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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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一日担任、アサヒ先生


 先生が過度の疲労で倒れました。

 今日の時間割を黒板に書こうとしたところ、手を上げたままうつ伏せに倒れてしまいました。

 生きてはいますが意識がありません。



 穏やかさが先生の特徴でしたが、わたしを自分のモノにしたかった卑怯者に襲われた頃から、ため息の数が増えました。

 自警団の一連の騒動はあそこから始まったのです。これが無ければ、先生が倒れる程に追いつめられる事はありませんでした。


 大人しく相手のモノになっていれば先生は苦しむ事は無かったかもしれませんが、選ばなかった選択肢の先の事を考えていても先には進めません。先生は今目の前で倒れているのです。


 普段のわたし達への授業をはじめとした業務に加え、自警団が消滅するまでは彼らへの対応にも追われていたので休める時間がないのは明らかでした。

 それでもパワハラを主とする学園の人事が先生を休ませようとはしません。自慢ではありませんが、特別学級は先生以外の教師では手に余るクラスなのです。


 負担にならぬようできる範囲で協力はしていたつもりでしたが、結果として努力は及ばず、倒れるまで無理をさせる事になってしまいました。




 先生が倒れてしまった原因はわたし達にもあります。その責任は果たさなくてはなりません。

 こんなときだからこそ、学級会長的な立場をフル活用できるのです。


 この場、わたしが預かる! ああ、本で読んで気に入ったこの台詞、一度言ってみたかったんだ。




 まずは慌てて駆け寄って大声で先生を呼ぶ皆を落ち着かせます。いきなり倒れてしまうほど疲れてる人をすぐ叩き起こしても何にもなりません。

 医務室や自室のベッドの柔らかい布団で安らかにお休み頂きたいのですが、わたし達に大人一人を運べる程の筋肉はなく、こんな緊急時でも魔法を使ってはいけないので教室から動かせません。ならばここで休ませる他ない。


 倒れてる先生の横に全員分の椅子を並べてベッドの代わりにしました。椅子の高さまで持ち上げるのに魔法を使う事には目を瞑ってください。

 アザラシくんがここにあれば枕の代わりになったんですが、流石に教室にぬいぐるみを持ち込むほど子供ではありません。ここは僭越ながらわたくしめの膝を枕の代わりに使います。


「アサヒさんの膝枕……先生が羨ましい……」


 ナミさんが随分と悔しがっていましたがここだけは譲れません。なんだかんだでわたしと先生の関係には進展が全然ないんですから、これは数少ない接近のチャンスなんです。足が痺れたりトイレ行きたいときは代わってもらう事の了解は得ましたが、「違うそうじゃない」と小さな声で呟いていたのはなぜでしょう。


 先生はこれでよし。

 今日はこのまま休んで頂きます。わたし達ではどう頑張っても動かせないので、宿舎に戻れるくらいには回復して欲しいです。




 残る問題は、学園が頭を悩ませる特別学級の生徒達。わたし含めて皆が皆個性的なので一枚岩とはいきません。

 先生の真似ではありますが、言った以上わたしが指揮を執りましょう。


「何か欲しい薬とかあるか? 作るぞ!」


 倒れた原因が薬ですぐに治るものならばとてもありがたい提案がマッシュから出ました。

 ですがマッシュ君は来週提出予定の宿題を片付けるのが先です。ずっと前からの課題なのに全然手がついてませんよね? 提出ギリギリでは全部終わらせることができない量なので、スパートは今からかけてくださいな。


「あたしは終わらせてるから問題ないわ!」


 いちばん一般常識を持っていて、宿題も完璧で年相応の平坦な胸を張るナミさんへ。散らかってるロッカーを整理しましょう。わたしのところまではみ出てますし、着用済みのパンツを見られたくないのならちゃんと持って帰って洗ってください。見える位置に置いといて見るなは理不尽で先生と男子がかわいそうです。


「あの、僕はなにをしたら……?」


 わたし達の中では一番優秀でわたしよりもなんでもできるクロード君は、そこでマッシュをバカにしてるポールを運動場まで連れて行き、呪文の使い方を見てあげてください。場所の使用許可も君がいれば下ろしてくれるはず。そんなビビらなくても大丈夫。キミならできる。

 わたし以上に様々なトラブルに遭い、自警団の興亡も見届けて、理事長をはじめとした偉い人達に助けられながらもいい関係を築いているのは知っています。その経験は他人にものを教える事にも生かせます。自信を持て少年。


 最後にわたしですが、先生係に立候補します。単にゆっくり寝てて貰うだけですから何の心配もいりません。

 以上の予定をもって、今日の特別学級は自習とします!





「すごいな。」


 わたしが皆に指示している間に目が覚めたんでしょうか。先生が、顔をこちらに向けずに呟きました。

 先生が起きた事に気付いたのはお肌の触れ合いをしているわたしだけ。教室に残っている二人は自分の作業に夢中になっています。


「情けない教師ですね、僕は。」


 自嘲した先生に、わたしは真似をしただけで、トレースする行動のオリジナルである先生が凄いからできただけだと反論はしましたが、それに対しての返事はありませんでした。


 教育熱心な同僚や大勢の大人から情けないと言われ、ご自身もその通りだと嘆いていますが、わたしは違うと思います。

 大人だって甘えていいはずなんです。たとえそれが相手がわたしのような子供だったとしても。


「先生、大丈夫。大丈夫ですから、このまま休んでてください」


 先生がわたし達を育てる為に、どれだけ悩んで苦しんで工夫しているかを、一番近くで見て知っています。

 どんなに弱々しく情けない姿を見せられても、わたしの気持ちは変わらないのです。そんな想いを込めての大丈夫です。 



 今日はわたしが特別学級の担任です。

 せっかくなので、先生もわたしの指示に従ってもらいましょう。


「先生は寝ててくださいね。わたし、おトイレ行ってる間はナミさんと交代しますけど、ずっと見てますから。」

「……すみません。」


 自分達でなんとかできる。だから先生はもう必要ないという意味での大丈夫と捉えられていないか心配です。特別学級にも、わたしにも先生が必要です。



 わたしの膝枕の感想をお聞きしたかったんですが、そんな雰囲気ではありませんでした。

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