表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
144/301

中間試験会場選定~××××しないと出れない部屋~

 わたし達の魔法学園では年度の半ばに行われる中間試験。

 魔法によって作られたヘンテコ空間に入り、今までの知識と経験を生かして制限時間内に脱出するというもの。


 試験の場に教師達が実際に入り、安全確認を行う下見が慣例として行われていました。



 わたしが先生に付き添っていると、生徒が見れない裏側を覗き見ることもあります。

 中間試験の準備が実際の日時よりも早くから行われていると知れたのもそのおかげです。


 どれだけ超人であろうと、学園の運営全てを理事長の匙加減で執り行うのは不可能。

 試験の為の場を用意する魔法自体は理事長の手によるものですが、その突拍子もないアイデアは過去の生徒から出されたものがほとんどです。

 それ故に、物事をよく知らない生徒からの発想を土台としているせいで、時に死の危険を伴う空間ができてしまうといいます。

 溶岩の流れる洞窟や、底の見えぬ淡水沼や、雲よりも高い天空にある城など、落ちればちょっと怪我した程度では済まされない。初見殺しの即死トラップで喜べるのはゲームの中だけです。


 試験の際に死亡するなどあってはならないので、下見は大事です。

 魔法の暴発事故はそれだけ危険なのだけど、学園ははみ出し者を掬い上げる場であって、選抜と淘汰を執り行う場ではありません。均一化ではなく最低ラインの底上げが魔法社会から学園に与えられた使命なのです。




 先生が試験官を担当するクラスに用意された部屋で事件は起きました。

 わたしと先生、二人で入った瞬間扉が閉じられてしまったのです。


 前年度に引き続き、中間試験のクリア条件はその部屋からの脱出。

 昨年度は宝箱の鍵を見つけ出す事でしたが、今年はまだ候補の選定中。この下見の結果で試験の内容が決まります。

 下見を行うのは先生だけではないので、わたしが見た部屋が試験の内容になるかどうかはわかりません。先生は教師陣の中では立場が弱く、こうして一番試験にはそぐわないであろう場所を押し付けられている。すなわち、生徒への試験内容の横流しには当たりません。



 この部屋での脱出条件は、入った二人が××××をすること。

 掲示板らしきものにそう書かれていたのですが、肝心の××××が伏せられていて、わかりません。


 いえ、多少知識があればこの伏字の中身は自ずと理解できます。

 部屋の内装はホテルのようだ。ダブルベッドよりも大きなベッドがひとつある。浴室は妙に広い。二人の仲良しが一つの部屋に宿泊するのには適していると言えるでしょう。

 あまり広くない部屋の中で特に目を引くのはベッドの奥にある枕。『YES』とどこにあるか分からない国の言葉で肯定を意味する言葉が大きく描かれたピンクでハート形の枕が二つ並んでいます。棚の上には小数点の数字が書かれたシンプルなデザインのお菓子の箱のようなモノがある。中身は空。


 背の低いテーブルの真ん中にこれ見よがしに置いてあったリモコンでテレビを付けてみると、真っ暗なのに、全裸の男女が絡み合っているであろう音声だけが流れました。それの実物を見た事のない純粋無垢な子供が考案した場所なので、映像のほうを再現はできなかったのでしょう。


 学園都市の中にそれとして機能している宿はありませんが、その存在は本で知っています。

 ここは何故か数時間の休憩の為だけの料金プランが存在する安宿を模して造られている。ストレートに述べるのであれば、これはラブホテルの一室です。





 そういう条件を提案したのは生徒だけど、作ったのは理事長だ。

 こんな情操教育の悪い場所、作る前に気が付かなかったのか。男女の身体的な交際を不純異性交遊として否定しておきながらなんだこれは。やる事やってたじゃないかと非難する為の罠なのか。


「ダメですね、これは。」


 先生は、額に手を当てながら首を振ります。

 一人で入った場合は扉が閉じないので脱出不能な状況には陥りませんが、閉鎖環境からの脱出という試験にもなりません。そして三人以上居ても扉は閉じない。二人ペアで一人余ることになり、同じ部屋で他人の愛し合ってる光景を指先を噛みながら見つめる悲しい存在は生まれない。


 わたしと先生のように相思相愛ならばいい。いや、接触したことでの性病や望まぬ妊娠のリスクを考えれば安全な形で行えない性行為は愛が無いと教わった。ならばだめだ。そのために用意された備品が欠品しているのはサービス精神が欠けていると言わざるをえない。好きでもない男女が同じ部屋に入ればそれはまごうことなき事故だ。互いにその気のない男同士で入ってしまったのなら地獄の様相を見せるでしょう。


 友人が、男子同士でまぐわう姿は考えたくない光景です。

 部屋からの解放条件も試験としてそぐわないと、先生は手にしていた書類に書き記しました。





 わたし達がどうやって脱出するかが問題です。

 ここの扉は、くぐった二人が××××をしなければ開放されません。


 先生は魔法での脱出をしようともせず、考えていました。

 魔法を使わないのは、徒労に終わるから。

 出る為の条件の拘束力が非常に強く設定されていて、仮に壁や扉を壊したとしても、条件をクリアしなければまた同じ部屋に戻ってしまうんだそうです。

 外への連絡はわたしも先生も不可能。双方の受け取り相手が目の前に居るのだから仕方ありません。


 どんなに頑張ろうと、それをしないと部屋は出られない。だが、わたしと先生がこの部屋から出ることができたなら、それは教師が生徒に手を出したという結果に他ならない。

 ご覧の通りの小さい幼女にわいせつな行為をしようとするなど言語道断。わたしと先生ならそういうこともあるだろうと生温い目で見られる程度では絶対に済まされないでしょう。先生の立場が一層悪くなるのは避けなければなりません。先生が先生でなくなるのは絶対に避けなければ。




 悪辣です。こんな部屋をアンケートに記入したエロ坊主はどこのどいつだ。先生の立場を悪くしようなどと企む人は全員粛清してやります。強力な下剤を精製し、おしりの穴からたっぷり注入してやります。さあ、シリを出せ。


「アサヒさん、失礼します。」


 考案者への報復を考えていたところ、眼前に先生の顔が降ってきました。しゃがんでわたしの目線に合わせてくれたのです。

 そのまま後頭部を手で支えられ、わたしの顔が一気に引き寄せられます。


 この動き、この流れをわたしは知っている。これは間違いない、行為の開始を告げる口づけだ。

 何をするにしろ、まずは深く濃いキスから始まると相場で決まっています。

 先生の表情は至って真面目。双眸はまっすぐにわたしを見つめていてくれていました。


 やる気だ。先生は、脱出する為に禁忌の箱の蓋に手を掛けた。

 なんということだ。今まではわたしから一方的な形の体をとって誤魔化していた。流されて受け入れてしまったという体をとっていた先生が、ついに自ら制していた感情を解き放ったのだ!

 飢えた獣欲は今まさに無垢な肢体にマーキングすべく駆け出した。


 獣と対峙するわたしの心は既に決めている。身体の準備は未然なれど、意志は鋼のつもり。男じゃないけど二言は無い。

 わたしはそれを受け止めると宣言した。あれはわたしのこれからを全て賭けた契約です。身体が縦に引き裂かれようとも、想いには応えてみせましょう。




 目を閉じて先生を受け入れようと窄めた口は、触られませんでした。

 先生が狙い撃ちしたのは唇ではなく、ほっぺただったのです。


 頬にキス。

 そんなのは社交関係のスキンシップの一つでしかない。それが恋愛や親愛に繋がるとは考えられません。

 手を繋いだりキスをすれば子供が産まれるというごまかし方もわたしは知っています。わかる人にはわかるものを並べて匂わせる人物が相手ですから、この程度では性行為とは判断されないでしょう。


 本番行為に至らずとも、もっとそれらしい光景が欲しい。服の下に手を差し入れ指を這わせたり、わたしが衣服をはだけさせて瞳を潤わせ先生をベッドの上から見つめたりとか、ズボンを下げて下半身を露出させるとか、より直接的で生々しいものでなければ到底エッチな行為とは呼べないと思うんです。


 不満を口にしようとしたタイミングで、扉が大きな音を立てて開け放たれました。

 まるで至近距離の落雷の音のようで、身体が竦んでしまいます。


 扉の向こうは元の場所。

 どんなペアであろうと、性行為が確認できた時点でこうやって開け放たれるというデリカシーも無い仕掛けが施されていました。

 入ってしまった者の関係を度外視して交わらせるだけでなく、それが脱出のための唯一の方法だというのに、身体の交わりを衆目の目に晒すというあんまりな仕打ちが待っていたのです。

 最初から最後まで、この部屋を考えた人の性格の悪さが伺い知れました。





 結局、わたしと先生は何の規則も破ることなくその部屋を脱出しました。

 納得したくはありませんが、先生の立場は守れたのでヨシといたしましょう。



 何故ただの挨拶でわいせつな行為と判定されたのか。先生は、いかがわしい部屋が試験会場の候補にあがっているという事実へのストレスと、、子供には見せるべきではないものを見せてしまったという罪悪感で痛む頭を手で押さえながら教えてくれました。


 部屋の散策の最中、テレビに映されたアダルトな映像が音声だけだったのを見ていた先生は、この部屋を考案した人物は××××が何を意味するのかをよく知らないと考えました。

 考案者はわたしと一緒で本の中のロマンティックなものを想像している。×x××とは、愛を囁き合いながらもつれ込み、次のコマでは二人とも裸で布団に横たわってピロートークに花を咲かせるような少女漫画的なものを考えているのだろう。

 そんな相手には、キスの未遂でさえも十分すぎる刺激となる。


 早急に脱出したかったのだけど、わたしに一度顔を近付けて、条件を満たした瞬間に部屋が消滅することを考え一旦停止。手を出したと広められれば自分の社会的地位が失墜してしまう。

 そして一瞬の間に口づけの場面を公にされても問題ない場所ならばどうとも言い訳が付くと思い直し、頬を選択したそうです。


 テレビの様子がおかしかった程度の違和感でそこまで見抜いた先生は本当に凄いです。




 フィクションを現実に持ち込むのは魔法の特権だからこそ、本で見たこの部屋を再現してみたかったのでしょう。力も技量も足らぬ生徒には難しい魔法でも、理事長のような馬鹿力があれば不可能ではありません。


 もしかしたら、この部屋を提案した人はわたしと先生のキスを見ていたのかもしれません。

 覗き見される気分はよくありませんが、見られたところでどうということもありません。ラブラブなところを見せつけてやりましょう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 第一候補は唇だったんですね先生! さては無意識下では乗り気ですね先生!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ