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猛吹雪と遭難者【前】

 あれ以来、不思議な現象は起きてない。

 どれだけ沢山の薪をくべてから寝ても、朝起きる頃には火は消えかかっている。

 謎を解き明かしたい気持ちもあったが、大酒を飲んだ次の日の出来事だったので、何かの間違いだったのだろうと思う事にした。


「はぁ~暇だなぁ~」


 俺は既に飽き始めていた。

 もちろん異世界にでは無い、まだほとんどの場所を見てないしやりたい事もまだまだある。


 飽きたのはこの雪山だ。


 言っては悪いが、雪山には見どころがあまり無い。

 朝の景色なんかは依然として感動する程美しいのだが、毎日見てるとそれもだんだん薄れてくる。

 取れる食材も限られているし、雪が降る日にはテントの中とは言え普通に寒い。


「そろそろ次を目指すかなぁ」


 俺は移動を考え始めていた。


 空を見上げると、どんよりとした雲が覆っていて、昼とは思えない程暗かった。


「移動は明日かな……」


 明らかに吹雪の前兆だ、移動するのは吹雪が止んでからになるだろう。


 そうと決まれば今日は動かないに限るな。

 のんびり一日を過ごすとしよう。


 俺はテントへと戻りストーブへたっぷりと薪を追加する。

 それを終えると、インナーマットを何枚も重ねて敷いた、ふかふかの寝床へと腰かけた。


「あれ、もう降ってきたかぁ……」


 テントへと戻ってそれ程時間は経っていないのに、外には雪が降り始めていた。


 雪は見る間に激しさを増し、あっという間に猛吹雪となった。


「冬タケノコを取りに行かなくて正解だな、こんなに一気に降られたんじゃ回避しようが無いぞ」


 自分の小さな選択が正解だった事に少しだけ気分を良くし、加湿器代わりに沸かしていた湯でコーヒーを淹れた。


「はぁ~美味い。いくら寒い雪山とはいえ、こんだけストーブを炊いて完全防備してれば暖かいもんだなぁ」


 ここで、悪い癖が出てしまう。無意味な冒険心だ。


 今まで着た事が無い程暖かい高級防寒具、これを目一杯重ね着したら猛吹雪の中でも耐えられるのか、無性に気になってしまった。


 そんな事をしてもなんのメリットも無いのだが、一度気になり出したら止まらない。

 既に俺は防寒具の選別を始めていた。


「寒かったらすぐにテントに戻ればいいし、ついでに吹雪の雪山も見ておきたいからな。インナーは三枚くらい重ね着してダウンも雪山用の一番高いやつにしよう。耳当てとか手袋もなるべく良さそうなやつを……」


 人間、余計な事には謎の力を発揮するものだ。

 仕事をしていた頃よりも手際良く、あっという間に装備を整えた。


「これで良し!あとは温かい飲み物を真空断熱のボトルにたっぷり入れてっと。それにしても暑いなぁ」


 装備が高性能すぎるせいで室内にいると暑いので、俺は急いで外に出る事にした。


「うぉ!寒ぅ!」


 外に出た途端に猛吹雪が俺の全身を包み込む。

 視界がほとんど塞がれて目も開けられないので、俺は慌ててテントへと戻った。


「ぷは!吹雪ヤバすぎだろ!これは装備のアップデートが必要だな!」


 予想以上の吹雪にたじろぎはしたものの、同時に寒さは想定内だとわかったので撤退する気は起きなかった。


 顔の半分を覆うゴーグルと、自動車のヘッドライト以上の明るさの懐中電灯を新たに装備して、再び外へと飛び出す。


「お~!これなら何とかなりそうだ!」


 懐中電灯が凄まじかった。

 吹雪のせいではっきりとは見えないものの、十メートル以上先まで眩しく照らしている。

 夜ではないので効果半減ではあるが、それでもあるだけで大違いだ。


 寒さも今のところ耐えられない程じゃない。

 俺はだだっ広い雪景色を真っ直ぐに進み始めた。


「はぁ、なんも無い……」


 五分程進んだだろうか。意気揚々と出発したところまでは良かったが、進めど進めど景色は変わらない。

 ただ真っ白な吹雪が一面に降り注いでいるだけだ。

 俺は早くも来た事を後悔し始め、いつ引き上げるかを考え始めていた。


「ん?あれは……!?嘘だろ!?」


 油断していた俺の眼前に、突然信じたくない光景が飛び込んできた。


 人が倒れていたのだ、それも二人もだ。

 二人は重なる様に倒れていて、まるで吹雪から守っているかの様に見えた。


 慌てて二人のもとへ駆け寄ると、覆い被さっている方はまだ意識がある様だった。


「おい!大丈夫か!?返事してくれ!!」


「あ゛ぅ……た……助け……て」


 俺は大急ぎでダウンと毛布を取り出して、二人に着せる。

 どうやってテントまで運ぶかを一瞬考えたが、悩む必要は無かった。


 俺には女神様から授かった力がある。

 俺は二人を両腕でそれぞれ掴むと、肩へと担ぎ上げた。


 重装備をしているにも拘らず楽々と二人を持ち上げた俺は、女神様へ感謝をしつつ、大急ぎでテントへと戻ったのだった。

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