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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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敵は門前まで

 学園の職員が結託して死者蘇生を行ったという違反行為により、十名もの教師が職を辞して、教師の数に大きな穴が開いてしまいました。

 幸いにも学園都市機能にも携わる人員ではないので街の運営には影響していませんが、引継ぎを行わなかった性格の悪い教師が数名居たせいもあり、学園は自習が多く授業時間も短く宿題も無いという天国のような状態になっています。


 生徒達の若さで有り余る意欲を押さえつけて手綱を取る人が居ない。そこが問題です。

 人間として問題のある人物ではありましたが、生徒指導の教師の存在はすぐに暴走する学園の若き魔法使いのブレーキとしてその役割を果たしていたんです。


 足りないものは足せばいいとはいうものの、学園都市職員とは先生を見ればわかるように過酷な仕事でありながらあまりいい待遇とは言えません。ちょっとした生徒とのやり取りすら力関係を利用した搾取だ贔屓だなんだと叩かれる。成績の悪い子供の親に怒鳴り込まれたり、袖の下で何とかしてくれと交渉を持ちかけられる。面倒事を起こした生徒の後始末を押し付けられる。良い事と言えば、可愛い生徒から全幅の信頼を得ることができたりその若い肢体に触れることができるとか、それくらいでしょう。




 妻を喪った陰のある比較的若い男性ということで、先生が学園内の女子生徒に人気があるのは二月のチョコレート祭りで知っています。わたしの先生が他人にも評価されるのは自分の事のように誇らしいと今でも思います。


 同時に、教師と生徒の恋愛は悲劇にしかならず、あってはならないとされる価値観があるのもまた事実。

 それが良くないものであると定義しておきながら、生徒と教師の禁断の愛に夢を膨らませる女の子は数知れず。主に相手を見つけられず売れ残って焦りを感じているお姉様がたからのアピールは、教師の大量辞職以降一気に激しくなりました。


 理由は簡単。若い恋心を弄んでいたり、誘惑に負けて手を出してしまった教師が数名いた。寄る辺を失った彼女達が次に選ばんとしていたのが先生だった。退職した数に対して先生に向かってくる女の数が多すぎるのは、ある人が一人で何人もの女子を食い荒らしていたからだ。


 本気で想っていたのなら離職後も交流を続ければいい。魔法の使えないただの人となってしまったとしても、その人柄と知識は残されたままのはず。学園は退職した人との接触を禁じたルールはないのだから、会いに行けばいい。できないということは、つまり恋は本気ではなかったという証左。

 そんな彼女達が、先生には部屋に上がり込み同じ部屋で寝食を共にするわたしというものが居ると知りながら、わたしから大事な人を横から掠め取ろうというのです。


 気分転換に他の人とデートしてもいい。何ならわたしではない誰かを選んだっていいと思っている。

 そう思っているからこそ相手がどんな奴なのか気になります。他の男にしたようにワガママ放題でいたり、身体関係を結んだことで強要を繰り返して先生の負担になるんじゃないか。そういう売り文句でわたしから奪っておきながら、本当に今以上の生活を先生に送って頂くことができるのか。

 色々渡り歩いて元の鞘に戻ってきたとしても、賃貸住宅のような原状復帰の補償はどこにもない。わたしから離れたことで精神的にも肉体的にも金銭的にも打ちひしがれた先生は見たくないけれど、そうなってしまう可能性がある。

 それが嫌だから、わたしは先生にわたし以外を選ばせたくはないと思っています。


 彼女達は大人との関与が交際に発展するのを狙っているのに、先生は知ってか知らずか相談を受けてしまいます。

 わたし達と関係しない事にまで頭を悩ませるのは正直辞めて欲しいのですが、それが職務である以上、真面目に取り組んでいるのを責め立てるわけにはいきません。わたしにできるのはサポートに徹すること。奇行や試し行為で先生の気を引くのは悪手です。先生にとって、わたしとの時間はより一層辛くなった職場からの退避であるべきなのです。

 そのための空間。そのための場所。そのためにある先生の家。

 わたし達の聖域であるべき場所に堂々と上がり込もうなどと言語道断。問答無用、それは敵対行為である。




 敵は、日が落ちて薄暗くなった時刻の秋雨と共に現れました。


 そんな姿になってしまった事情は聞かなければわかりません。

 静かに降る雨の中で傘もささずに歩いて濡れた衣服。下着や肌の透けるブラウスと、身体に張り付いて育ち盛りの曲線を露わにするスカートはため息が出るほど艶めかしい。そのつもりが無くても舐めるように見てしまう艶姿である。

 話よりもまず着替えさせたいと思わせる緊急事態。玄関前にずぶ濡れの女子生徒が居るという大事件。先生でなくても部屋に上げ、シャワーと乾いた衣服と温かい飲み物を提供してしまいそうなシチュエーションだ。

 そうやって先生の家に上がり込もうとする彼女の作戦は大成功。先生は部屋に立ち入る許可を出しました。



 彼女の誤算はひとつ。ずっと先生に寄り添うわたしの存在を見逃していたこと。

 先生がわたしの名を呼んで、制服から部屋着への着替え途中だったわたしが下着姿で奥から姿を見せた瞬間の顔は多分二度と忘れられません。


 独り身であるはずの男の家に”女”が居た。常識として考えてこの時間に生徒を連れ込んでいるのはおかしい。その女児は下着姿。実質半裸であった。視認できた状況は以上。

 彼女には教師と生徒との関係は上下関係であり対等なそれは望めないとする一般常識が存在し、恋愛の付加価値としてそのタブーを破るスリルを味わいたいという欲求を持っている。そういった意識を持ちながら、今の状況を見た。さて、彼女はどう思ったでしょう。


 二人だけの秘密の授業。年が離れていようと男と女。

 遅い時間に部屋に帰すなどとんでもない。今日は泊まって行けと男は言うし、既にこの時間から服を脱ぎ捨て下着姿を晒して誘惑している女は素直にそれに従うだろう。

 一つ屋根の下。同じ部屋での同衾。先生はまだまだ男の盛り。何も起きないはずがないと彼女の恋愛脳はアクセル全開で唸りを上げている。


 その相手が、親子ほど年の離れた幼い少女。これが女性教師、または自分と同年代ならばまだ納得もしよう。

 何度見返しても目の前に現れたのは幼女。誰かが魔法か薬で幼くなったのであれば考え直す事もできただろう。だが夕陽のような明るい茶褐色の髪は一度見れば忘れ難い。女子宿舎から学園校舎でも見ることはある。先生が名前を呼んでいるので間違いない。学園一の問題児、特別学級の女子生徒だ。


 自身が破ろうと考えていたタブーのさらに斜め上の七十度の角度を直角の進路変更をしながらアクロバティック飛行していった。

 なんということだ。自分が思い焦がれた男は自分の生徒を好き放題にする鬼畜だった。実在幼女に手を出す本物の犯罪者だった!


 口に出さずとも分かります。青ざめた表情と全身で、何を思っているか十分すぎる程に物語っている。

 身体の震えが止まっていない。ガチガチと、噛み合う歯の音がする。


 身体の冷えが進行し、体調を崩し始めていると判断した先生は入るように促しますが、自身に伸ばされた手を払い退けて、彼女は一目散に逃げ出してしまいました。


 先生がある女子生徒を懇意にしているのは周知のとおり。飽きやすいとされる子供が一年以上同じ関係を続けているのだから、それは本物であると認めたっていいはずです。こうした理事長とクロード君のような関係として知れ渡っているはずなのに、恋愛脳にかまけてそういう情報収集を怠ったのが彼女の敗因です。


 大切に想ってくれるなら追いかけてくれると願っていたのか、他の女に触れた手で触って欲しくなかったのか。

 とにかく、わたしと先生の蜜月は守られました。




 先生は至って真面目に職務を全うします。今後どれだけ酷い誹りを受けるかわからなくても、仕事は仕事と割り切ります。


 ひどく怯えた様子であり、何かがあったのは明白だった。しとしとと降り続ける冷たい雨の中、ここまで来るだけでも勇気のいる行為だったはずだ。

 濡れて下着などが透けていた姿を異性に見られた恥ずかしさもあるかもしれない。自分が出たから不味かったか。ドアを開けずに対応するかなどの心配りが足りなかった。恋の駆け引きを差し置いて、今起きた出来事をこう判断いたしました。

 とにかく、教師として、子供を親から預かる立場として、このまま放っておいていいはずがない。


「四年二組の、はい、お願いします。」


 自分が追いかけてはより遠くへ逃げてしまうだろう。そう判断した先生はすぐに警備隊へ連絡を入れていました。

 存在しない強姦未遂の通り魔が不審者警戒情報欄に加えられたのは、その数日後の話。


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