女神様とソロキャンパー
本作品は一話辺り1500~2500文字と短めです。
全体としてのストーリーはありますが、ある程度どこから読んでも大丈夫なような構成になっています。
基本的に、がっつり料理をして食レポをするパートと、一期一会で様々な出会いをするパートに分かれています。
料理の作り方に興味なんか無い方は、どうぞ読み飛ばしてお進みください。
「ん、あれ……?ここは?」
目を覚ますと真っ白な空間にいた。頭痛が酷い。
「目覚めたようじゃな。話を進めてもよいかの?」
声の方に目をやると、そこには美しい女性が立っていた。
吸い込まれる様な淡いブルーの髪、まるで作品の様に整った美しい目鼻立ち。
シルクの様な生地に身を包んだその身体は、生地の薄さからかボディラインがくっきりと浮かんでいる。
「何を黙っておるのじゃ、我の美しさに見惚れてしまったか?」
女性は、そういう事なら無理もない、といった表情でこちらをふふんっと見下ろしてきた。
「は、はぁ……あなたは一体?ここはどこなんです?」
「我は女神、ここは天界じゃ。おぬしは死んだのじゃ」
夢でも見ているのか?目を覚ます前の記憶を掘り起こす。
確かキャンプをする為に山へ入って……そうだ、俺は崖から滑落したんだ。
「思い出しました、私は死んだんですね。天界に来たって事は天国に行けるんでしょうか?」
「残念じゃが天国へは行けぬ」
そんな……確かに今まで善行という善行はしてこなかったかも知れない。
でも悪い事なんてした覚えは無いし、助けられる範囲で人助けもしてきたつもりだった。
「では、地獄へ行くんでしょうか……」
半ば諦めつつもダメ元で聞いてみる。
「地獄にも行かん。おぬしには異世界へ行ってもらう。今のままの容姿、今のままの年齢で第二の人生を歩むのじゃ」
地獄行きで無いと聞いてひとまず安心した。
それにしても異世界?まるで漫画の設定じゃないか。
駄目だ、思考が追い付かない。
「そう困惑するな、ちゃーんとちーと能力も授けてやるからのぅ!」
いよいよもって漫画の世界だ。
女神様の口からチートなんて言葉が出るとは……。
「どうしてその様な能力を授けて頂けるんでしょうか?」
「数年前に同じ様にここに来た若者がおっての。そやつがちーととやらを授けぬのは女神として失格!異世界転生にあるまじき行為!などと抜かしおってな。仕方ないからそれ以来授けてやる事にしたのじゃ」
女神様完全に乗せられちゃってるじゃないか……。
意外と御しやすいタイプなのか?
なんにせよ、その若者には感謝だな。
「その、能力というのはどんなものでも構わないのですか?」
「どんなものでも構わぬが、限度はあるぞ?世界を滅亡させる力と言われても許すわけにはいかん」
「勿論そんな頼み事はしませんよ。キャンプ道具をください」
「キャンプ道具じゃと?それがどんな物かは我にはわからぬが、それでいいのか?殊勝な奴じゃのぅ」
「いえいえ、それだけで構いませんがもちろん細かい条件はありますよ」
「条件か、申してみよ」
「まず全て最高級品である事、なにがあっても絶対に壊れず劣化しない様にして下さい。そして食料品や調味料、これも常に新鮮な物を好きなだけ手に入るようにして頂きたい。」
女神様が何かを言おうとするが、遮るように捲し立てる。
「更にはそれらを収納できるカバンもつけてくださいね、もちろん中は異次元に繋がっていて容量は無限にしてくださいよ。最後に、どんな環境でもキャンプが出来る様、絶対に病気にならず疲れない屈強な身体にして下さい」
「ちょ、ちょっと待つのじゃああ!欲張りなやつじゃの!能力は一人一つまでと決まっておるのじゃ!そんなにたくさんはダメじゃ!!」
やっぱり駄目か、と思ったが、先程の若者の件があるのでもう少し粘ってみる事にした。
「女神様、なにか勘違いをしておられませんか?私が求める能力はたった一つです!」
「たった一つじゃと!?あれだけワガママを言っておいてなんて面の皮の厚いやつじゃ!」
「いえいえ、つまるところ私の希望する能力は一つだけ。そう、ソロキャンパーになりたいのですよ!」
「そ、ソロキャンパーじゃと!!?なんじゃそれは!?」
「ソロキャンパーとは、最高級の決して壊れぬキャンプ道具を扱い、食べたい時に新鮮な食材を取り出せて、更にはそれらを収納する容量無限のカバンを持ち、キャンプをする為の屈強で病気に強い肉体を持ったものです!!」
「なんじゃと……!?そんなもの聞いた事が無いぞ!我はだまされぬ!油断も隙も無いやつじゃ!!」
流石に簡単には騙されてくれないか……だがあと一押し!!
「女神様は先程キャンプ道具というものを知らないと仰っていましたね!?ならばソロキャンパーというものの何がわかるのですか!自らの無知を棚に上げて人の事を嘘つき呼ばわりしないで頂きたい!!」
「なっ!!!?ぐぬぬ……!!」
「いえ、言いすぎてしまった様ですね、失礼をお許しください、そんな顔をなさらずに。ただ、私の知る女神様という存在は、愛に溢れ、人を信じ、何よりも全知であったものですから。まさかソロキャンパーをご存じ無いとは思わず……」
「ああ!!思い出した!思い出したのじゃ!!ソロキャンパーじゃったな!今思い出した!!」
「では、私にソロキャンパーの能力を授けて頂けるのですか?」
「もちろんじゃ!我は女神なのじゃ!それぐらいお安い御用である!!」
ありがとう、女神様。
こんなにわかりやすい性格でいてくれて。
こうして俺は、ソロキャンパーとして異世界へと旅立つのであった。