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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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嵐の中心には太陽があった

 魔法が使えるのに使えない。

 丸い先生の話ではよくあることで、原因は多々あるらしいです。


 力が非常に弱くて発現することができない。

 持っている魔力が大き過ぎて一人用の呪文では暴発したりと不具合が出てしまう。


 様々ありますが、家族によって幼少から教わっていた方法を使わないと上手くいかない、という現象がわたしが使えない理由には近いかもしれないというお話でした。それでも何らか反応はあるものであり、完全に使えないのは初めてだそうです。



 わたしが使えているのだからそれでいいじゃないかと思うんですが、どうもそういうわけにはいかないようです。

 呼ばれたり野次馬として現れた先生達による乱闘が起きそうな程の罵声を伴う議論が始まってしまいました。



 議論の中心であるわたしが目の前にいるというのにすごいです。これが人にものを教える人の考え方なんでしょうか。

 危険因子は今すぐ殺して存在を無かった事にしてしまえだなんて恐ろしい事を言い出す人がいるんです。


 列車での事件の際に、わたしを尋問しようとしていた野太い声の人のような態度です。

 そういえば、昨晩先生とした話の中で驚きの事実が一つ。列車に学園長は乗っていなかったそうです。あの時の野太い声は学園長のものではありませんでした。

 わたしに自分を特定させないために声色を変えていたのかも。


 あの人には目の敵にされていましたので、もしかしたらこの場にも居るかもしれません。

 同じく学園で教師をしている同僚だと教えて頂きましたが、お相手の名前は忘れました。人の名前を覚えるのは苦手です。



 ヒートアップしすぎて収集など付くはずもなく、わたしの事などとうに忘れて教師同士の喧嘩になりつつあります。

 まさか魔法で止めることもできませんし、だからと言って発言したとしても話を聞いてくれるとは思えません。


 他の人となにも違わぬただの子供のつもりなんですが、そうであることを認められないのは辛いです。

 さっきから飛び交う言葉の暴力がわたしに向けられたものではないのですがグサグサ刺さってます。


 こんなときに先生がいたら、その気配りの良さでわたしをこの場から離してくれたことでしょう。丸い先生はというと、自分がこの面子を引き合わせて喧嘩の引き金を引いてしまった事への恐怖でオロオロしています。わたしに対して何かしてくれるようではありません。


 この大喧嘩、根っこはどうあれ直接的には使えないはずなのに魔法を使う事ができるわたしが原因です。

 普通に魔法使いとしてやっていきたかったし、先生の授業を受けたかったけど、ここで立ち止まって入学せずに去るのも選択肢のうちに入ります。何か行動ひとつで毎回大騒ぎされる事をわたしは望みません。



 結局、騒ぎに気付いた理事長が壁を突き破って登場して一喝するまで続いたのでした。


「外周十周走って頭冷やしてこい! 今すぐだバカども!」


 さっきまで大喧嘩していた教師たちが仲良く走っていきました。

 実力を兼ね揃えた一人の権力者というのはとても強いものなんだと、理事長を見るとそう思います。


 学園都市の外壁は凸凹している分を除いても10km程あるらしいのですが、どれくらい長いのかは私にはわかりかねます。

 普段から鍛えていらっしゃる先生方ならばそれくらいの罰は余裕なんでしょう。



 どういった理屈なのかもわかりませんが、今の一喝でだいたい事情を把握したらしく、わたしに「あとは任せとけ」と短く言っただけで理事長は丸い先生を連れて去っていきました。

 部屋には理事長が破壊した壁と、状況に置き去りにされたわたしだけが残されてしまいました。


 どうすればいいんでしょう。待ってたほうがいいんでしょうか。

 すこしの間考えていましたが、丸い先生がこの検査で最後だと仰っていたのを思い出しました。


 決めました。帰りましょう。壁が壊れた際の埃でアザラシくんが汚れてしまったので綺麗にしてあげたいですし。

 帰り道は大丈夫、覚えてます。うっかり変な場所に迷い込むなんてことはないでしょう。たぶん。





 夕焼けの中、辿り着いた中庭のような場所で、わたしは道案内の必要性をとても感じていました。


 廊下に出た瞬間、白いうねうね動く物体に追いかけられました。

 それの正体に気付くのは、転んで追いつかれた際にアザラシくんが飲み込まれ、新品のような姿になって吐き出されてからでした。そんな掃除係がいるのなら言って欲しかった。


 綺麗になったアザラシくんを抱いたまま歩いていたら、今度は壁に飾ってあった絵画の人物にアザラシくんを奪われてしまいました。

 すぐ取り返しました。だって先生からのプレゼントですから。

 わたしの魔法を見てとても驚いていましたが、そんなのはどうでもいいです。わたしの魔法をむやみに使うなとは言われていませんので。


 アザラシくんを取り返した後、ようやく出会った人間は学園の先輩達でした。

 耳に馴染みのない言語を扱っていて何を言わんとしていたのか理解できなかったのですが、またアザラシくんを取られそうになったので床に膝まで沈めて動けなくしておきました。コミュニケーションの為に別の国の言語というのを覚えたほうがいいのかもしれません。


 その他もろもろ、色んな人や物にアザラシくんを奪われそうになり、その度魔法でなんとかしていたので疲れました。アザラシくんの人気は計り知れません。

 理事長はまともなように見えるのですが、この学園都市は治安がとても悪いですね。


 またこんな広い場所で眠りそうになりましたが、わたしは昨日してしまった失敗を二日連続繰り返したりなどいたしません。

 ここからは魔法で部屋に帰ります。

 最初からそうしていればよかったんです。なんで思いつかなかったんでしょう。行く先々でトラブルに巻き込まれる必要なんてなかったんです。





 翌日、学園長からわたしに宛てられた手紙が部屋に届きました。

 内容はただ一列。学園長らしい単刀直入なものです。



 アサヒ・タダノを一年特別学級の生徒とする事をここに証する。



 ここに来るにあたり家を勘当されたり、到着初日に誘拐されてしまったり。

 入学前の能力測定で学園史上初の魔法が使えているのに使えていると判定されない特殊能力と判定されてしまったり。


 色々ありましたが、わたしは本日よりこの魔法学園の一年生となりました。

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