撮影会に参加しよう。
知る人ぞ知る。某あの貴族様と似たような名前の方が出てきますが別人です(笑)
それはいつものようにギルドにいってクエストボードを眺めていた時のこと。
不意に背後から声がかかって私はそちらに振り向いた。
「ルナさん」
「?」
そこには黒縁眼鏡の奥で微笑みを浮かべているジーネさんの姿。
一見すると親しみやすそうな人という印象を受ける感じだけど、私はこの人は油断したらダメな人だってことをすでに知っている。
「なんでしょう...」
最初から警戒感MAXで後ずさりしつつジーネさんに尋ねる。
私が一歩下がるとその分だけジーネさんは詰め寄って来る。
ああ、これってもう完全に私を逃がさないつもりだ!!!
ロックオンされてるーーー。
「ルナさんって素敵ですよね」
「はぁ...」
「きっと写真写りも良いのでしょうねぇ」
「笑顔が。その笑顔がとっっっっっても怖いです。なんなんですか!!」
「うふふふっ」
怖い怖い怖い怖い。
その黒い笑顔でこっちにずいずいって寄ってこないでぇぇぇっ。
あああああ、とうとう壁に追い詰められてしまった。
ひぃぃぃぃぃぃぃ。私に何か厄介ごとを押し付けようとしてるっっ。
近頃巻き込まれ体質になってきたような気がする。
私のレベルが上がると同じように巻き込まれレベルもあがっていってるような。
こないだ八千ものオークを全滅させちゃったから私のレベルは今や60台にまで跳ね上がった。
パーティを組んでいた皆もその分の恩恵によって全員50台。
この世界の強者って今のところ80台なんだって。
その先の90台は前人未踏。
でも私達なら届くんじゃないかってジーネさんは言ってきたりしてる。
そんなジーネさんからの依頼だから強い魔物の退治かな?
冒険者っていう仕事はいつ生命を落としてもおかしくない仕事。
だけど死にたくないからあまり難しくない仕事だったらいいなぁ。
....いや、私不老不死だから死なないけど。
死なないけど痛みは感じるからね。
痛いのとか苦しいのはもう嫌なんだよ!!!
「ルナさん、モデルになってみる気はありませんか?」
「はひっ!?」
詳しく聞いてみると近々この領地を治めていらっしゃる公爵様が長年の夢であった学園の設立をついに実現させて運営が始まるのでそのパンフレットを飾るモデルを募集しているとのことだった。
「ルナさんならぴったりだと思うんですよ。後パーティの方々も皆さん美人さん揃いですしね。どうですか? 受けてくださいませんか!!」
悪くない話だと思う。
ううん、むしろやりたい。
モデルになるって楽しそう。
後、学園始まったら私も通いたい!!!
前世に夢見たことが叶う。
「やります! 是非やらせてください。いつ、何処に行けばいいですか?」
「食い気味ですね。やる気になっていただいて良かったです。これで紹介料として公爵様からギルドにお金がいただけます。ふふふっ」
あ、そういう裏があったんだ。
なんとなくそんな気はしてた。
転んでもタダでは起きないタイプの人だなぁ、この人。
「場所はラナンの町と言ってこのリリンの町から馬車で三時間程のところにある町です。でも安心してください。通常の馬車ならその時間ですが、公爵様はこの程ゴーレム馬を開発されたとかでそのゴーレム馬車で行けば時間は一時間にまで短縮されます。今はまだお披露目もされていませんが。つまりルナさん達が最初のお客さんということになります。ですが学園が始まったら公爵領各地に送迎の為に使われる手筈になってるらしいですよ。勿論学生さんだけじゃなく冒険者の方々も使用出来るようになさるとか。これで公爵領内であれば様々なところに時間を余り使わず行けるようになりますね」
ジーネさんの目が輝いている。
気持ちは分かる。なんか凄い。一気に技術革新って気がする。
「ちなみに二時間に一本くらいの運営を目指しているらしいです。僻地に行けば行く程本数は減っちゃうみたいですが」
バスかな。
「公爵様が運営なさるのは最初だけでいずれは民間に任せるつもりらしいですよ」
そうなると完全にバスだな。うん。
「それで日時はいつなんですか?」
「あ、はい。明後日にリリンの町の門前集合と書いてありますね」
「分かりました」
私は笑顔でジーネさんに別れを告げて帰宅の途に着いた。
明後日かぁ。モデルの仕事楽しみ。
ん! 時間空くなぁ。クエスト受けて来れば良かった。
まぁ明日でいいか。
「・・・・・」
私はギルドに引き返して薬草採集のクエストを受けるのだった。
◇
三日後。
ゴーレム馬車は早かった。
あれはもう馬車じゃない。
自動車だった。
クレタが「ううむっっ」って唸ってたのがドワーフっぽかった。
ドワーフって技術的なの好む種族ってイメージあるしね。
「皆さん、今日は私の我が儘に付き合っていただくことになって申し訳ありません。遠いところ起こしいただいてありがとうございます。この領地の領主アリマ・ラナン・ルーシェと申します。今日は一日よろしくお願いします」
「カメラマンのエマです。よろしくお願いします」
まさか公爵様自ら出向いていらっしゃるなんて思わなかった。
それにも驚いたけど、まさかの女性!!
領主様っていうと男性の役割だと思い込んでた。
女性の領主様もいらっしゃるんだ...。
「ルナさん、アリマ様は特別なんです。最初は平民でしたけど、様々な技術を国に齎したことで王に爵位を与えられた方なんですよ」
なんてことを思っていたらティアがこっそり小声で教えてくれた。
へぇ、まるでシンデレラストーリー。
それにこの世界が何処か前世現代に通じるものがあるって思ってたのもこの方がいらしたからなんだ。
なるほど。納得したかも。
「こここここここっ、公爵様!!????」
ステラががちがちに緊張している。
その様子を見て「情けないな」などと軽口を叩くクレタ。
普段ならここで口喧嘩になるところなんだけど、今回ばかりは言い返す余裕もないよう。
ステラは借りてきた猫のように大人しい。
「そんなに緊張しないでください。普通にしていただいて結構ですよ」
公爵様・アリマ様が朗らかに微笑まれる。
それからご自分の言葉を真実のものにする為にアリマ様は私達の手を取ってぶんぶん振り回し始める。
「それにしても皆さんとても素敵な方ばかりで嬉しいです。これはもう学園運営は成功間違いなしですね。パンフレットが領地に配られる予定の一ヶ月後には入学願書が沢山届きますよ。きっと」
勢いが凄い。
うん。平民だった頃の経歴もあるからかな。
とっても親しみやすい。
ステラもこれには唖然としたようで逆に緊張が解けている。
「では撮影始めましょうか」
タイミングを見計らってカメラマンのエマさんの声。
アリマ様はその声で私達から離れて見守る側に回る。
「ではまず学園指定の制服を着て来てもらっていいですか」
「「「「はい」」」」
私達はアリマ様から制服を受け取って案内された更衣室で制服を身に着ける。
可愛い。私は身に着けた制服がとても可愛くて一発で気に入った。
トップスはオーソドックスな白のスクールシャツ。
紺色のブレザー。金色のボタンでポケットは三つ。胸ポケットに大きく校章が縫われている。
首元を彩るリボンはスカートと同じだけどジャケットよりはやや薄めの紺を下地に薄いピンクと薄い青が縦横に入ったチェック柄。
ネクタイもあって個人個人好きなほうが選べるらしい。私はリボンを選んだ。
スカートは基本膝上10cmくらい。まぁそんなものだろう。
後は標準的な長さの黒ソックスと黒の革靴。
「可愛いっ」
着替えたその場でくるくる回ってはしゃぐ私と対照的にティアは浮かない様子。
どうしたのか聞いてみるとスカートが短くて恥ずかしいらしい。
そうかな? 私は平気だけどティアにとってはそうなのかも。
私は普段からこんな感じのミニスカート、対するティアは白と青の全身を包むワンピース状の法衣。
神官だけあって露出は少ない。
脚の肌が露出している服なんて...。
「・・・・・」
私は"ごくり"と唾を飲む。
ティアの脚から目が離せない。
きめ細やかで透き通った白い肌。
触るときっとすべすべしているのだろう。
触りたい。思春期男子みたいな欲求が私の中で膨らんでいく。
無意識のうちにティアに一歩近づく。
ただならぬ私の様子にティアが気付く。
「ルナさん?」
は!! 何しようとしてたんだ私。
我に返れて良かった。じゃなかったら変態の称号がつくところだった。
「ごめん。ティアがあまりに可愛いから」
つるっと本音が口から出た。
真っ赤になるティア。
私はこの時、自分が言ったことを特に何も気にしなかった。
他の二人の様子を見る為首を回してみる。
「こ、これは...短いな」
「あんたの身長と同じじゃない」
「何を! まな板」
「バカの一つ覚えね! この寸胴」
ステラは普段スカートではないけどハーフパンツを穿いてて脚の露出には慣れている為平気な様子。
クレタは普段はロングパンツだから慣れなくて照れくさいようだけど、ステラのおかげで別の意味で慣れるだろうから放っておいても平気だろう。
制服の後は体操着での写真撮影もある。
どんなものかとこっそり見てみるとブレザーと同じジャージ上下。胸元に校章。
白の半袖トレーニングシャツ、紺色のトレーニングハーフパンツ。極普通だった。
「皆さん、そろそろ準備いいでしょうか?」
更衣室の扉越しにエマさんの声。
「「「「はい」」」」
私達は全員で返事をして写真撮影に臨むべく更衣室を出た。
◇
撮影は滞りなく順調に進んだ。
カメラマン・エマさんの「可愛いですよ~、こっちに目線ください。はい、少しの間そのままで」っていう世辞とプロの指示に乗せられて私達は全員すっかりプロのモデル気分。
楽しいひと時を過ごさせてもらって撮影はそれから数時間後に無事終了した。
「本日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそとても貴重な体験をさせてもらいました」
エマさんと硬い握手を交わす。
どうやら納得のいくものが撮れたみたい。
エマさんの心底嬉しそうな笑みに釣られて私達も笑顔になる。
「ではパンフレットが完成したら一番に送り届けますので楽しみにしていてくださいね」
「はい、期待してます」
アリマ様は仕事で途中抜けされたらしい。
エマさんにその旨を伝えられ、それから私達は礼をしあって別れる。
その後はアリマ様が用意してくださった豪華な宿に泊まり、翌日リリンの町に帰郷した。
◇
二週間後。
ギルド経由で届いたパンフレットに全員が感嘆の声を上げる。
そこに写っているのは間違いなく自分達なのに自分達とは思えない程可愛くて麗しい。
制服紹介で全員の笑顔の写真。
学園概要で愛らしい笑顔を見せているティアの写真。
設備紹介で右手を上げてその設備を紹介してるような格好を見せて軽く微笑んでいる私の写真。
部活紹介で元気いっぱいの躍動感溢れる姿を見せているステラの写真。
行事紹介で真剣な顔をして指定されたそれに取り組む姿を見せているクレタの写真。
どれもこれも出来が良くてパンフレットにしておくのが勿体ないって思うくらい。
額に入れて飾りたい。
ものすごくいい感じ。
パンフレットは一人一冊もらった。
食い入るようにそれを見ているティアの横顔を見て可愛いなって私は思う。
いつまでも見ていられそう。
ほんと、どうしちゃったんだろう。
ティアのことが気になって仕方ない。
胸がほんわりと温かくなる。それと同時に"ちくっ"と痛みも感じる。
どうしてこの写真のティアの眩しい笑顔を引き出したのが自分じゃないんだろうって。
「・・・・・」
なんだか急に切なくなってティアからもパンフレットからも視線を逸らす。
私はまた失態を犯した。
ティアがパンフレットの私の写真を見ながらポツリと何か言ったことを聞き逃した。