表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
132/301

大きな相手のちっちゃい象徴

 わたしは身も心も先生のものでありたいと願い、行動しています。

 好きの気持ちから体毛一本まで先生のもの。もしそういったご趣味をお持ちであれば血でも何でも喜んで提出します。

 それはわたしにとっての生きる目的です。誰になんと言われようとも変わりません。



 学園都市の治安があまりよろしくないのは相変わらず。

 現在、マッシュなど比べ物にならぬほど丸々とお太りになられた肥満体の男性に声を掛けられ、しつこく語りかけながら追いかけられています。

 わたしに声をかけて、無視されても追いかけて来るという行動がなければ、愛敬のある笑顔振り撒く可愛いおじさんとも認識できます。脂肪の多さから色んな発声器官を圧迫しているせいもあり、唾液多めの口腔から放たれる言葉はよく聞き取れません。気持ちの悪い声から放たれるさらに気持ちの悪い発言は遮断したいのだけど、相手の行動を観察する為に振り返りたくもない。


 彼はわたしの名を呼び、近付いてきた。狙いは誰でも良かったわけではないようだ。

 先生に恋する一途な乙女であることも理解している。

 ならばわかるはずだ。つけ入る隙など無いだろう。教師と生徒のイケナイ関係? 何がダメだというのだ。まずそれを明確に説明してみせろ。


「せ、先生の前で、恥ずかしい思いしたくないよねぇ?」


 単刀直入に。彼の目的はわたしの小さい身体。このまま人通りの無い路地裏か、自分の家か、ホテルに連れ込んで色々やるつもりであると自白なさいました。




 未発達の子供に対して欲情を抱いてしまう人達が居るのはわかる。法的にも、物理的に傷つけぬ為に創作物にその感情をぶつけて発散している人達が居るのもわかる。人間一人一人に違いがあり、こんな身体にも魅力を感じる人も居るだろう。わたしはその汚らわしいと世の中では白い目で見られる欲情を向けられる対象だけど、その考え方は否定したくない。幼女を好きになる大人を異常者と決めつけてしまったら、先生もそれに該当してしまう。

 もちろん、その許容は本物に手を出さない人に向けたもの。三次元に手を出すのはただの犯罪者です。


 先生の前での恥など今更過ぎる。

 頭の上からつま先まで。普段の服から裸まで。見られていない部分などほとんどない。むしろ見せている。トイレの扉を全開にして用を足す姿を見られ、一人で留守番をする時以外は鍵をかけろとも教わった。風呂場で転んで頭を打って裸のまま大の字で気絶していたこともある。強烈な躾のせいで就寝中に布団の中に漏らしてしまう事は無い。洗濯の手間が省けるから、これに関しては実家に感謝しよう。


 それに、例え初日で何か失敗しようとその夜限りではない。禁断の恋が終わりを告げる別れの前日に行われる一夜の交わりではない。確率が高いというだけで、たった一度の交わりで子を授かるわけでもない。一度の失敗が何だ。次に生かせばいいじゃないか。


「大好きな先生との初夜に失敗してはいけないだろう。おじさんと練習しよう。」


 この発言は、先生が没収した後、処分に困って置いていたという成人向け漫画雑誌の導入のようです。本当にそんな言葉を並べる人間が居たのには驚きました。


 その導入から始まる物語は、苦痛に耐えれずおじさんを好意の対象と誤認した状態で終わってしまったり、その後も練習と称した身体関係が続いてしまったりと、本来の目的を忘れてしまう悲恋のものが多かった。教師にバレて全てが崩壊してしまう話もあった。

 この男の話に乗れば全てが終わる。関わってはいけない。それをあの漫画本で学びました。


 性的描写全開の成人向け。しかも描かれているのは生理も来ていないであろう子供という、殊更わたしに読ませてはいけない内容とされていました。

 それを読んだことが発覚した際に先生が皆に叱られてしまいましたが、あの場所に本があったのは偶然です。それにちゃんと教訓がありました。きっとあの本は素晴らしい信念の下作られているのでしょう。怪しい大人について行ってはいけないとは言うけれど、その結果どうなるか、あの本を見るまでは本当に分かりませんでした。




 先生の先生はたいそうご立派。自分のものは普通だと言っているので、あれに準ずるものを男性は皆持っているのだろう。受け入れる準備ができていないのに、好きでもない相手のあんなものを挿し込まれるのはただの暴力。

 それを目的としているのが、今もわたしの後を尾行するこの男。恋する乙女の純情を弄ぼうなどとする最低の輩。


 今この場で警備隊に突き出すのは難しい。なぜなら彼の願望はまだ未遂であり、わたしもまたナンパされている程度の被害。振り切ればわたしの貞操は守られますし、幼い相手と仲良くしたいという思想そのものに罪はありません。

 だがこいつは入念に下調べを行っている。隠しているつもりはないけれど、先生とわたしの関係を知っていた。わたしがダメなら次の標的に手を付けるかもしれない。見知らぬ誰かが性被害に遭うなんて知った事ではないけれど、わたしへの交渉失敗から何かを学び取り、本懐を遂げられたのではなんだか気分が悪い。


「先生の家に行ってる事言いふらしちゃうぞぉ? 皆が知ったらどう思うかなぁ?」


 無視を貫き去ろうとするわたしに次の一手が打たれました。聞きましたか奥さん。この肉だるま、教師と生徒の爛れた関係を暴露するとか言い出しましたよ。


 血縁も保護者との交遊も無い無い幼い子供を家に連れ込む行為は社会的には許されざるものなのかもしれない。だが忘れるな。先生は名実ともにわたしの保護者を兼ねている。実の親はわたしを手放して、学園が引き取った。身元の保証人として教員や用務員が宛がわれるのだけど、わたしがワガママを通して先生の手元に収まった。つまり、二人の関係は学園都市公認。

 どうしても問題ありとしたいのならば、お気持ちではなく形式に則った形で意義を唱えるべきなのだ。




 わたしは無視して突き進みます。肥満体も贅肉を揺らしながら追いかけて来る。わたしがそうであるように相手も魔法使いの端くれ。身体強化の魔法はどちらも習得済みで、ただ歩くだけの体力勝負では埒が明きません。


「これを見ろ!」


 外聞の悪化すら意に介さない強情なわたしに痺れを切らしたのか、まわり込まれた巨体に行く手を阻まれました。

 手にあるスマートフォンなる細長い板の画面には、若干青みが強い紫っぽいピンク色の背景の中に、ヨロヨロとした文字で魔法陣が描かれています。


 目の前に居るので今一度彼の服装を確認。制服ではないところを見る限り学生ではありません。

 続いて画面に映されている魔法陣をよく見てみます。基本を覚えておかねば短縮と圧縮は使いこなせないからという事で、学園で教えられているなかでも簡単な物ならば見ればわかるようになりました。

 字が汚くて明確にこれだと断言はできませんが、意識の誘導、誤認、すり替え、体温上昇、体液の分泌量増加。魔法陣を視認する事で、見た人にその魔法がかかるように仕掛けられた呪文の式のようです。


 心を操る魔法。まことに残念なことに、こちらの魔法もわたしには効果がありません。

 人の心を惑わして自分の意のままに操るのは流行りなのでしょうか。毎度の事でうんざりです。この際、わたしにはサワガニさんからの干渉から守る為の魔法がかけられていると公表してしまってもいいのではないかと考えてしまいます。


「あれ? 効いてない?」


 効果が無いと気付いた肥満の身体がプリンかゼリーのように震えます。

 素人のわたしから見ても、これはよく出来た魔法陣だとは思います。学園の禁則である心を操る魔法であるという点を除いて評価するならば、創作の授業なら花丸が貰えそうな完成度を誇っている。

 今回の場合は相手が悪かった。わたしにかけられた魔法は学園最強の魔法使いによるものだ。そうでなければ魔法にかかってしまい、彼を先生と思い込んだ上に処女を捧げるべく服を脱ぎ去ってしまっていたかもしれない。

 そう考えると恐ろしい限りですが、そうはならなかった。だからなにも不安になる事はありません。




 切り札を失った彼の最後の手段は、その身体を使った強硬手段でした。

 これで通報の用件は満たせましたので、いろんな罪で大人しくお縄について頂きましょう。


「警備隊が来るまで時間はある! それだけあれば十分!」


 わたしを片腕で建物の壁に押し付けて、早漏であることを自白しながら彼は開いた手でズボンを下ろします。

 通報だけなら先生に連絡すれば一瞬だけど、彼の言う通り警備隊の到着には時間がかかります。その間、どれくらいの時間が必要なのかわからないけれど、抵抗しなくてはなりません。

 大人しくされるがままにされていたら、先生に差し上げると決めていたわたしの大事な物が奪われてしまう。それだけなら癒しの魔法で取り戻せばいいのだけど、気分的に、そういう訳にはいかないのだ。


 体格差から、彼の股間はわたしの視線の高さにあります。

 先生以外のモノはお目にかかる事などないだろうと考えていた男が男であるための象徴が、わたしの目の前で、その狂暴な肢体を曝け出しました。




 先生のものを見ていますので、男性器に対しては気持ち悪いなどと思ったり恐怖を感じたりはしませんでした。

 屋外で、今日初めて声をかけた女の子の目の前で露出するなどの気持ち悪さはあります。しかし、その棒と玉は誰もが持ち合わせているもの。存在自体を否定することはできません。悲鳴を上げるだなんてとんでもない。失礼にあたります。


 第一印象は、つい口にしてしまいました。


「ちっちゃいですね。」


 先生のものが標準的なものだとしたら、半分にも至っていません。

 全てをスケールダウンさせたような、似た姿の花をつけるひまわりとルドベキアを同時に見た時のような感覚。このサイズならばわたしのような小さい身体にも入るかもしれない。小さくても硬さがあれば突入は可能だろう。

 いや待て、この男性器というのは興奮の状態によって大きくそそり立つ性質がある。今目の前にぶら下がっているウインナーが怒張すれば大きくなりすぎたキュウリのような大層立派なものに育つのかもしれない。そうであれば、これは先生よりも大きい凶器と言えるだろう。そんなものが今からわたしを襲おうというのだ。これはなんとしても抵抗せねば。


 どうやって拘束を抜けようかと考えるよりも早く、肥満の男はわたしを壁に押し付けていた手を離し、両手で股間の息子を包み込むと蹲ってしまいました。

 顔は見えませんが、肩は震え、嗚咽が漏れています。もしかして、いや、もしかしなくても泣いている。


 いったい何が彼の心をへし折ってしまったのか。わたしには見当もつきません。

 ただ一言感想を述べただけ。成人向け漫画であれば「今からコイツがお嬢ちゃんの中に入るんだ。」とニタニタ笑いながら宣言すべきところ。なぜそうしない。そのために越えてはいけないラインを踏み越えて、わたしに手を上げたのだろう。


 何が起こったのかわからないのだけど、わたしも何が起きたのかわかりません。

 駆けつけた警備隊のお兄さん方が見た光景は、さぞかし滑稽だったことでしょう。




 この痴漢撃退の後、女の敵を排除するために率先して動く組織の遊撃隊長として担ぎ上げられそうになり、しばらく宿舎に帰れない日々が続くことになりました。

 自分勝手と言われようと構いません。わたしはわたしを先生以外に渡したくないだけであり、学園都市に蔓延る変態を倒そうなどとは考えていないのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 毎度都市内の人間の方がサワガニさんよりよほど危険ですねェ 警備に問題があるのかはたまた法に問題があるのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ