表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
152/301

団体の内部を調査せよ

 特別学級出席番号五番改め、弱小団特別学級支部(仮)、アサヒ・タダノです。


 面白そうなことがあればそれしか見えなくなり、言い出したら他人の意思など意に介さない。理事長の人物像を、そう先生は仰っていました。実際その通りだ。人の話を聞かないどころか、自分が進もうとする方向に無理矢理方向転換させてくる。

 先生の地位を脅されて、なおも首を横に振れるわけがありません。わたしが先生の家に通い妻する現状を終わらせる権限はあの人が持っているのです。


 巧妙に、それでいて偽造が厳禁とされる本物のタブーには抵触しない偽物の申し込み用紙にわたしのサインは記されました。

 偽物でも抵抗がある。そもそもやりたくない。だが、先生が先生を続けるためにはやるしかない。




 スパイとして組織に潜入したわたしの目的は、弱小団という実態の分からない集団の全貌を暴くこと。

 パンフレットの封筒詰めと、それを該当者に投函したり、直接会ったりして勧誘を行っているのは加入したての末端の仕事。それで団員を招き入れる毎にステージが上がるという、一見単純に見える昇格システムで成り立っています。

 団員の勧誘は新人として入団したわたしに宛がわれるであろう仕事でもあるのですが、そんなものを悠長にやるつもりはありません。というか、やりたくありません。

 目の前に吊るされたご褒美の為に彼らはひた走るのだけど、彼らは絶対に山の頂上にはたどり着けない。苦労して成り上がったと自身の体験談を豪語する人が居るけれど、あの人は最初からその立ち位置に居るんです。


 彼らの行っている行為はねずみ講やマルチ商法など、悪徳商法とされるものと似ています。

 どう説得してもその内部に入れ込んでしまった人を検挙や破産など身を滅ぼさない方法で救い出すのは難しいとされていたけれど、確かにその通り。

 本人達は同じ目線でイジメられっ子を救っているつもりでいる。自分達が悪事に手を染めていると思っていないのです。先日わたしに勧誘の魔の手を伸ばした二人を見てもそれがよくわかります。



 物事は早く片付けるべき。料理の後の調理器具も、食べ終わった食器もすぐ洗ってしまえば溜まらない。宿題だって毎日ちょっとずつなんて面倒なことをせず、やる気があるうちにほぼ終わらせてしまった方が後が楽。

 さっさと片付けてこの気味の悪いバッジを外す。そう決めたわたしは学園中を歩き回ることとなりました。


 彼らは皆誰かしらの勧誘か、紹介を受けて弱小団に加入しています。

 だから、それを辿って行けば勧誘を始めた張本人か、最初期のメンバーに行き着くはず。手柄を立てて気に入られ、信頼と信用を積み重ねてボスに謁見なんてやってられません。ゴールから辿って迷路を解くのです。ついでに繋がりを把握して、隠れている団員も暴き出す。


 そう思って始めたのですが、これがなかなか進まない。

 わたしを勧誘しに来た女の子は金髪碧眼君からの勧誘を受けて、その彼は年上のジョニーから手を差し伸べられた。ジョニーは友人のマックやミッチェルと一緒に隣の部屋に居を構えるアルフレッドからの誘いを受けて入団。アルフレッド、通称アルは憧れのメリッサさんが入団すると聞きつけ彼女の豊満な胸が誇る大峡谷に申込用紙を放り込んだ。メリッサさんは主様と共に友人の危機を救う為。その主様はもともと所属している団体からアドバイザーとして派遣された補助人員。団員達に親しみを感じ、なんだか放っておけなくなったからという理由で鞍替えをした。




 魔法を使いながらも歩き疲れてしまったので、わたしは階段の、踊り場に辿り着く一番上の段で休憩すべく腰掛けていました。

 友人との繋がりや絆はこの身で体感したように大きな輪になっていますが、彼らが持っていた財産を全て団に献上しているのです。人情で釣って全てを奪おうとする団体の体制に誰も異を唱えないのが不思議なくらいです。

 大事な友人であればこそ物申すべきだし、聞き入れるべきだと思うのです。



 次はメリッサさんの主様が元居た団体に問い合わせるか、最初に主様に助けを求めた人物を探そう。

 これだけの人数を騙してお金をせびる罪深い団体がどうなろうと知った事ではない。わたしはわたしが与えられた任務をこなすまで。

 立ち上がろうと膝に力を入れようというところで、階段の下に現れた大きな男子生徒に声を掛けられました。


「新入りってのはお前だな。チョロチョロ嗅ぎまわりやがって、何のつもりだ。」


 見知らぬ先輩に因縁を付けられた。いや、違う。夕日を反射して彼の胸元に光り輝くのは弱小団のバッジ。その隣にある学年章が見間違えでなければ、彼は五年生。

 その身体のどこが弱小なのかと突っ込みたくなる立派な体躯。それでも魔力が弱ければ立場も弱くなるという、ああ悲しき実力社会。

 わたしの目の前、もとい、下の人との関係は、大きな熊が小さいウサギの子供を捕らえようとするものと違いありません。悪漢が女子供を略奪する光景そのものとも言えましょう。



 何のつもりだと聞かれたら答えてあげるが世の情けなのですが、それを答える前に問いかけなければならない事がありました。


「すみません、そこからわたしのパンツ見えますか?」

「あ? そんなとこで座ってるんだから見えるだろ――」


 体格と口調から、このデリカシーの無い質問にも答えてくれると信じていました。

 彼とわたしの位置関係、わたしの足の開き具合、スカートの垂れ方。ついでに夕日の角度からの廊下の明るさ。もし、全てが絶妙な条件で揃ったなら、見えそうで見えないという健全な基準のイベントスチルとなったでしょう。


 それは三枚セットの大量生産の市販品。特別変わったデザインもないシンプルなパンツ。そして支払いは先生であり、当然ながら布自体は既に見てしまっている。だが、履いている姿を見ていない。見せたことが無い。なんなら今晩披露する予定だった。

 残念ながら、彼は先生すら見た事のない秘密の花園を彼は覗いてしまったのだ。


 見事な逆三角形のシルエットの立派な体格だけど、それはつまり身体の上半分に重心があるということ。

 わたしは彼が言葉を言い終える前に、胸元の弱小団のバッジを目標に、わたしの身体をぶつけました。立ち上がるまでもなく、そのまま十二ある階段の一番上から転げ落ちるように飛び降りて、蹴飛ばしたんです。

 怪我以外に何の結果も及ぼさない無謀な行為に驚き慌てるよりも早く、わたしは彼の胸を踏みつけました。そのまま願いを形にする魔法を使い、踏みつけた胸元を強く押しながら、同時に彼の足を前に引っ張ります。こうすればバランスを崩し、大きなものでも簡単に倒すことができると本で読みました。もしその理論を実践するのなら、魔法を使わないほうが良かったかもしれません。


 行動の自由を奪えばいいのだから、その場で見えない力で縛り付けるだけにすべきだったかもしれない。でも、先生にも見せていないパンツを見知らぬ男にいつまでも見られているのは不快でしたので、これで良かったんです。



 わたしは大の字になって倒れた先輩の大きな胸筋に馬乗りになりました。

 魔法で身体の自由を奪われた良い体格の先輩は、まるで檻に捕まった野生動物のように大騒ぎ。

 俺になにをした。ただじゃおかねえぞ。これからどうするつもりだ。何が目的だ。あまりにも多くの疑問を投げかけられるので、どれから答えていいのかが分からなくなります。

 まずはこれ以上危害を与えるつもりがないことと、順序だてて質問に答えることを伝え、相手を落ち着かせねば。足が痺れるほど大騒ぎされては話すものも話せません。


「黙れ。こちらの質問に答えれば痛みは無い。だが回答が無ければ考える。」


 イメージしたものを口にしてはみましたが、なにか違う気がします。

 とりあえず、わたしに踏まれている大男は大人しくなりました。いくら幼い少女が相手で本気になれなかったとしても、数倍もの体格差を前にして何もできなかったのは紛れもない事実。それに気付いたのでしょう。例外が一人だけいらっしゃいますが、基本的に魔法の技能は筋肉を超えるのです。


 怪しい動きをしている通り正規の団員ではない。学園理事会からの派遣である。

 団体運営の為の資金調達に問題があり、加えて弱小団の実体が掴めないため、調査のために不本意ながら駆り出された。

 この団体の責任者と話がしたい。場合によってはその場で理事長を呼び、全員お縄とする。

 最初は怯えながらでしたが、足元の先輩はわたしの話を聞いてくれました。




 驚くことにこの御方、弱小団の創立時からメンバーの一人。いずれどこかに行き当たるとは思っていましたが、ようやく狙っていた人物を引き当てることができました。


 足の下から聞いた話では、かつてこの街には魔力の弱さで落ちこぼれた子供達を取りまとめ、面倒を見ていた人物がいたそうです。

 これがまたとんでもないろくでなしだった。彼女の保護下にある彼らへの危害は全て彼女への攻撃と見做され批判されるのだけど、その保護の見返りとして、全員から毎月決まった額の上納金を徴収して自分の財産としていたのだ。

 搾取に苦しむなか、男子生徒が一人立ち上がり、それから色々あって自分達を支配する魔女を追い出した。残され途方に暮れる子供達の前で檄を飛ばし、啖呵を切ったのが、弱小団を統べる団長だ。弱い立場でも強く生きていける。そんな自分達の場所を作りたい。自立したいと願う落ちこぼれが集まったのが、今の弱小団。


 その人となりに興味はありません。統率力や決断力は大したものですが、わたしの興味の対象にはなり得ない。先生を越えて、先生よりもわたしに影響をもたらしてくれる相手でなければ、わたしがなびく事はないのです。


「もう一度言う。今から団長と話がしたい。会わせろ。」


 一番最初に因縁をつけられた際のイメージが離れず、どうしても口調がおかしなことになってしまいます。でもしょうがない。わたしは今にも首筋に噛み付きそうな敵意を持つ相手との会話経験がないのです。


 現状、その自称魔女よりも酷いことになっている。そのことについて問い質さないといけない。

 わたしは、どれだけの落ちこぼれが集まっているのか、団体の規模を報告しなければならない。


「断るって言ったら?」

「わたしに乱暴しようとしたって通報します。」

「このやろう、悪魔かよ……。」


 わたしの下着を見た。これだけで少なくとも二日は拘束される。

 一度そうなってしまえばもう後の祭り。あまりよくない噂の弱小団の内部でそういった性的搾取が日常的に行われていると噂が立つのも時間の問題になる。

 そんなのは、足下の彼も望んではいないでしょう。



 最初の志はまともなものだった。彼が色々聞いて回っていたわたしを疑っていたのも、家族以上に大事な仲間を守ろうとしての考えと行動だ。

 弱小団は申請さえ出せば非正規団体から学園の補助を受けることのできる団体へと格上げができるはず。わたしの報告で自ずと色んなものが明らかになり、全財産を巻き上げたのが誰なのか、そのお金はどこに行ったのかも暴かれるだろう。もし現メンバーの中にそうした人物が居なければ、無実であると声を上げられるのだ。これは相手にとっても悪い話じゃないはず。


 少女に拘束されている今の状態でその顔を見られたら勘違いされそうだけど、仲間の事をいい奴等だと語る表情はとても清々しかったです。

 彼の、最初の仲間たちが外道に堕ちていないことを祈ります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ