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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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異変の正体

「アサヒさん、もう下校時刻ですよ、起きてください。」


 先生の呼び声で目が覚めて、飛び跳ねてしまいました。


 自身を透明化して学校に潜入したのは覚えています。一息つくため特別学級の教室に入り、学級崩壊状態に愕然としたのも覚えています。是正すべく透明なままなのを利用して、船を漕いでいたポールの脛を蹴りました。

 他にも内職しているナミさんが立てていた教科書を倒しました。お弁当の蓋を開けたマッシュの弁当箱から玉子焼きを頂戴しました。上の空のまま指名され答えに詰まっていたクロード君にページをめくってヒントを与えました。そして先生が持ち込んでいたペットボトルを冷やしてお出ししました。


 先生は授業中、いないはずのわたしの席に何度も目線を送っていました。

 まさかその席にわたしが居るとは思いもしないでしょう。

 目が合うたびに魔法が切れていないか確認しましたが、自分の机で眠るまでは解除されていなかった。



 そんなはずなのに、先生に話しかけられている。

 今この場に居る事がバレた。それ即ち、わたしの魔法が解けてしまったということ。

 急いで逃げるか。いや、もう遅い。先生の手がわたしの肩に触れている。彼は短縮魔法の達人だ。発見されてからどれほどの時間が経過したのかもわからないし、どんな魔法を仕込まれたかわからない。知っているか、先生からは逃げられない。




 ナミさんが授業終了後、真っ先にわたしの部屋に向かったそうで、中に誰も居ないのを察すると当然のように扉を強引にこじ開けて突入したそうです。

 こういう場面を想定して在室を偽装する為に遠くからでもインターホン形式で戸口対応ができるようにしていましたが、こうして先程まで寝ていましたので対応できるはずがありません。自動音声で対応すべきだった。失敗です。


 誘拐の可能性も考慮したけれど、恐らくは先生の家に居ると考えたのでしょう。彼女は真っ先に連絡を先生に入れました。確認してみると、どうやら先生の家にも居ない模様。口を必要としない連絡にも出ないとなると、何かあったのではないかと心配になった。しかしわたしは停学中。勝手に出歩き姿を消したなどという怪しげな行動を表沙汰にしたのでは色々まずい。そう考えて、先生ひとりで思い当たる場所を探して回っていたそうです。

 いえ、探し回ったというより、目星が付いていた。だから慌てずに、皆からの伝言だけを聞いて特別学級の皆を帰らせた。


「昼間に妙な事が起きてましたから、多分ここかな、と。」


 教室に戻ってきてみれば案の定。私服のわたしが教室でよだれを垂らして眠っていた。それがわたしが眠っている間に起きたアサヒ・タダノ失踪事件の経緯でした。


「ごめんなさい。」


 なにはさておき謝罪です。

 処分が軽いとはいえ停学中。フラフラ出歩くのはよくありませんでした。

 本を借りるのも、わざわざ自分で調達する必要が無かった。誰かに持ってきて貰うという選択肢を思いつかなかった自分が全面的に悪い。

 外出することを先生に伝えずにいたのも良くない。可否はどうあれ何らかの対処は考えてくれたはず。暇だから無断外出しようと思い立った事が間違いだったのです。


「僕のほうこそすみません。」


 こちらの謝罪を受け取ってから、今度は先生に頭を下げられました。

 先生が思った以上に生徒達のショックは大きかった。だが色々経験して強くなった子供達だ。一日二日と時間を置けば勝手に起き上がる力があると見込んでいた。結果はご覧の通り。わたしの居ない数日で、特別学級はわたしが先生を好きにならなかった先にある未来のようなまとまりのない問題児クラスに早変わり。


 そういった状況にしないのが先生の腕の見せ所なんだけれど、失敗してしまったようだと肩を落としています。

 今日は姿の見えぬわたしに助けられたが、失ってしまった信頼を取り戻す方法が見つからず頭を悩ませているそうです。




 わたしから見た限りでは、皆が先生に失望したなんて事は無いと思います。

 ナミさんはわたしが居なくなったことをすぐに先生に報告しましたし、そこから先生が出した指示にも従っています。精神的な安定を求め教室の中で暴れたりはしたけど、それでも教室で授業を受けようという気持ちはありました。四人で寄り集まって悪だくみをしていたり、先生に対して不信感があると理事長に密告したりもしていません。多少疑っているかもしれないけれど、今日の段階では信頼は失っていない。


 ああ、そうか。わかりました。特別学級の錘として機能していたのはわたしです。

 体格も体力も一番下だけど、願いを形にする魔法がある。他の誰よりもわたしを怒らせてしまったら絶対に手が付けられない。特にクロード君はわたしが貴族のご子息の腕を捻じり上げて差し上げたのを目前で見ていました。

 怒ったら何をするか分からない存在が今この場に居ない。ならば自由だ。父が外出していた時のお屋敷の雰囲気を思い出せ。同じ家とは思えぬ朗らかさであったはずだ。

 恐怖で皆を抑え付けるなんて、まるでサワガニさんのようだ。規律を守って欲しいけど、少し反省しなくてはなりません。




 先生が言伝を頼まれた皆からの伝言を要約すると、寂しいから早く復帰してほしいというお願いでした。 


 この停学処分、本来は懲罰の為の補習や外周十周の為に割り振られる時間です。半端に免除したせいでうすごく中途半端。わたしの都合で自主休学しているわけではなく、また体調不良で休んでいるわけでもありません。

 戻って来て欲しいと要請する相手はわたしではなく、学園の運営理事です。それこそ先生を飛ばして理事長に直談判したほうがいいのではないかと思いました。


 しかし、残りの期間をこんな状態のままで置くのは見過ごせません。

 見ての通り先生一人であの四人の統率はとりきれない。まさか毎日透明化して教室で控えるわけにもいきません。透明化は長時間保てないのでさらに改良の余地がある。また色々考えなければいけないと思うと億劫です。



 そう簡単に行くことではないけれど、わたしが隠れて登校しなくてもいい方法はあります。彼らの不安を取り除けばいい。皆が何を心配しているかと思えばわたしのこと。

 全裸トイレなど自発的に敢行したりなどしましたが、身柄の拘束では身体的にも精神的にも傷を負わずに済みました。厳密に何かあるとすれば、ソバさんから蔓の本体を引っこ抜いた時に肘を擦った程度なのでかすり傷です。


 どうすれば皆が安心して二週間を乗り切れるのか。毎日会えばいいのか、教室の机の上に花を一輪さした花瓶を置いておけばいいのか。あ、花瓶はだめだ。それは亡くなってしまった子にやるやつだ。そうなる可能性はあったけど回避した。してみせた。今回も誰も死んでいない。よし。


「考えるのは帰ってからにしましょう。」


 思考に夢中になって忘れていましたが、下校時刻です。居るはずの無いわたしが見つかれば違反を重ねてしまいます。先生には見つかってしまいましたが、こちらは考慮しなくていい。


 今日はどうするかを尋ねられたので、このまま先生のお宅へお邪魔することを伝えます。

 姿を隠す魔法の性能には驚いて貰えました。見えないことを利用してお尻や胸に触れるラッキースケベを体験していただこうと考えましたが、そういう意思がないまま身体に触れられる機会は今までに何度もあり、今更触れた所で慌てたりなどもしてくれないでしょう。やる意味がないのは残念です。




 我が家にも等しい先生の家もまた、片付けなければ食事もできぬ酷い有り様でございました。


 理由を知っていても逮捕がショックであったことに変わりはなかった。

 どうにかならないかと奔走していたので、自宅の片付けに割く余裕などなかったのでしょう。自分が押し潰されそうな状況に加えて特別学級の皆のケアもしなくてはならない。

 卒業検定の折、理事長にダメージを与えられなかったのが悔やまれます。生徒を取り巻く環境が改善されたのは確かだけど、今度は先生の労働環境が悪すぎる。ああ、もっと殴っておけばよかった。


 何もすることが無いと暇を持て余すなんてできません。やらなければならないことが山積みです。

 先生と手分けして、二人で食って寝るだけのスペースを空けながら、とりあえず明日はここの掃除をしようと心に決めました。


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