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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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友達の成長

 友人から、もうすぐ自分は死ぬかもしれないと、今後についての相談を受けました。


 穏やかな話ではありません。

 自らを亡国の姫君と自称したり怪我をしているわけでもないのに腕に包帯を巻きつけていたり、芝居のかかった発言を繰り返すのであれば問題は無い。それは若者が創作に感化された一過性の病気のようなものです。


 友人として近くで見ている限り、彼女にはそれが無い。むしろ本物のお姫様と身分を越えた交流をしているのだから、そうやって自分の世界に入り浸る必要が無い。

 ならばなんだ。愛用のコップが割れたり靴紐が切れたり黒猫に前を横切られたりしたのでしょうか。それとも今まで秘密にしていただけで、差出人不明の手紙が送りつけられていたり、誰かに追跡されている感覚があったのか。明日明後日、もしかしたら今日のうちにその毒牙が剥くかもしれないと感じたのか。


 とにかく事情を聞く必要があります。できる限りの対策はとりましょう。変な魔法しか使えないわたし一人では力不足かもしれませんが、他にも同級生達が居る。マツリさんもいる。宿舎のご近所や、先生や理事長にも協力を願おう。


「協力は嬉しいけど、男子とか先生はちょっと……」


 なんてことだ。彼女は頼りになる男達への協力を拒否してしまった。

 男女の違いという面を差し置いても、先生達は頭脳も能力もわたし達の上に居る。もちろん彼女がそれに劣るとは思わない。決断力と行動力、そしてなによりも家庭環境が素晴らしい。


 彼らに秘密にしておかなければならない内容。それは何故なのかを考えます。いや、考えたくありません。

 今挙げた男達の中に、彼女の命を狙う者が居るということになる。


 いつも元気を持て余して走り回る少女をここまで怯えさせるのだ。もし見知らぬ誰かであれば、彼女は犯人を捕まえて縛り付ける。そして二度と付きまといなどできぬよう色んなものを相手の心と体に刻み付けるだろう。

 それが無い。つまり、身近な誰かが悪事に手を染めたのだ。


 先生は、わたしが居ながら他の女に手を出せる程の余裕がない。

 ならば理事長か、それともポールとマッシュが二人掛かりで抑えつけ暴力を働いたのか。まさかクロード君が、高貴な身分の相手に手出しできず、その身体的な欲求を身近な相手で発散しようとしているのだろうか。

 わたしが未来を変革させている裏で、とんでもないことが起きていた。人と人のぶつかり合いが学園都市を内部から崩壊させようとしていたのだ。ああ、なんてことだ。




 彼女らしくないしおらしさで、とても言いにくそうに、何があったのかを語りはじめました。


 ここ数日頭痛、腹痛、吐き気などの体調不良が続いている。めまいもありとにかく身体が重いし寒気がする。最初は風邪かと思ったけれど、咳や喉の痛みは無いし、鼻水も垂れてこない。

 とりあえず風邪薬を飲んで痛みはすこし落ち着いたけれど、今朝目覚めた時に確信した。これは未知の寄生虫、もしくは魔法生物による攻撃だ。

 その根拠は出血だ。怪我をした記憶が無ければ尻の穴に大きなものを突っ込む遊びをしたわけでもない。ましてや肛門が裂けたりイボができるという痔でもない。それでいて、身体の中、だいたい下腹部の辺りに重い痛みがある。つまり内臓をやられてしまったということになる。

 自分がどれだけのダメージを受けているのかが分からない。今思えば皆が使うトイレが血まみれになる惨劇の痕跡を何度も見た。無関係と思っていたけれど、遂に自分の番が来てしまったのだとナミさんは語ります。


 今までの謝意を述べらた後、綺麗なままの姿を覚えていて欲しい、最期の瞬間を見られたくないということで、言いたい事だけ語って満足した彼女によって、わたしは部屋から追い出されてしまいました。



 聞いてしまった以上、何とかできないものかと、扉の前で考えます。

 もしナミさんの言う通り見えない敵からの攻撃であるのなら一大事。そうではなく、誰かが嫌がらせを行っているのならば少し安心だけど、それでもやりすぎだ。

 ナミさん自身を疑ってはいない。現に彼女は未知の脅威に怯えてしまっている。同性でも同年代でもその場所を口にするのは恥ずかしいと思える文化の中で過ごしていたせいもあるのか、手遅れに近い状態に至るまで周りに打ち明けることができなかったんだ。わたしに伝えるのにも相当な勇気が必要だったはず。


 相談できる大人は居るとしても、先生は男。女性教師もいるけれど、すぐに突っかかるナミさんを可愛く思っていないから、そちらに打ち明けるのも難しい。ご両親にも心配はかけたくないと相談はしていないとか。



 体調不良、寝小便にも似た形で起きた謎の出血。今までなかったものが急に来た。年頃の女の子。

 わたしが持つ知識の中に思い当たるものが幾つか浮かびます。いえ、それじゃないかと口にしようとはしましたが、それを口にする前に部屋を追い出されてしまいました。せっかちから来る早合点はあの子の悪い癖だとわたしは思います。


 寄生虫や伝染病ならば既にわたしや他の生徒も罹っているはずだから、それは無いだろう。

 誰かがナミさんに呪いをかけている可能性はあり得るけれど、先生をはじめ多くの大人と会う機会の多いのに、誰も気が付かないわけがない。これも無い。

 そうした外部からのものではないとなれば、これはナミさん自身の物事になる。そう考えれば自ずと答えが導き出せる。


 それは恥ずかしいものであり、汚れたものであるという文化がある。だがそれは色んなものが未発見で未発達だった時代のものであり、当たり前に存在するものを否定するのは野蛮な行為とわたしは考えます。だからその感覚で準えた遠回しな言い方はいたしません。


 ナミさんの身体で生物の雌としての機能が目を覚ましました。つまり初潮が訪れたんです。

 ここがわたしの実家でナミさんが使用人であったのならば、夕飯にお赤飯を炊かれて大々的に周知される辱めが行われていたでしょう。ここが学園都市で本当に良かったと思います。


 恐れるのは知らないから。

 自身に起こりうる成長を知らずにいた。それだけだ。わたしは自分で体験していないから何とでも語れるけれど、それは健康でありながらも病気のように苦しむものなんだ。




 なにはともあれ、友人の成長は喜ばしい。

 とりあえず、彼女に身体の成長と変化を学ばせて、変な誤解を解きさえすれば万事解決です。

 だけど、壁として現れた問題がある。誰がどうやってナミさんにそれを教えるのか。


 自身の身体についてのイベントは非常にデリケートであると、どこかの偉い人は語ります。

 身体の仕組みを習うのはいつかありうることだけど、そのための心の準備が必要だ。それがどの段階かを見計らわなければ、個人差のある身体の成長に遅い早いの順位が付いて、いじめや差別になってしまう。割合として少ない女子へのからかいがたった五人の教室が学級崩壊を起こすなんてあってはならない。


 今日よりも前から知っていれば突然の変化に戸惑うこともなかっただろうけど、身体の方が先に来てしまった。不調の原因が何であるかの診断を自分で行える人間はいないから、それはもうしょうがない。起きたことへの理解として学ぶ機会が訪れただけなんだ。



 それを伝えるのは、先生か、わたしのどちらかだろう。

 生理用品など、そういうものがあるのは知っている。去年の掃除の最中に、自身のそれすらまともに管理できなかったカエデさんの為に用意されていた物が何度も飛び出した。わたしの知識は先生からのものなので、先生ならばそれらの使い方もよくご存じでしょう。


 そうなると、先生が教えることで起こりうる誤解が恐ろしい。

 なにぶん相手は多感な思春期真っ只中。教え方一つ間違えただけでも大事に至ってしまう。

 相手が自分を繁殖相手として見做しているのではないかとまで妄想を拡げることもできるでしょうし、先生や他の異性を知性のないヤリたがりの獣と判断するかもしれない。男というものを汚いものと見下してしまう可能性があるのです。

 先程とは逆の心配だ。たった一人の勘違いが学級崩壊を起こすなんて不幸は絶対にあってはならない。教えるにあたり、責任は重大です。




 ともかく、先生には伝えなければならない。

 個人のプライバシーに関わることだけど、知らぬままで勘違いやすれ違いが起こってからでは遅いんです。


 ナミさんの部屋から一直線に先生の下へ向かいます。

 時間を追うごとに落ち込み具合は進んでしまう。なるべく早急に伝えたい。歩く間にどう伝えるかを考えていたせいか、先生の前に立った瞬間、わたしは誤解しか産まれない発言をしまいました。 


「先生、生理が来ました。」


 先生との大人の身体関係はわたしの身体が出来上がってからという約束です。わたしの言葉は、繁殖行為としての性交渉が可能になったので、今夜から早速愛の営みを始めようという宣言と捉えられてしまいました。

 早すぎないか、と言いかけた口を先生は手で押さえます。その指で覆った口で、最近の子供は昔よりも生育が早いと言われている。性成熟もそれに倣って早くなっているのかと呟きました。

 生理が来たから即繁殖可能という事はない。内臓が動き出したとしても、身体が成熟しなければ妊娠出産の影響に耐えられない。それはもう聞いたので知っています。


「ちがいます、ごめんなさい、わたしじゃないです。」


 逸るあまり、説得する相手が一人増えてしまいました。


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