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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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特別学級のなかまたち

 人は二人いればそれだけでトラブルの元になります。

 と、本で読みました。実際その通りだと思います。



 入学式後の顔合わせから一週間経たずして、特別学級五人の中での序列のようなものが明確になってしまいました。

 それ自体はいいのです。わたしは大好きな先生がこの学級の担任だということ以外は特に興味はありません。


 先生以外の人と関わりたくないわたしですが、学級委員長または仲良しグループのリーダー的な立ち位置に収まりました。


 外から見れば先生の為に尽くす生徒と献身に甘える先生というのは癒着を疑われますし、そこから素行ひとつひとつに揚げ足取られる事になりかねません。

 同級生の四人がそんな告発を行うような陰湿さを持っていないことを願うばかりです。




 特別学級は他の組との接点がありません。

 通常の指導方針では対応できない生徒を同じ場所に集め、能力に見合った教育を個別に行うのがこの学級の役割です。

 魔法が使えない生徒に対して魔法を教えても仕方ありません。それだったら同じ時間で薬草の使い方などの知識を叩き込んだほうが効率的。その通りだと思います。


 その方針であれば、家庭教師のように一人に対して一人の教師がついたほうがいいと思います。


 今ここにいるのは五人の生徒と一人の先生。負担が大きいと思うんです。

 魔法使いとしての一般常識や文字の読み書きや計算のような座学であれば何人居ようと足並みを揃えられますが、個人の能力に関する物事は簡単にはいきません。

 わたしの立場上、生徒として先生の方針に反せず思い通りに育てられて付き従うよりも負担を和らげる方法が思いつきません。

 どうすればいいのか分からない。それでもわたしは先生が心労で倒れたりしないように支えたいんです。




 今日も、事件がありました。



 授業も無事終わり、夕飯の時間までこの教室で読書でもしようと本を取り出したのと、いつもの二人が言い争いを始めたのは同時でした。


 ポールとマッシュが今日も磁石のように反発してしまいます。

 それぞれ別の方面を向いているのならぶつかるハズは無いのですが、なぜかいつも張り合ってます。

 今も二つのお菓子、どっちが良いものなのかを言い争っています。どっちもチョコレートとビスケットを組み合わせたものですし、口の中に入ってしまえば一緒でしょうに。


「そんな日和見許さないぞアサヒ!」

「そうだ! どちらかひとつしか選べないんだ!」


 白黒はっきりしないといけないという意識だけは一致してるので、似た者同士実は仲がいいのかもしれません。


「どっちも買えばいいじゃないですか。」

「小遣いが無いんだよ!」

「月末までコレしかないんだぞ! みんな大金持ってると思うな!」


 手切れ金とともに家を追い出されたわたしは子供が持っていい額ではない大金を自由に扱えます。それに対して皆は親から送られてくる仕送りだけでやりくりしないといけません。失念していました。


「じゃあ、それぞれ好きなの買って二人で分けるとか。」


 わたしの提案は目に鱗だったようです。二人は目を丸くして、見つめ合いました。さらに両手を掴まれて乱暴に上下に振られ、とても感謝されます。それはいいからツバを顔に飛ばさないで欲しいです。汚いので。


「絶対こっちがうまいに決まってる!」

「俺の半分を食ってから言いやがれ!」


 二人が出て行ったことで騒がしかった教室がとても静かになりました。



 顔をハンカチで拭いて目を瞑っていた僅かな時間でナミさんが目の前に現れました。

 この子は何かにつけて男子三人はダメ、わたしのほうが凄いと褒めちぎります。尊敬してくれるのはありがたい話なんですが、わたしはそんなに大きな存在ではありません。

 呪文を唱えての魔法はひとつも使う事はできませんし、運動神経も良くないですし。


「クロードとは大違い! アサヒさんはすごいわ!」


 何かと比較してまで褒められたくないと何度も言っているんですが、育った環境もあるのかなかなか変えられないようです。 


 クロード君は悪い魔法使いを倒した英雄という部分で過大な期待を寄せられています。産まれてすぐの話ですから、自分の意志で何かを為したわけではないというのは誰に言われずとも理解できるはずなのですが、そうでない人間も山ほどおります。

 期待される度に幻滅されてきたのでしょう。誰かの顔色を窺い常に怯えている姿はとても噂の英雄の姿とは思えませんし、かわいそうです。

 そんな直近での活躍をわたしと比較されてしまった苦労人のクロード君は狭い教室の隅っこで縮こまってしまっています。


「クロード君はクロード君で凄いんですよ。」

「なんでもできるアサヒさんに比べたらアイツなんて何もできないわ。」


 彼女に悪気はないんです。悪いのはこういう形でしか意見を述べる事が許されなかった生活環境です。

 大人になってしまうと変えるのは難しくなりますが、まだ路線修正はできます。そのために特別教室があると信じたい。


「明日の授業でナミさんが使うナントカっていう草、クロード君ならどこに生えてるか分かると思いますよ。」

「あら、そうなの? でも教えてくれるかしら?」


 なんなら一緒に行ってみれば意外な面が見れるかもしれないとも言ってみました。

 とても渋ってはいましたが、わたしがそこまで言うのならばと、教室から逃げ出そうとしていたクロード君に話しかけ、そのまま彼の手を引っ張りながら教室を出ていきました。


 さて、人払いも済んだので、読書の時間を楽しみましょう。





「と、いうわけです。」

「わかりました。ありがとうございます。」


 机に肘をつき、頭を抱える先生への状況報告が終わりました。

 何事もなく一日が終わったと思った矢先、わたしが人の心を操る魔法を使っているという疑惑がかけられ呼び出されしまいました。


 人の心を操る魔法は使ってはいけないとされる魔法の一つです。クロード君が倒したという悪い魔法使いもこれを得意としていて、名前を口にすると洗脳されて彼の手先になる呪いも心を操る魔法だそうです。


 告発した通りがかりの老教師曰く、こんなに問題児揃いなのに学級崩壊していないのはおかしい、とのこと。

 そこは先生の凄さを学び見て、自分の教育の仕方にも反映して欲しいものです。


「ごめんなさい。」


 少しでも負担を軽くして差し上げようとしていたのに、また先生にご迷惑をかけてしまいました。


「謝るのは僕の方です。僕がもっとしっかりしてればあなたが疑われる事も無かった。こんなんでは教師失格ですよね。」


 先生の、伸び伸びと子供らしく生徒に過ごさせたいという願いの中にはわたしも入っているようです。もちろんわたしは過ごしているつもりです。ポールとマッシュの喧嘩の仲裁も、当たりの強いナミさんと気の弱いクロード君の仲介も、子供の側でできる範囲をやっただけ。正直な話、読書のジャマなので皆に居なくなってもらっただけなんですが、そこは言わないでおきました。


 教室では魔法の痕跡が調べられていましたが、たった今結果が出ました。当然シロ。使ってないんだから当たり前です。


「自身持ってください。どんなに疑われてもわたしは先生の味方です。だって先生が大好きですから。」


 わたしが先生を好きなのは事実ですから本人の前でも隠しません。嫌われようとも臆しません。誰かが私に魔法をかけていて、こんな風に先生を想い慕うように仕向けている可能性も否定できませんが、それでもいいのです。



 わたしは先生が大好きです。

 先生の為ならなんだってやりましょう。


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