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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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都市伝説から始まる卒業検定

 学園都市の草木が緑に染まる頃、ある噂が生徒達の間で流行り出しました。

 この街は、都市そのものが巨大な養殖場ではないのか、と。


 脅威に曝される事のない温室であると同時に、ここは壁に囲まれ外の世界と隔絶された街。

 自分の意思では出る事ができない、出ても生き延びることができない過酷な場所。

 そして入学生の多くが脛に傷を持っている。厄介払いの受け皿。教えられる魔法は統一された形式に則ったものであり、いずれも共通規格。

 噂話を信じるならば、これらを総合すれば自ずとそうだと結論づける事が出来るんだそうです。



 断言できます。それはあり得ません。

 ここは魔法使いの学びの場であり、均一化された個性のない魔法を使うだけの兵士を育てる養成所でもなければ、従順な奴隷を育てる為の養殖場でもありません。

 そんな場所では平均化できぬ特殊な生徒に生きる道は残されていませんが、ここにはそんな落ちこぼれにも学びの機会を与えるべく特別学級が存在する。それが噂を否定できる根拠になります。


 職員会議に参加した時のことは眠さを無理に抑えたせいもあってよく覚えています。

 身内だけの場で、緊急事態でも生徒に対してのそれらしい侮蔑の発言はありませんでした。心の内でそういう考えを持ち、実際生徒に公表している教師が居る可能性は否めませんが、それは学園都市の総意ではありません。




 わたしの魔法についても変な考察と物語が作られてしまいました。 

 最強の魔法戦士を作る研究所を兼ね備えている学園都市の魔術の粋を集結し、遂に根源の魔法が完成した。

 しかし不慮の事故が起きて魔法は逃走。行き着いた先に居た、学園都市に来たばかりの一人の少女に自らを託した。それがわたしの願いを形にする魔法の正体とかなんとか。


 学園に来る前からこの魔法は持っています。加えて、わたしが産まれた年まで遡ってもそんな大掛かりな実験が行われた記録は残っていません。事件があるとすればカエデさんが命を落とした召喚実験の爆発事故ぐらい。




 わたしは今、都市伝説を信じ込んだグループが集まる部屋の隅に居ます。

 自室から先生の家へと向かう途中、宿舎の階段の物置スペースに引きずり込まれてしまいました。


「なんとかしてこの街を出ないと。」

「駅は使えないし門からは出れば気づかれる。」

「地下通路がどこかにあるはずだ。誰か地図持ってこい。」


 話を聞いている限りでは、どうやら彼らはこの場所からの逃走、学園からの脱出を図っているようです。

 自分達の評価に不満があるのでしょう。ここではない他の場所に自身を正しく評価してくれる場があるはずだと願う気持ちは分からなくもありません。かつて実家で軟禁状態だった頃のわたしもそうでした。




 脱出を企てるのならば好きにすればいい。彼らを引き止めたり追ったりするのは先生の役割ではありませんし、首尾よく街を出た後どうするのか等知った事ではありません。彼らが思う学園の真実なんて存在していないのです。むしろ調べた事で、どれだけの生徒が道半ばで諦めてしまう厳しい世界なのかを知ることになるでしょう。


 何故、無関係なわたしを脱出計画の中枢であるこの場に連れ込んだのか。

 議論の最中、幾度となく辛かっただろう、もう我慢しなくていいと慰めの言葉を頂きます。

 どういう考えで放たれた言葉なのか分からず、その意味を尋ねて驚きました。

 根源の魔法を手にした事で学園深部に連れ込まれ、度重なる過酷な実験を受けたことで精神が不安定になり、先生を好きになる事で安定するよう調整を受けたというシナリオが出来上がっていました。感応能力強化の弊害で精神的に不安定になる強化人間。そういう登場人物が出る作品、知ってます。


 想像力が豊かなのは良いことだけど、妄想が行き過ぎている。

 何度でも何度でも繰り返します。どんな理屈で反論されようと自分の意思として貫きます。わたしの好意はわたし自身の物。記憶を都合のいいように書き換えられたなんてありえません。今日まで先生が応えてくれたものは全て嘘なのか。そんなわけないだろう。


 安定剤となる先生から引き剥がせば情緒不安定になりどんな魔法が飛び出すか分からない。危険な被験体Aを連れ出すリスクはあまりにも大きい。

 そのリスクを抱えても連れ出すメリットは物証。わたしは学園都市が裏で行う非道な実験の犠牲者として、証言の壇に立つことを望まれているようです。


 先生から引き離して、外で誰かに助けられるまでどれだけの時間を要するのでしょう。

 時限爆弾が炸裂するまでに全ての行程を終えなくてはならないのに、その辺りを全く考えていないのには呆れるしかありません。今目の前に居る皆様、一見計画性があるように見えるけど、実際やってるのはただの意思確認です。





 脱走者達の計画には非常に大きな穴があります。

 どうやって脱出するかを実行直前の今になって慌てて探していたり、何の準備もしていない事もその穴のうちですが、もっと大きな落とし穴。

 先生に依存するように調整されているのなら、いらぬ刺激を受けぬよう常時に監視されていることにも注意を払うべきでした。強化人間が登場した作品ではそれがあったし、自由意思への侵害だと主人公が憤っています。


 学園側に気付かれないようにと慎重に事を運んでいるようなのですが、残念なことにこれらの情報は全て先生に筒抜けなのです。

 通信の向こうで、頭を抱える先生の姿が見えるようです。迷惑をかけたくないのに、余計な仕事を増やしてしまう。本当にいつもいつもごめんなさい。


 わたしだけを救出するのは容易いのだけど、軽率にこの場に殴り込んでも彼らの誤解は解けません。それどころか都市伝説に信憑性を持たせてしまう。被験者Aは先生と共に考えました。


(よし、今から卒業検定やるか!)


 先生との秘密の通信に突然割り込んできて、また突拍子もないことを言い出したのは理事長でした。この人また盗み聞きしていたんですか。個人間のプライベートの盗聴なんていい趣味しています。

 卒業検定。これは三年生に進級した時点から参加できる試験であり、この試験を突破すれば六年の学習期間を経ずともこの学園が教える全てを履修できたと証明されます。読んで字の如く、というやつです。



 通信で伝えられた試験の内容は、魔法によって作られた広い迷宮を制限時間内に突破すること。迷路の中身は学園で学んだものを全て駆使してもあと一歩及ばず、本人の発想と勇気が試される難易度のものを用意してくれるそうです。

 理事長が、彼らが信じてしまった都市伝説に沿うものを今から作るそうです。

 その場の発想を対応できてしまう途方もない実力者だからこそ、どれほどバカにされ、脳筋とからかわれようと一番偉い立場に就いているのでしょう。


(明日の夕方に入り口作るから、誘導頼んだ!)


 理事長の、悪戯を思いついた悪童のような笑顔が見えるようです。



 とにかくどんな手を使っても脱出すればいいのがこの試験。ですが内部での言動が学園の出身者として問題のあるものであれば一考する必要があります。それに時間切れで空間が消滅する前に命の危機に瀕してしまった場合の救助も欲しい。本来は教職の誰かが隠れて後を着けるのだそうですが、今回は突然の試験なので手が回せない。



 以上の事を踏まえ、空間を切り離してなお外部との連絡が容易なわたしに白羽の矢が立ちました。

 アサヒ・タダノ。まだ二年生のなりたてですが、この度、代理の試験監督官の任を仰せつかりました。


 一応、保護されてる狂気の実験の被験者Aなのですが、それが実は学園の目であったというどんでん返しです。


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