釣りとキノコと川魚
異世界二日目。
目覚めはすっきりだ。
生前であれば寝起きは首と背中の痛みで苦痛だったのだが、そんな痛みも一切無い。
「んー!!!こんなにすっきり目覚めたのは何年ぶりだろうな」
伸びをして時計を見る。ちょうど9時だ。
「今日は周囲を探索してみようかな」
すぐに出かける為、火は起こさずにアイスコーヒーとサンドウィッチで朝食を済ませた。
まずは森の方へ行って食べられそうな野草が無いかチェックしてみるか、その後は川へ行って釣りでもしようかな。
プランが決まったので早速出かける事にした。
昼頃までには戻ってくる予定なので設営はそのままだ。
正直無くなってても何度でも新しい物を取り出せるという、余裕からくる甘えもある。
森へ入ると鳥のさえずりが聞こえてくる。
ウサギの姿を見る事も出来た。
「なるほど、異世界だからって生き物が全部モンスターってわけじゃないんだな」
植物も、元の世界と同じような物から見た事が無い物まで様々だ。
散歩しているだけでもいろいろな発見がある、面白い。
しばらくするとキノコを見つけた、椎茸の様なキノコだ。
「うわっ立派だなぁ!」
思わず声が漏れる。椎茸の五倍はありそうなサイズだ。
香りを嗅ぐと松茸の様に香しい匂いがした、美味そうだ。
たくさん生えているうちから三つほど引っこ抜き、カバンへ仕舞った。
見た事もないキノコを食すなんて今まででは考えられないが、今の俺は病気にならない丈夫な身体をしている。
元々終わってしまった命、試せるものはどんどん試してみるつもりだ。
これで死んだら女神様を問い詰めてやる。
「さて、森の探索はこの辺にして、川へ行ってみるか」
川の下流へ移動する。
流れもほとんど無く、程よい深さがあるので水浴びにも良さそうだ。
水も澄んでいる。
目を凝らすと魚影の様な物が確認出来たので、俺は釣竿を取り出した。
川の真ん中へとエサが付いた針を投げ込む。
近くの丁度いい岩に腰を下ろそうとすると、いきなり腕にググっと振動が伝わる。
「おおっと!いきなりか!」
落ち着いて引き上げるとピチピチと体を揺らす活きのいい魚が取れた。
川で取れる魚という事もあり鮎やアマゴの様な姿を想像していたのだが、釣れたのは秋刀魚の様な魚だった。
「川なのに秋刀魚??面白いな!」
勝手に川サンマと名付けたそれをカバンに放り込み、釣りを再開する。
程なくして二匹目の川サンマも釣ることが出来た。
「よし、そろそろベースに戻るか」
拠点へと戻ってきた俺は、焚き火の準備を済ませ米を水に浸けておく。
30分程ハンモックに揺られ休憩したところで、昼ごはんの準備を始める事にした。
米は途中で火にかけてある、今から準備すれば丁度炊き上がる計算だ。
今日取れた食材を取り出す、キノコは大きいので一つだけ、川サンマは二尾。
下ごしらえはほとんど必要ない、今回は焼くだけのシンプル料理だ。
キノコは柔らかい布で拭き、汚れを取ったらナイフで浅く切れ目を入れていく。
川サンマは網の上で暴れない様に絶命させ、塩を強めに振る。
あとはそれらを油を塗った網で直火焼きにしていくだけだ。
網に食材を乗せ、じっと待つ。
川サンマは脂が凄かった。
網から落ちた脂が引火し、火力が上がる。
俺の期待感も上がっていく。
米の方が良さそうなので器に盛っておく。
キノコもそろそろ良さそうなので、醤油を垂らし仕上げに入る。
川サンマをひっくり返すと網の跡がくっきりと焼き付いている、俺は少し焼きすぎぐらいが好みだ。
「先に大マツタケからいきますか」
大マツタケと名付けたキノコをトングで掴む、大きすぎて箸では持ち上がらない。
俺はそのまま顔へと近づけていく。
香りがたまらない。焼く事によって何倍も香り高くなった大マツタケにガブリと噛みついた。
「あつっ!!はふ!!」
ステーキの様に分厚いキノコの中は信じられない程ジューシーだった。
間違いなく今までのキノコで一番美味いと断言できるほど完璧だ。
大マツタケを味わっていると、川サンマがいい感じになってきた。
こちらも食欲をそそる香りだ、気候は春みたいなのに気分は秋である。
一尾を火の弱い所へと除け、もう一尾を器へ乗せる。
まずはそのまま一口……。
これも美味い!秋刀魚の様な味を想像していたが、味は川魚のそれだった。
川魚特有の臭みの無い淡泊な味わいに、サラッとした脂がこれでもかと乗っている。
すかさず米をかっこんだ。
あっという間に一尾食べ終え、二尾目を器へ移す。
そしておもむろにカバンへ手を伸ばす。
取り出したるはスイートチリソース。
始めはポン酢にしようと思っていたのだが、予想より淡泊な味わいだったので、急遽変更だ。
たっぷりとかけ、かぶりつく。
「ん!!こりゃいい!!」
もともとスイートチリが好きなのもあるが、塩焼きから一気に別の料理へと雰囲気が変わった。
米がどんどんすすむ。
あっという間に食べ終わってしまった。
俺は缶チューハイを開け、大マツタケのステーキを胃に流し込む。
「ふぅーごちそうさまでした」
大マツタケも川サンマも美味かった。
異世界の食材も侮れないなぁ。
ぽかぽかとした陽気の中、ハンモックへと移動した俺は静かに目を閉じた。