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ドラゴンと尻尾ステーキ【後】

 女神様からのお仕置きで、襲い掛かってきたドラゴン。


 俺はじっくりと体中を観察した。


「でかいと思ってたけど、ドラゴンだって考えると小ぶりなのか?鱗の一枚一枚も綺麗だし、若い個体なのかも」


 若鶏ならぬ若ドラゴン、期待が高まる。


 翼は肉付きが悪いなぁ、頭と首はぐしゃぐしゃだし……胴体は内臓の処理なんて出来ないし……。


 俺は尻尾の方に回り込み、先端部分にナイフを当てた。


 む、硬いな。流石はドラゴンだ。

 仕方なくノコギリを取り出しゴリゴリと切っていく。

 絶対に刃こぼれしないので、なんとか切断できた。

 先っぽは切り落として輪切りの形にする。


 残りのドラゴン本体はカバンに収納する事にした。

 血抜きはしといた方がいいのか?


「女神様ー!!」


「急にどうしたのじゃ??」


「このカバンの中って時間経過はどうなってるんでしょうか?新鮮な食材はその場で生成されているのか、保管されているのか気になって」


「その場で作られているぞ、おぬしの意思によってのぅ!ただ同時に保存機能もついておる、一度出したものをしまう可能性もあると思ったからじゃ」


 な、なんて有能なんだ……。

 実はこの人すごい人なんじゃ!?


「そんな機能を付けてくださっていたなんて感激です。流石は女神様ですね!それでは食事の支度がありますのでこれで!!」


 俺は早口で捲し立てた。


「おいっ!!呼びつけておいてなんじゃ!もう少しおしゃべりしたいのじゃ!おーい!」


 なにか言いたげだったが、無視しよう。

 悪いとは思うが、ゆっくり話している時間は無い。

 もう腹が……限界なんだ。


 血抜きの必要は無さそうなのでそのまま収納する事にした。

 流石は容量無限、ドラゴンもすっぽりだ。


 急いで焚き火を準備していく。

 昼に一度作っているので着火するだけだ。


「よしっ、それじゃあ焼いてくか!」


 今回は網焼きにする事にした。

 焦げ付かないようにしっかりと油を塗って、その上からゆっくりと肉を置く。


 ジュゥゥウウウ……


 少し慌てすぎたかな、まだ火が弱く音も控えめだ。

 しかし、大きさを考えるとゆっくりと中まで火を通した方がいいかもしれない。


「こんなに食えるかな……」


 小さく切ったつもりだったのだが、それでも600グラムはくだらない。

 これなら付け合わせもいらないだろう、真っ向からドラゴンと対峙する事にしよう。


 時々ひっくり返しながら焼いていく。

 のどが渇いたのでドリンクを取り出した。

 昼に少し飲みすぎたので、今回はフルーツジュースだ。


 それも只のジュースでは無い。

 高級デパートの地下に売ってそうな贈答用のやつだ。

 グラスに氷を沢山入れてなみなみとジュースを注ぎ、喉へと流し込む。


「沁みるぅ~!濃い~!」


 美味いに決まってる、流石は高級品だ。


 肉を焼きながら、少しだけ前世の事を振り返る。


 仕事の忙しさで身体を壊して退職。

 気分転換として友人に誘われたキャンプが初めてだったっけ。

 それからすっかり魅力に憑りつかれてしまった。


 キャンプには同じものは存在しない。

 場所、季節、気温、道具、食材、メンバー、そして何故だか起こるハプニング。

 それが新鮮で、最高に魅力的なんだよな。


「そろそろ良いかな」


 塩だけのシンプルな味付けの肉を小さく切り、口へ運ぶ。

 塩だけなのは、肉の味を確かめてからソースを決めたかったからだ。


 肉を噛むと強い旨味を感じた。


「やっぱり鶏肉みたいだ!それにしてもなんだこの肉汁!」


 その見た目から、カエルやワニを連想した俺は、鶏肉に近い肉だと予想をつけていた。

 それでもこの美味さは予想できなかった。


 やはり若い個体だったのだろうか、肉質はみずみずしく弾力がある、

 まるで地鶏の様な触感から、滝の様に肉汁が溢れ出してくる。


 俺はカバンからポン酢ベースのソースを取り出した。大根おろしとシソの葉も忘れない。


 若ドラゴンの和風ステーキの完成である。


 肉の量を心配したが杞憂だった。

 さっぱりとしたソースのおかげであっという間に完食した。


「ふぅ……ごちそうさまでした」


 俺は食後の準備に取り掛かる事にした。

 湯を沸かし、取り出したのはコーヒーを淹れるための道具だ。

 コーヒーは豆から。手回し式のコーヒーミルに、淹れ方はペーパードリップだ。

 キャンプでは普段、お湯を注ぐだけのドリップバッグタイプを使っている。

 しかし、家では豆から挽いていた。やはり豆から淹れると風味が全然違う。


 豆を挽いたらセットする、この時豆の量は普段より一割ほど多くするのがコツだ。

 そしてまずは蒸らし。一杯分なら三十秒ほどで充分だ。お湯の温度は90℃ちょっと。

 お湯が紙に直接触れない様に、中央に小さな円を描きながらゆっくりと注いでいく。


 そして、半分ほど注いだところでドリッパーを外す、これがポイントだ。

 半分しか入っていないコップに、お湯を注いで完成だ。


 こんな淹れ方、コーヒーを薄めている様で嫌だと感じるかも知れないが、これが一番雑味が出ない。

 コーヒーの旨味は前半にまとめて抽出されるので、後半に残るのは出涸らしの様なえぐみだけなのだ。


 椅子に深く座り直し、星を見上げコーヒーをすする。


「はぁ~美味い。幸せだ~」


 こうして一日目の夜は更けていったのだった。

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