ドラゴンと尻尾ステーキ【前】
「んっ……ふぁ~ぁ」
どうやら少し寝てしまっていたらしい。
今日は色々あった、無理もないだろう。
目覚まし時計に目をやると19時を表示していた。
「ん~んっ゛!はぁ、晩ごはんにするかぁ」
眠い目をこすりテントから出る。
「ん?なんだあれ……」
まだ寝ぼけてるのだろうか、遠くの方の空に何かが飛んでいるように見える。
でかいな……異世界の鳥か?
ぼーっと眺めていると異変に気付く。
ん?なんか近づいてきてないか?
その場をぐるぐると旋回していたそれは、こちらへ向き直り徐々に近づいてきている様だった。
暗闇の中で、だんだんとその姿が露わになっていく。
「どっ……どっどっど、ドラゴン!!!?」
その正体は、体長十メートルほどのドラゴンだった。
気付かれない様に息を潜めるが、ドラゴンは始めからここが目的であったかのように一直線に向かってくる。
「ひぃぃぃいいい!食われるううう!」
無心でテントの中に駆け込んだ。
こんな布の盾ではドラゴンの巨体に対抗できるはずも無いのだが、そんな事を冷静に考える余裕は無かったのだ。
風切り音が近づいてきた。
来る……!!!
その瞬間、テントへの確かな衝撃と共に、なにかが爆発した様な轟音が山に木霊した。
それをきっかけに、周囲は先程までの静けさを取り戻す。
だ、大丈夫なのか?
恐る恐るテントから顔を出し様子を伺ってみる。
川の方へ目をやると信じられない光景が広がっていた。
「うわ、どうなってんだこれ」
そこには直前まで空中を跋扈していたドラゴンが倒れていた。
よくよく観察すると、顔は激しく損傷しており首があらぬ方向へ曲がっている。
「死んでるよ……」
テントへの衝撃、顔を損傷し死亡したドラゴン、考えられる可能性は一つだった。
「テントが守ってくれたのか……壊れないから」
女神様へのお願いの一つ、絶対に壊れないキャンプ道具。
もちろんそんな意味で言ったつもりは無かったのだが、良い方に働いてくれたらしい。
「ひょっとしたら俺は、女神様を騙してとんでもない能力を手に入れてしまったのかも……」
その言葉を口にした瞬間に、頭の中に声が響いてきた。
「こらーっ!!!!おぬしやっぱり騙しておったな!!この不敬者!!」
「げっ女神様っ!?」
「おかしいと思ったのじゃ!おぬしをこの世界へと送った後に調べてみたら、ソロキャンパーなんて能力は存在しなかったのじゃ!!」
「申し訳ありませんでしたー!!ですが、この能力を悪事には使いませんから!!絶対に!!」
「使われては困るわ!!まぁもうよい、お仕置きも済んだ事だしの!!」
「お仕置き……?」
「そう、お仕置きじゃ!」
おもむろにドラゴンの亡骸に目を向ける。
「あのーもしかしてこのドラゴンって……」
「そうじゃ!驚いたじゃろ!?おぬしのあの時の顔!傑作じゃったわ!!」
顔は見えないがきっと見ない方が精神的に良いだろう。
キャンプに適した場所を指定したのにドラゴンなんておかしいと思ったんだ。
だが、今回の事は自業自得だ。反省しよう……。
「それで、お許しいただけるんでしょうか?」
「本来であれば能力を取り上げてやりたい所じゃが、残念ながら付与した能力には介入できんのじゃ」
ホッ……よかった。
「じゃから能力を授ける際には審査があるんじゃがのぅ、まさか女神を騙す者がおるとはの~」
「ごめんなさい!!」
「それにしてもキャンプというやつはなかなか楽しそうじゃの~、我もやってみたいのじゃ」
チラッチラッと見えても無いのに擬音が聞こえてくるようだ。
「ソロキャンプは一人でやるものなんですよ」
「固い奴じゃの~!ちょっとくらい良いではないか!!我もやりたいやりたいやりたいのじゃ~!!」
あの見た目を知っているだけに呆れてしまった。
これじゃまるで幼児だ。
「あーもうわかりましたよ!!でも少し待ってください!もう少しこの世界を一人で楽しんでからでお願いします!」
「しょうがないの~、その代わり美味しい料理を沢山用意しとくのじゃぞ!!」
最初からそんな気はしていたが、やっぱり料理目当てだったか……。
「わかりましたから!こちらからまた声をかけますので!」
「なるべく早く頼むのじゃ!それじゃあの~!」
ふぅ……疲れた。
でもこれで後ろめたい事も無くなったし、良かったかな。
さて、それはいいとしてこいつをどうするか。
こういうのって漫画とかだと高値で売れたりするんだよな。
いや、待てよ……そもそもドラゴンって食えるのかな?
気になるかも……。
さっきのテントを見るに能力は文字通り与えられたとみて良さそうだ。
それなら俺は決して病気にならない屈強な肉体って事になる。
最悪ドラゴンを食べて死亡なんて事はないだろう。
「試してみるか……」
今日の晩ごはんは、ドラゴンのステーキだ。