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太陽は学園都市で恋をする  作者: いつきのひと
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もういない彼女の話

 色々な過程をすっ飛ばしながらも正規のルートで憧れの人の部屋への侵入に成功したアサヒです。

 今からわたしと先生の歳の差ロマンスがはじまります。書庫にあった本で得た知識からそうなるのは規定路線です。

 


 そう思っていたのですが、,早速現実という物を突き付けられてしまいました。

 家具も食器も、部屋にあるあらゆるものが二人分。それもパステルカラーや可愛いマスコットが描かれたりしたものがちらほらと。


 わたしは賢いのですぐさま察します。お付き合いしている彼女、もしくはそれよりずっと先、婚姻関係にある人物の存在を。

 先生とはまだわずかな時間しかお付き合いしていませんが、それでも十分に良い人なのが伺えます。そんな男性に彼女の一人や二人居ないというのがおかしい。

 プライベートでも仕事でも、誰もが認める男をわたしも見初めたという事です。


 それに、添い遂げる人物を一人に限定する必要などありません。

 確かにこの広い世界では必ず一人を選ばなければならないルールの文化もあります。ですが私はそんな常識には囚われたりはしません。誰かと愛し合う事の出来る人を慕って何が悪いのでしょうか。


 その好意をわたしに向けてくれるのは魅力的ですが、わたしが先生を好きだという気持ちをへし折る事にはなりません。

 もし先生とその伴侶が二人だけの世界を望むのであればそれを叶える為の尖兵となり世界を破壊いたしましょう。



 いろいろと邪なことを考えながら、どうぞ使ってくれと渡された毛布に手をかけたんですが、すこしホコリ臭かったです。むせてしまいました。

 既に同棲まで進んでいた関係が破綻してしまったんでしょうか。

 先生は真面目です。女よりも仕事を取ったとか、家庭の為に仕事にのめり込んだせいで結果として家庭を放り出してしまったとか、色んなシチュエーションが思い当たります。


「すみません、しばらく使ってなかったもので……」


 いえいえ、先生が謝る事じゃないですしワガママ言って押し掛けてきたのはわたしのほうです。

 それよりも聞かせてもらっていいですか。この可愛い柄の寝具の持ち主の事を。いつ出て行っちゃったんですか。連絡は取れるんですか。


「今日は疲れたでしょうから、その話はまた今度。」

「さっきまで寝てたので眠くありません!」


 目が覚めてから今まで時計を見ていないので何時なのかわかりませんが、夜は長いんだぜ子猫ちゃん。


「僕を寝せてはくれないんですね。」


 しまった、そっちだった!

 先生はずっと魔法でわたしを探していて、理事長に連れられたわたしと再会を果たすまでは事後処理に追われていたのです。すっかり失念して申し訳ないことをしてしまいました。


 謝るわたしに苦笑いをしながら、先生は寝室のほうへと案内してくれました。


 ベッドはやっぱり二つ。ここで愛の営みが行われた事もあったのでしょう。

 二つあるうちの片方のベッドに腰かけて、眠くなったら切り上げると前置きした後に先生は彼女の事を降りはじめの小雨のようにぽつぽつと語りはじめました。




 出会いは入学式。そこから最後まで長いお付き合い。

 同じ教室で学び、笑って泣いて、張り合って突っかかり、取っ組み合いの喧嘩も数知れず。

 いがみ合う二人はいつしか想い合い結ばれる。

 そんな見事なテンプレ学園ラブロマンスです。いいなあ。



 その人は今どちらにいらっしゃるんでしょう。そこまで深い仲なのに今ここにいないのが不思議です。


「……遠い所に行ってしまいましたね。」


 とても大きなため息をついてから、どこか遠い場所を見るかのように、そしてとても神妙な声色で吐くように……


 あ、これ知ってます。誰か近い人が亡くなった際に死を理解してない子供に対してボカして言う感じのアレです。

 物語でのオーバーな表現だとばかり思ってたんですが、実際見ると本当にあんな感じなんですね。



 先生ごめんなさい。今からアサヒは悪い子になります。

 これ以上追及するのはよくないかもしれません。でも今ここで勘違いした後に笑われたり、後から本人が出てきたらわたしは変に踊ってたピエロと化してしまいます。

 訊いたら嫌われるかもしれません。ですが、かもしれないで動かずにいるのは後悔の元です。


「それって、死んじゃったってことですか?」


 よし言った! よく噛まずに尋ねる事ができた! 偉いぞアサヒ!

 どんな反応してくるか怖くて喉が渇くし心臓の鼓動も高鳴っています。毛布を抱いていた腕には自然と力が入り、埃っぽいのを思いっきり抱きしめてました。うわ涙まで出てきた。


 先生ごめんなさい。もう一つ謝ります。演技したわけでも感極まっちゃったわけでもないんです。



「いまでも認めたくないけどね」


 ついさっきまでボカしていた話からわたしが予想した通り、先生のお相手は既にお亡くなりになっていました。

 写真も肖像画も無いのも謎でしたが、そしてそれは意外だけどわかるような気がする理由がありました。


 彼女は写真に撮られるのを嫌がっていて、徹夜で顔色が悪いとか、寝癖がついてるとか、肌が荒れたとか理由を付けて逃げ回っていたそうです。学校行事の際の集合写真ですら変な被り物をしたり動物に変身する程の筋金入りだったとか。

 まだ未熟な自分を残されるのが恥ずかしかったんでしょう。立派になった凄い自分を記録として残し、幼馴染に自慢してやりたかったんだ思います。


「殴られてでも何か残しておけばよかった、と思います」


 楽しかった頃の思い出が別れの悲しさと重なったのか、それとも夜も更けて眠くなっていたのか、先生の口調はいつしか弱々しいものに変わっていました。




 先生と結婚するほどに愛し合ったお相手の事を知ることができました。

 でも、記憶の中にしか残ってない彼女の顔をわたしは伺い知ることはできません。残念です。


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