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銀世界と朝すき焼き

 肌寒さで目が覚めた。

 薪ストーブが消えてしまっている、時計を見ると朝の4時すぎだった。


「ふぁ~変な時間に起きちゃったなぁ……」


 昨日は前日寝て無かったせいで、設営後夕方には寝てしまっていた。

 夕方に寝たと考えると少し寝すぎな気もするが、それだけ疲れていたのだろう。

 決して疲れない肉体を授かっているので、疲れていたというのはおかしな言い方だが、この肉体にもどういう訳か眠気はあるのだ。


 尤も、一切眠る必要の無い生活なんて、もはや人間とは思えないので御免こうむる訳だが。


 シュラフからもぞもぞと這い出て大きく伸びをする。

 シュラフとは寝袋の事だ。これも色々と種類があるのだが、今は気密性の高いマミー型という種類の物を使っている。


 外へ出ると、その景色に目を奪われてしまった。


「すごい……」


 白い息を漏らしながら呟く。


 見渡す限りの銀世界が、朝焼けに照らされて乱反射している。

 空気が乾燥しているからか、視界は透き通っており、遥か遠くまで輝いていた。


 こんな景色、元の世界で見る事が出来るのだろうか……。

 もしかしたら北海道や外国へ行けば見られるのかも知れない。

 でも、少なくとも俺はこんなに美しい景色を見たのは初めてだった。


 景色が良く見える向きにチェアをセットする。

 ここは景色を見ながらモーニングコーヒーといきますか。


 そうと決まればと、湯を沸かす為に焚き火を準備していたのだが……。



 グゥゥ~……



 不意に腹が鳴った。


 そういえば昨日の昼から何も食べてない。

 一度意識し始めると、急激に腹が減ってきた。


 コーヒーは中止だ、朝ごはんにしよう!それも、ガッツリと!


 脳みそをフル回転させ、なにを食べるか考える。


 野菜?魚?肉?愚問だ、肉に決まってる。

 焼き肉?悪くは無いが、()()()が無い。

 なら鍋か?鍋はアリだ。しかし何鍋にするかが問題だ、ガッツリ系の鍋となると限られてくる。


 ちゃんこか、チゲか……しゃぶしゃぶ……すき焼き……。

 すき焼き!?


 すき焼きだ!間違い無くベストアンサー。

 脳みそ、身体、胃袋が満場一致している。


「よし、決まりだ!急げ急げ!」


 自分の両手に指示を出す。上司に急かされた部下の様にテキパキと両手が仕事をこなしていく。


 まずは一番時間がかかる米だ。

 今回は水に浸して時間を置くなんて事はしない。

 ノータイムで火にかける。


 次に食材の準備だ、今回はオーソドックスなもので良いだろう。


 牛肉、長ねぎ、白菜、大マツタケ、豆腐、しらたき、春菊を取り出した。


 牛肉は言わずもがな、最高級の国産黒毛和牛ロースだ。美しい霜降りが食欲を掻き立てる。

 椎茸の枠は、余分に取っておいた大マツタケにしてみた、合わないはずが無いからな。


 具材を適当な大きさにカットする。

 余計な下準備がいらないのも、鍋料理の良い所だ。


 良さげなサイズの鍋を取り出し、火にかけ牛脂を塗っていく。

 そこに牛肉を敷き詰めていく。

 ちなみに俺は関西風派だ、先に肉を楽しみたいからだ。


 肉をひっくり返して、砂糖と醤油で味付けをする。

 ここで忘れてた事に気づき、慌てて卵の準備をした。


「危ない危ない、なんとかセーフだ」


 卵をかき混ぜると、肉がちょうどいい具合に焼けていた。

 早速取り出し、卵に浸す。


 ゴクリ……


 これは、やばい。

 空腹なのを加味しても、この生活で一番の見た目と匂いだ……。

 俺は恐る恐る口へと運んだ。


「んふっ……!」


 思わず気持ち悪い声が漏れてしまった。周りに誰もいなくて良かった。

 いや、そんな事は今はどうでもいい。


 このすき焼き、最高すぎる。

 肉の脂がこれでもかと主張してくるのに、全くくどさを感じない。

 それどころか、砂糖の甘みをより引き出している。完璧だ。


 たまらず二枚目に箸を伸ばした。


「はぁ~美味い……」


 唯一のマイナスポイントがあるとすれば、米が無い事だ。

 この牛肉、米がすすみ過ぎる。


 これ以上肉だけで腹を満たすのはもったいないので、調理を進めていく事にした。


 空になった鍋に新たに肉を入れ、同じように焼いていく。

 味付けは、砂糖醤油に加え酒も追加した。

 そこに春菊以外の各野菜を投入していく、しらたきは当然肉の隣には置かない。


 蓋をして、しばらく煮込むといい香りが蓋の向こうから充満してくる。

 米も既に蒸らしに入っている、勝利は目前だ。


 蓋を開け、春菊を投入する。

 次は慌てなくていいように、卵を二つほど追加しておく。これで足りない事は無いだろう。


 米を見てみると普段より少し早いが、いけそうだったので食器へ移す。


「完成だ!いただきます」


 まずは白菜と長ねぎから行く事にした。

 卵をたっぷりと絡ませて頬張る。


 はふ……はふ……


 熱い、でも美味い。野菜の甘みが最高だ、長ねぎのトロトロ感も堪らない。

 我慢できずに米を掻き込む。

 野菜でこんなに米がすすむって、どんだけおいしいのよ、これ。


 続いて大マツタケを試してみる。

 美味いのはわかってる、問題はどれくらい美味いかだ。

 一口では食べきれないので半分ほどを噛みちぎる。


「~~~ッ!?」


 とんでもない量の水分が飛び散った。

 ジューシーってレベルじゃない、流石は大マツタケだ。


 元々椎茸が好きなのもあるが、この大マツタケは既に大好物になっていた。

 今回に関しても食材に順位をつけるとしたら、肉と一位で迷う程だ。


 という訳で、一位を決める為に大本命の牛肉を食べる事にする。

 足跡ほどもありそうなサイズの牛肉を、二枚まとめて口いっぱいに頬張った。


 柔らかい……。

 煮込んだ事で柔らかさが増している、安い肉だと固くなってしまうものだがやはり脂の違いなのだろうか。

 更に野菜の甘みを吸っている事で旨味も増している。


 俺は口の中がいっぱいなのに、我慢出来ずに米を詰め込んでいた。



 粗方食べ終えたところで、ずっと我慢していた最後の食材を箸に取る。

 俺にとって影の主役、春菊だ。

 砂糖と脂でこってりとした口の中をリセットしてくれる存在である。

 敢えて卵にはくぐらせない、春菊の良い苦みが曇ってしまうからだ。




「ふぅ……ごちそうさまでした」


 朝からこんな食事、なんて贅沢なんだろう。


 空っぽになった鍋や食器を、カバンの中に放り込む。

 後片付け無し、最高です。


 空を見上げると、太陽は完全に顔を出していた。

 今日は辺りの探索でもしようかな。



「さて、今日も一日楽しむか!」

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