経は無いですし、魔法を使えば疲れますし、魔法で魔法を使うのはもっと疲れます。


 ロールプレイングゲームで例えるなら、1ターンを跨ぐことすらできない一発撃って退場する大砲とか、戦闘中に使用回数が1回しかないアイテムみたいなものです。

 そんな一発限りの爆弾が長い長い戦いの旅だなんて無理なのです。マスコットにすらなれないお荷物です。わきまえておりますとも。



 食堂は相変わらず閉鎖されています。入り口の扉は見た事も無かった大きな鍵がかけられ、あらゆるものの立ち入りを拒んでいます。おば様達の体調も良くなりかけているとのことなので、再開するのは秒読み段階にあるようです。



 食堂が復活するまでの間、外で食べるか自炊するかの二択を迫られていますが、わたしは料理が作れません。作り方がわかりません。

 追い打ちをかけるかのように、この学校にはなんだかよく分からない物体の調理法や料理の本はあるのですが、調理実習や生徒の為に解放されている共有の調理スペースがありません。

 自炊ができる人達は、魔法で台所を用意するか、都市の外壁の外まで繰り出して野営するか、食堂の調理場にある予備ををお借りする等、様々な工夫を行っているようです。



 授業の時間を皆で料理の腕を磨くために利用しようかと考えてみましたが、わたし一人では四人分の好奇心と使命感には太刀打ちすらできませんでした。

 学園の秘密とサワガニさんの野望に夢中になってしまい、授業中も皆は上の空です。



 今日の四人は仲良く図書室です。調べたい事があったらしく、わたしも誘われたんですが食事がまだだったので丁重にお断りしました。こんな事ばかりしていると協調性が無いと通信簿に書かれてしまいそうです。


 先生の自室で食べたサンドイッチだけが、わたしが魔法で作れる数少ない味のある食べ物です。他のものは、わたしが精神的ストレスにより味を感じる事ができないのではなく本当の無味無臭。これは皆にも確認してもらいました。

 おかげでとんでもない辛さのカレーや臭すぎて食べる事なんてできない缶詰の中身なども口にすることができますが、初見で周りに驚かれるだけであんまり面白くありません。


 食堂の食中毒事件から始まり、わたしの夢の中にサワガニさんが出てきたことで陰謀の気配が日々強くなるという状況は本当にどうでもよくて、わたしは料理を学びたいのです。


 おいしいものを食べさせ胃袋を掴むのは恋の定番……というのは半分冗談で、この数日ずっとサンドイッチだけを食べてたので、そろそろ何か別の味のを普通に食べたい。でも食事の為に長蛇の列に並びたくない。悩ましいです。



 そんなわけで、先生と二人だけの教室でわたしはサンドイッチを頬張っています。

 

 目の前の教卓では、先生がこれからの授業の予定を考えていました。先生の体調もあって授業の進み具合もよろしくないらしく、どこで取り返したら良いものかと悩んでいます。

 こんなときに精のつく料理でもお渡しできたのなら好感度アップ間違いないのですが、料理の知識が無いわたしには調理も魔法で作りだす事もできません。あまりに無力です。


「お相手できなくてすみません。」

「わたしのほうがお邪魔してますよね。ごめんなさい。」


 謝罪合戦が始まりそうなので、この話題は止めにします。わたしが皆と離れて単独行動してるだけなので、謝らないでください。


 悩める二人ですが、関係を再確認する為の言葉はいりません。わたしは先生と同じ空気吸ってるこの時間が幸せで、そのすこし先を求める欲張りな女の子なのです。それに、真剣なまなざしで仕事に向かう姿も格好いい。


「そういえばアサヒさん、料理できないって言ってましたけど食べれてます?」


 一区切りついたのでしょうか、先生から声がかかりました。もちろんその質問への回答は既にシミュレーション済みです。

 食べてはいるものの味がしない。味がするのは今も食べていたサンドイッチのみ。


 わたしの返答を聞いた先生の顔が物凄いものに変わりました。お屋敷で見たことのある、使用人が何か大きな失敗をしてしまった時の表情に似ていました。

 優秀な生徒だから料理もできるだろうし、何とか対策をしているに違いない。そこまで酷い状況だったとは思ってもいなかった。そんな顔です。


 料理を覚えたい。最終的に食べてもらいたい相手にそれを乞うのはおかしな話かもしれません。

 全部秘密にしておいて、いきなり豪華絢爛を見せて驚かせたいとは思いました。ですが、台所に立つことすらままならぬわたしがその領域に到達するのは果てしなく遠い話。ですので、凄腕料理人の取っ掛かりとなる名誉を先生に委ねたい。



 先生は快諾してくれました。


「僕もたいしたものは作れませんが、それでもよければ。」

「お願いします!」


 先生の手料理を頂けるうえに、手ほどきまでしてもらえる。まさに夢のような展開ですが、これは現実です。

 夢よりも現実の方が楽しいだなんて、幸せすぎて後が怖いです。




 先生の部屋で始まったお料理の個人授業。

 確かに先生は調理器具の使い方や調理方をよくご存知でした。同じ台所に立てるのが嬉しかった。そこまでは良かったんです。


 何が起きたのか、調理の事を知らない私が知る由もありません。

 

しばらく使ってなくて道具ひとつ無かった台所はとんでもない事になってしまいました。

 色々と失敗したことで汚れた道具と皿が洗い場に散乱し、コンロと鍋と壁が燃えて換気扇の位置まで真っ黒に焦げています。

 どこから片付けたらいいか分からないくらいめちゃくちゃです。


「すみません、本当に。」

「わたしこそごめんなさい。」


 真っ黒に焦げた料理とはとても言い難い何かを前に、わたしと先生の謝罪合戦はしばらく続くことになってしまいました。

 まさか先生までもが料理下手だったとは。予想外でした。


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