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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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太陽はキスで愛を確かめたい

 大人達だけが許される夜の営みに興味が無いわけではありません。


 それが何を意味してどんな結果をもたらすのか、既に先生から教わっています。

 まだ早い。今それをやってはいけない。どんなにわたしの意思が強固であっても法律がある。こちらから誘惑したのだとどれだけ実証しようとも、成人が未成年にそういう意思を持って手を出したという結果だけが判断材料。自動的に犯罪となってしまいます。



 今のわたしでは先生の性欲を満足させることができません。

 ですので、風邪でもないのに丸められたティッシュがゴミ箱に入っていたり、出てくるまで声をかけないでくれと言い残し鍵をかけて仕事部屋に閉じこもっていても疑問に思ってはいけない。先生の年齢ならば思春期程の元気はなくともまだまだ男盛り。わざわざ自慰を無垢な少女の目前で見せつけるような行為などセクハラだと誹りを受けても言い返せないのです。


 わたしの方からも配慮が必要です。わかっていても無知を装わなければいけませんが、だからと言ってソレが何を意味するのかをわざと尋ねて困らせたりなどしてはいけません。性欲とは生き物である以上当然の欲求で、汚らわしいと貶す必要は無いし、仮にエッチな本が本棚の奥から出てきても、机の上に置いて差し上げたりなどしてはいけないのです。


 突然妻を失った精神的なショックで勃起不全になっている可能性も考えましたが、それについては大丈夫。行為に及ぶ為の障害は、先生のフルパワーを世間的にも身体的にも受け入れられないわたしのほうにある。




 桃色の花も終わり、春の花壇を彩る花も入れ替わる今日この頃。

 夕食の買い出しの最中、焼肉のタレを使い切った事を思い出して、陳列棚から容器を手に取った際にふと気が付きました。

 先生とのファーストキスは焼肉のタレの味。

 感触は今でもこうして思い出せる。夜だから伸び始めた髭がちょっと気になった。そこまでちゃんと覚えてる。


 あれ以来はずっとご無沙汰です。唇の触れ合いが無い期間はもうどれくらいになるんでしょう。

 キスをしたのは前にも後にもあの一度だけ。


 もうキスはしたのかと問われれば臆面なく「した」と答える事ができます。なんなら同じ湯船に浸かり布団で共に寝るという実績まで解除しています。あとは肉体的に結ばれた後、子供が産まれたりして明るい家庭が築き上げられるのを待つばかりの段階と言ってもいいでしょう。

 舌を絡めたり唇を噛むほどの激しい物は求めていません。それはわたしが成長してからのお楽しみ。

 


 恋愛は想いの告白と熱いキスを交わせば終了ではありません。それはあくまでドラマや小説での話。途中経過の描写が無いままいきなり子孫が現れる超展開です。

 片思いや曖昧な関係を終わらせるという意味での終了なのは間違いない。だけど、二人の関係が終了するのは別れ話。お付き合いの了承が得られたのであれば、物語はまだまだ続いていかなければなりません。



 これから先、いくらでもチャンスはあるとは思います。

 だが考えて欲しい。先生は節目や記念日を一切気にしない。そして優先度が低いと判断した物事はいつまでも手を付けない。一度動けばすぐ片付ける事ができるのだけど、だからこそ、後回しでも問題ないと考えてしまう。


 いつでも自由に口づけができると考えていたのでは、逆にいつまでも二度目以降の機会が無いのではないか。

 相手がいつ居なくなってしまうかは分かりません。現に先生は直近でも死にかけています。取り返しがつかなくなってからの後悔では遅い。

 籠に焼肉のタレの容器を放り込みながら、二度目以降も急がねばとわたしは考えました。




 非情な程の身長差のおかげで、わたしと先生ではふとした瞬間に唇を奪うドキドキ展開ができません。

 背伸びをしても届かないし、座っていても椅子次第では届かない。近くに居るはずなのに、添い寝か、抱き寄せられていなければ顔が遠い。


 まわりくどい仕草をしても先生は気付いてくれません。今日の残り時間はずっとキス魔になると心に決め、わたしは事あるごとに求めました。

 玄関先で出迎えてくれた際に一回。調理前の景気づけに一回。食事前においしくなる魔法と称して一回。快便祈願の一回。そしてお休み前の最後の一回。これで初回を合わせて合計六回。記録を一気に更新しましたが、こんな程度で満足できるわけがない。明日は目覚めの熱い口づけを希望しましたが、先生に制止されてしまいました。

 

 何か嫌な事でもあったのかと尋ねられたので、焼肉のタレを買った際にキスが少ないと考えたことをお話しました。

 わたし達は恋人関係であるにも関わらず、定番の口づけが少ないのではないか。人目を憚らず情熱的に愛を語り合う程の意欲こそありませんが、それでもたった一度というのはあんまりだとお伝えしました。


 わたしから話を聞いた先生は頭を抱えてしまいました。

 先生は、帰宅してからの五回を拒みませんでした。それを考えるとわたしとの唾液交換が嫌だったというわけではないようだ。果たしてどんな話が先生から飛び出すのでしょうか。ベッドに座って返事を待ちました。




 長考の後、先生は、頻繁な接触は誤解を産むという話を始めました。


 街中で他人の迷惑などお構いなしに乳繰り合うバカップルが居たと仮定し、彼らを見てどう思うのかと問いかけられました。近隣に対して影響を及ぼしてしまうのはダメですが、その二人に限れば仲睦まじくてよろしいとは思います。千年経っても冷め止まぬ愛とはそういうものを指すのでしょう。率直にそのままを答えます。


「では、彼らはどこまで関係が進んでいると思いますか。」


 この質問は恋愛の進捗状況を指します。具体的な例として、手繋ぎやキス、ペッティングから性器の挿入までを挙げてくれました。性教育を履修済みのわたしはそれぞれがどういった意味なのかを理解していますので、知識不足に関しては何の問題もありません。


 乳繰り合うと表現されたことから、おそらくキスなどは朝飯前でしょう。昼間からそれぞれの身体を人目も気にせず触り合っている姿が目に浮かびます。それも体当たりのような健全な形ではなく、まるで触手のような滑らかな手つきで揉みしだく淫らなものを連想させるような形かもしれません。

 これが二人きりの場であったのなら、それは二人の感情を大いに発散するに相応しい。時間の許す限りの濡れ場になること間違いない。


 そう思った事を伝えると、今度はその二人をわたしと先生に置き換えて考えてみるよう言われました。

 街中で、ずっとイチャイチャし続けるわたしと先生。今までは先生の立場を考えて控えていましたが、そうしなかった時のわたし達を取り巻く環境はどうなるか。



 ああ、そうか。そういうことか。

 考えてみて、先生が伝えようとしている事が理解できました。


 年と立場の差はあれど、わたし達は対等な関係を保っていて、法に触れる行為には及んでいません。

 だが、頻繁に口づけを交わしたり、むやみやたらに触れ合っている姿を無関係の誰かが見たらどう思うのか。それはわたしが今示しました。赤の他人は、その二人がどこまでも深く乱れ狂っていると思ってしまう。

 たとえ関係各所が口を揃えて健全な関係であることを証明したとしても疑いの目は晴れないでしょう。


 キスの回数が少ないと思ったのはあくまでわたしの主観であり、今のわたし達の関係ならば一回でも多すぎる。そして一生懸命求める今のわたしは、他人から見れば人目を憚ることなく触れ合う二人の姿に重なります。

 わたしが求めすぎてしまうと、今度は先生がわたしのような小さい少女に自らの欲望を突き立てる鬼畜と見られかねない。もっとわたしの事を独占してくれてもいいとは思いますが、先生に悪評が付いてしまうのは望んでいません。



 外面を気にする気持ちはよく分かりました。

 無理にキスを強要することはやめましょう。そうでなくても今日だけで五回もしていただけました。こんなにやって貰えたのだから、しばらくは我慢できるでしょう。

 ですが、一つだけ聞かなければならない事があります。


「先生は、したくないんですか?」


 ベタベタしないのは、あくまで周囲の目を気にしての事。

 それは先生自身の意思ではない。心の中でどう思っているのかをわたしは知りたかった。


 わたしが昼夜問わず誘惑してくるエロガキになるのを防いで安堵した先生ですが、この質問に対して再び頭を抱える事になってしまいました。

 そんなに答えにくい質問ではないと思うんですが、どうして悩むんでしょう。

 

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