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押して駄目だったので、引いてみることにしたのですが  作者: 琴子
本編

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13/27

くるりと回ってさあ大変



「……ノエル様、これはその、」

「気安く名前を呼ばないでください。俺はもうシェリーの物なので、本来なら他の女性とは口も利きたくないんです」


 ひどく冷たい声でそう言ったノエル様に、マリアン様の身体がびくりと震えた。そして彼は今、さらりととんでもない事を言っていた気がする。


 舌を切り落とす、なんて恐ろしい言葉も先程聞こえた様な気がしたけれど、ノエル様の美しい唇からそんな言葉など紡がれるはずがない。聞き間違いだと思うことにした。


「例え侯爵家だろうと、シェリーを傷付けるのなら俺は手段を選びません。二度と彼女の前に現れないでください」

「っわたくしは、」

「聞こえませんでしたか?その耳も飾りなら不要ですね」


 マリアン様は大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼすと、ドレスを翻しその場から走り去っていく。あまりにもノエル様の圧が凄すぎて、わたしが言い返す隙などありはしなかった。


 いつも穏やかな笑顔を浮かべ、皆に優しい彼のこんな一面は初めて見た。こうして守ってくれたことに感動しつつ、少しだけあの冷ややかな瞳を向けられ、責め立てられてみたいと思ってしまったことは、墓まで持って行くことにする。


 ノエル様はこちらへと向き直ると、先程とは打って変わって柔らかい雰囲気を纏い、わたしの頬にそっと触れた。


「シェリー、大丈夫でしたか?」

「大丈夫です。すみません」

「こんなにも可愛い君を傷付けるなんて、許せません。あんな奴の言うことは気にしないでください。ああ、喉が乾いていたんですね。すぐに何か取って来ます」


 彼はクリフ様にシェリーを頼むなんて言うと、その場を離れた。そもそも彼の飲み物を探しに来たのだけれど、今わたしに出来ることと言えば、彼が持ってきて下さる飲み物を全力で頂くことだ。そしてそんな彼の優しさに、わたしは何千回目かもう分からないけれど、とにかく惚れ直していた。


「大丈夫だった? シェリーちゃん」

「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」

「君は誰よりも可愛いから、気にしなくていいと思うよ」

「いえ、そんな…」

「本当なんだけどなあ」


 クリフ様も気を遣ってくださったらしく、申し訳なくなる程のお世辞まで言わせてしまった。


「シェリー、どうぞ」

「ありがとうございます」


 ノエル様がわたしの為に持ってきて下さったグラスシャンパンは、今まで飲んだどんな飲み物よりも美味しかった。飲み終えた後も、こっそりグラスを買い取って持ち帰ろうか本気で悩んだくらい、嬉しかった。


 気がつけばホールに流れる音楽が変わっていて、わたしの好きな曲だと気が付く。そんな思いを見透かしたかのようにノエル様は柔らかく微笑むと、こちらへ手を差し出した。


「俺と、踊って頂けませんか?」 


 ああ、神様。もう思い残すことはありません。わたしは心の中で涙を流し続けながら、彼の手に自分の手を重ねた。


 昨夜、ホレスさんの話を聞いた彼がわたしの為に手を尽くし、急遽舞踏会に参加してくれたなんて知る由もなく。


 こんなにも幸せなことがあるんだなあなんて呑気に思いながら、わたしは甘く幸せな時間を過ごしたのだった。




◇◇◇




 舞踏会の翌日、わたしは気味の悪い手紙について相談するため、早速グリフトン家を訪れていた。ノエル様との夢のような時間が終わった途端、再び恐怖心が襲ってきたのだ。


 わたし自身も水魔法は使えると言えど、魔力量は少なく戦闘向きではない。流石に一般人相手なら何とかなるかもしれないけれど、相手が魔法使いだった場合は難しいだろう。


 お父様はとても心配してくれて、すぐに元騎士だという護衛を手配してくれた。土魔法も使えるという男性は、出かける際に陰ながら見守ってくれるようになったのだけれど。


「誰ですか、その男は」

「護衛です」

「何故そんなものが必要なんですか」


 すぐに彼の存在はノエル様に気付かれてしまい、説明を余儀なくされてしまった。この男性、隠れるのが下手か?と思ったけれど、逆にノエル様がすごいのかもしれない。


 最初から彼にも相談しようか悩んだけれど、制約魔法がかかった状態ではうまく伝えられるか心配だった上、手紙が来ただけでまだ実害は無く、無駄に心配をかけてしまうのではと思い黙っていた。勿論、何かあってからでは遅いけれど。


 何とか余計なことを言わずに説明し終えたあと、彼は傷ついたような表情を浮かべていた。


「……俺は、そんなに信用がありませんか」

「えっ?」


 もしやすぐに相談をしなかったせいで、彼はそう思ってしまったのだろうか。慌てて否定しようとした時には、既にノエル様が口を開いていた。


「これからはなるべく、俺が君の側にいます。俺が仕事の時には、こちらでも護衛を用意します」

「そこまでして頂かなくても、」

「シェリー」


 怒っているようなその低い声に、わたしは口を噤む。


「もしも君に何かあれば、俺はすぐに後を追います」

「…………え、」

「これからは、二人分の命を抱えていると思って下さいね」


ノエル様の命を、わたしが……?


 彼が本気でそう言っている訳ではなく、それくらいの心構えでいろと言う意味だということは勿論わかっている。それでもノエル様の命を抱えている想像しただけで、 わたしの全ての意識が変わった。何がなんでも生きる必要がある。


 それからわたしは全財産を叩く勢いで護身用の魔道具を買い漁り、仕事以外は家に引きこもるようになった。




◆◆◆




 数日後。職場での昼休み、わたしはシーラと共に近くのカフェでランチをしていた。姿は見えないけれど、ノエル様の雇って下さった護衛が常に見守ってくれているらしい。


 今日も彼女とは貴族の噂話について話していたけれど、わたし自身噂には疎い方で、あまり力になれないどころか彼女から聞いて初めて知る話の方が多かった。


「ええっ、あの侯爵家にそんな噂が……?」

「らしいですよ、本当かはわからないですけど」


 彼女の情報力に思わず感嘆の声が漏れる。わたしは思わず食事をする手を止め、彼女の話に聞き入っていた。


「そうだ、セルヴィッジ侯爵家のご令嬢はご存じですか?」

「えっ? 知っていると言うか……何と言うか……」


 先日、舞踏会でわたしを扱き下ろしていたあの令嬢こそ、マリアン・セルヴィッジ様であり侯爵家の一人娘だ。


 彼女がどうしたのかと尋ねれば、シーラはきょろきょろと辺りを見回したあと顔を寄せ、耳元で囁くように言った。


「……なんでも、数日前に酷い事故に遭われたらしいですよ。生きているのが奇跡なくらいだったとか」



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― 新着の感想 ―
[良い点] ノエルがやったと思わせといて、かなぁ… [気になる点] 舌切りどころがニア異世界転生だったとは きっとトラックに轢かれたんだろう [一言] わたしは何千回目かもう分からないけれど、とにかく…
[気になる点] か、隠れストーカー君…やっちゃいました…? [一言] ノエル様の命…二人分。。。ノエル様は本気で言ってると思う!笑 仕事以外は部屋に引きこもるって…さすがにこれは…。 早く魔法よ解けろ…
[一言] 排除ですか!? 排除したですか!? こぇぇぇぇぇ!(笑)
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