年の差の恋は罪なのか
わたしと先生との関係が良く思われていないのは知っています。
それを語る人は皆、それが正しいと信じて疑わない。道を踏み外した人を引き戻そうとするかのようにわたしの感情を否定します。
自分の好きを正面から全て否定されて、油に落とされた炎のように怒らず、はいそうですかと従う事ができるでしょうか。少なくともわたしはできません。指摘した人を認知の外に追いやります。姿も見えなければ声も聞こえない。そういう存在として扱います。
引き離そうとする強い意志が現れる度に各個撃破するは面倒ですし、どんどん厄介な相手が現れます。
わたし達の関係を納得させる何かが欲しい。祝福して欲しいとまでは言わない。わたしが先生を生理的嫌悪するよう説得するのを諦めて欲しい。先生の後妻ポジションに収まろうとするのを諦めて欲しい。道端に生える雑草の名前を気にしないように、ただそこに当たり前にあるものとして認識して欲しい。
その為には、大人と子供の恋愛関係は絶対に成立しないという意識を打ち倒さなければならない。
ほぼ形骸化したとはいえ、古より言い伝えられてきた格言は今にも通じる部分があり、実際に若い生徒を食い物にしてきた不埒な輩も居ます。それがほんの一部の異常者の行為であり、年齢差の恋愛全てに当てはまらないと理解し、切り分けて考えるように誘導しなくてはならない。
男と女で生徒間のぶつかり合いが起きている今こそが、変革を促す好機だと考えました。
現在、お付き合いする男性のいるわたしは宿舎に入れませんので、寝る場所がありません。ホテルは外部からのお客様の為にあるので学生の身分では門前払い。駅や公園などは誘拐など犯罪に巻き込まれる可能性が高い。
男子宿舎は異性に飢えた獣が多いと言います。聞くところによると女子宿舎以上に何かと物入りであり、緊急解錠のやり方が掲示板に大きく張り出されているそうです。簡単に破られる鍵に何の意味がありましょう。これでは外で寝るのと変わりません。
この状況を産み出した女子宿舎の前で彼氏持ちを追い払っている皆様に、誰が頼りになるのかを考えてもらうのです。
図書室への返却ミッションを無事完了し、先生の家に向かおうとするところでナミさんとマツリさんに会いました。宿舎前までは同じ道を通るので、そこまではご一緒します。
問題の宿舎前では、友人を入れぬとは何事だと怒ってくれたナミさんを彼女達の目の前で宥めました。
彼女達の言うことも尤もだと、理解の姿勢を見せる。
行動を抑えられ、猫のような唸り声を上げるナミさんにはこの作戦を告げていない。なぜなら彼女は演技が下手だから。あるがままに動いてくれた方がわたしもやりやすい。
どこかで寝なくてはいけない。冬ではないので外でも大丈夫だけど、防犯上よろしくない。その問いに対して、わたしの意思をこの場で答えます。
「わたしは先生のところに行くので大丈夫です。」
困った時は大人を頼るべきである。
顔見知りの相手であり、親以外に近しい関係にある大人。つまり先生だ。
普通の教師ならば今の事情を理解すれば状況の打開に動いてくれるだろう。
男女間にできてしまった不和を即座に解決するのは難しい。だが、今ここで行われている検問は解散させられる。部屋に対しての嫌がらせ等もあるだろうけれど、寝る場所の確保という最大の問題は解決できるのです。
仮に解散できなかったとしても、色々手配して寝床の確保はしてくれるでしょう。
今の発言はそういう意味もある。そして本質はそこじゃない。
わたしは先生の家に泊まると、そう言った。誤解を産む表現を述べたのではありません。ストレートにそう言いました。
大人は頼りになる。
頼りになる相手に好意を抱くのは自然なこと。つまりなにもおかしくない。
宿泊費としてこの身を明け渡すのが対価として見合ったものかどうかは議論の必要がありますが、対価として俎上に載せるのは間違っていない、はず。
結論から言うと、この発言は失敗でした。
彼女達が重視するのはわたしの意思ではなく、相手の考え方のほうだった。
先生はわたしの頭の良さをよく理解しているからこそ、目の前で脱ぐのが正しいと考えるように思考を誘導していると指摘します。
人当たりの良さや優しさは全て仮面。好みの相手をおびき寄せて食べてしまう食虫植物であると、目の前に居ない先生の事を罵られました。
ここに本人を連れてきて説明してもらっても、彼女達が納得するかどうかはわからない。
いや、それよりも、先生のことをよく知らぬ彼女達が、何故そこまで貶す事ができるのか。
暑い時期に冷房がよく効いた部屋に入ったときのように、頭が冷えていく。心臓が高鳴っているのに深呼吸ができる。何故でしょう、彼女達が次に何を語ろうとするのかが分かってしまう。それに対しての反論が、頭の中にどんどん出力されていく。
ちゃんと言えるだろうか。理解してもらえるか。いや、しなくてもいいか。発した言葉は学園都市の記録として残る。後で何かあった時、今ここで何を伝えたのかを証拠として提出できる。宿舎に居る友達は後ろにいるナミさんとマツリさんぐらいなもんだ。交友関係の断絶は、多分無い。
「先生が性犯罪者であるという根拠を教えてください。」
彼女達が先生の周りに現れた事は、おそらく一度もない。
教職として表舞台に出たのは特別学級の担任になってから。それまでは用務員の一人として陰から表舞台を支えていた。彼女達が知る先生は、わたしもよく知る先生そのままの姿のはずだ。
その先生に、わたし達への接し方のなかに虐待が疑われる行為があったのか。
血縁上の関係は無く養子縁組などもしていないけれど、わたしと先生の実態は彼氏彼女というより親と子みたいなものだ。血の繋がらぬ娘の多くの可能性を潰したくないと願っているからこそ、先生はわたしに手を付けようとしてこない。本を読めば子供が性的被害を受ける相手の大部分は見知らぬ不審者などではなく親や教師など身近な大人だという。そういう面で先生はちゃんと弁えている。
恋人らしい行為が無いのがもどかしいけれど、理解しているつもりです。
万が一、先生が虐待行為に及んでいて、それらを上手く隠蔽していたとしても、その結果は被害者となるわたし自身に反映される。どんなに包み隠そうといずれ明るみになります。
身体が小さいのは日頃のストレスだろう。魔法が使えない落ちこぼれが重用されているという待遇の良さも疑わしい。頻繁に怪我もする。つい先日も逮捕・補導され、二週間の停学という重罰を受ける程の非行に走っている。
状況だけを報告書で読めばそういう認識もできるだろう。だが落ち度だけを見てはいけない。
わたし自身は何もしていないけれど、わたしが居る事で特別学級の足並みが揃う。担任するクラスが良い子であれば先生が楽になる。先生の負担が減れば、学園都市の治安維持や管理にその敏腕を思い切り振るう事ができる。治安が良くなればわたし達が何の不安も心配もなく生活することができる。
話が前後するけれど、問題であると声を挙げられるものの、年の差男女の恋愛は学園都市のどのルールにも反していない。
価値観の相違や力関係のアンバランスさから長続きしなかったり年下側が傷つくことになるのは当人の問題だ。あってしまった不幸な前例と、それに対しての感情だけで、それが良くないものだと好き勝手言ってるのがあなたたちだ。
世の中上手く回っているのならばそれでいいじゃないか。わたしは今幸せだし、これからもそれが続くと信じている。現状維持だけではない。もっともっと幸せになってやる。
それを壊して何が楽しい。いや、楽しいか。人の不幸は蜜の味だ。他人の事を下衆だと非難するのは誰にでもできる。自分がそうだから相手の事を決めつけることができる。同族嫌悪なのだろう。
人の不幸を喜ぶ事を理解できるのだから、わたしもまた下衆のうちに入ってしまうのだけど、そんなのは一向に構わない。
何度も何度も繰り返されてうんざりだ。これ以上先生を悪く語られるのは我慢ならない。
だから教えて欲しい。先生のしていることの、何が犯罪なのだ。
実力行使で黙らせるのは、恐怖で人を支配するのと同義。その一線だけは、絶対に超えてはいけない。
とにかくダメなものはダメなんだという回答は頂けました。
わたしに対しての先生の行為の何がどう犯罪なのか、彼女達の明確な返答はありません。
具体的に何を指して罪であるかを理解せず、雰囲気と自分達のお気持ちだけで犯罪と決めつけた。被害者扱いされていたわたしがそう判断しました。
議論は結局物別れ。でも構わない。最初から、彼女達から納得のいく答えを頂けるとは思っていません。
問答の末にわたしが相手の言い分を聞き入れる必要だって無い。法の下で先生は犯罪者ではないと言ってやった。今日はこれで十分です。
これから先、教師と生徒間での交流をしたいと願う後輩達の為には負けてはいけないのだろうけど、そこまで面倒は見きれない。
後の世に何かあった時は、当事者が頑張って意識改善に尽力していただきたいと思います。