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仲間が増えました。

後半、ステラの口調を誤っていたので若干修正しました。

 異世界生活一ヶ月目。

 ジャイアントトードを余裕で倒せるようになった私達はクエストの受注をそれより上のものにし、お互いレベルが30を超えた時点で久しぶりにリリンの町に戻ってきた。

 

「ここも久しぶりですね」


 ティアがとても嬉しそうに微笑む。

 ううん、実際に嬉しいんだろう。

 彼女はホレイリーの町のクエストでは散々な目に遭ってきたから。

 ジャアントトードには全身を体液でぬめぬめにされ、その後のクイーンスパイダーには糸で雁字搦めにされて間もなく餌にされる寸前まで追い詰められ、キラービーの巣を誤ってつついてしまって大群で追いかけられ、薬草採集をしていたらポーンワームに遭遇して襲われ、それを見ていたポイズンスネークも参戦してきてなどなど。それはもう一緒にいる私が何故そこまでトラブルに見舞われるのかと何度も頭を抱えてしまったくらいにはティアは毎日のようにトラブルを起こした。

 

「平和っていいなぁ...」


 ティアがトラブルを起こすと後始末をするのはいつも私。

 この一ヶ月気が休まることが殆どなかったから平和であることが幸せに感じる。

 もう今日は絶対に何もしない。家でごろごろするんだってそう決めていた。

 後少しで我が家。というところでよく知った声が背後からかかる。


「ルナさんとティアさん。丁度良かったです」

「ジーネさん」


 トラブルメーカーだけど律儀なティアは真面目に応答。

 私は無視してポーチから我が家の鍵を探す。

 

「ルナさん」

「あの、ルナさん。ジーネさんが呼んでますよ?」

「・・・・・」


 聴こえない、聴こえない。私は何も聴こえない。

 きっと風の音。うん、そうに違いない。


 ひたすら無視していると何を思ったのかジーネさんは私のスカートを捲ってきた。


「無視しないでくださいよーーー」

「うきゃぁぁぁぁ!!?」


 ハーフパンツ穿いてるとか言えここ町中だよ?

 何考えてるんですか。恥ずかしい...。

 頬を紅らめてジーネさんを睨む。

 その私を見て何故かティアが「はぅ」とか言いつつ紅らんだ頬を両手で覆ったけどそれは気にしないでおく。

 ジーネさんはしてやったりな表情。

"イラッ"としたけどここで何か言い返したり、行動を起こしたりしたらさっきよりもひどい目にあうかもしれない。

 私は嘆息してジーネさんに白旗を上げた。


「何か用事ですか?」

「お話が早くて助かります」

「・・・・・」

 

 白々しい。笑顔がとってもとってもとーーっても憎たらしい。

 私に手渡される依頼用紙。

 反射的に受け取って目を通すと最近冒険者になったステラという名前のエルフの少女に弓を教えてあげて欲しいという内容の物。

 

「?」


 私は内容を見終わって首を傾げる。

 エルフと言えば弓の名手。だった筈。

 そんな種族に私が教えられることなんてある?

 訝しむ私にジーネさんは目を逸らす。

 ああ、これ絶対何かあるやつだ。


「報酬も安いですし、面倒くさがって誰も受けてくれないんですよね。そのクエスト。なのでもうルナさんしか頼る人がいなくて。お願い出来ませんか?」

「...嘘ですよね。私が()()()()ジーネさんの視界に入ったからこれ幸いに依頼してきたんですよね?」

「てへっ」


 はぁ...。これもあれかなぁ。ティアが傍にいるからなのかなぁ。

 断りたいけど、さっきからティアがこちらをキラキラした目で見てる。

 人助けの依頼だもんね。ティアは神官だもんね。そりゃあやる気になるよね。

 私は聖人じゃないんだけど。


「ルナさん」


 はいはい。ティアのその目には敵わない。

 受けるよ。まだ身体に疲労感が残ってるけど受けますよー。

 

「分かりました。この依頼受けます」

「ありがとうございます」


 ジーネさんの眩しい笑顔を背に受けながら依頼主であるエルフの少女との待ち合わせ場所へ。

 門から出て町の外。私がこの世界に最初に降り立った場所・大木に向けて歩き出すとその途中で水色の瞳に水色のショートカット、薄緑のノースリーブのブラウス、茶色のハーフパンツ、気の強そうな瞳をした依頼主のエルフの少女に出会った。


「あんた達があたしの依頼を受けてくれるっていう冒険者?」

「うん。よろしくね。ステラ・ヴィーレさん..だっけ?」

「よろしくお願いします。ステラさん」

「ええ、よろしく」


◇ 

 無事邂逅を果たして早速クエスト開始。

 私とティアの前にはスライム目掛けて弓を射っている()()()の少女がいる。


「うわっ。また外れた」


「えーい。ちょこまか動くな」


「今度こそあててやるーーーーーー」


 これで空に弧を描いて飛んだ矢が三十数本目。

 ちなみに倒したスライムは「0」。

「ちょこまか動くな」とか当人は言っているけど、スライムはほぼその場から動いていない。

 ただプルプルと震えているだけ。

 

「エルフさん...ですよね」


 さすがに我慢しきれなかったらしいティアが呟く。

 その間にまた新しい矢が明後日の方向に飛んで行く。

 

 これ無理じゃない? 私にはこの子に弓を教えることなんて出来ないよ。

 ハッキリ言ってもう帰りたい。


「見てるだけじゃなくて何かアドバイスしなさいよ!」

「...と言われても」


 そもそも私、弓のことなんて知らないし。

 前世弓道部だったとかならまだ教えられるかもだけど、私は病人だったし。

 ティアを見る。彼女は私に首を振る。


 だよね。ティアも神官だから弓のことなんて分からないよね。


 .......。

 現実逃避は辞めよう。

 分からなくても分かる。

 何もかもダメすぎる。


「あのさ、フォームなんとかならないの?」

「フォーム? 何か間違ってる?」

「うん。なんでそんな剣を構える感じなの? 普通弓って身体を横にしない?」

「えっ?」

「えっ?」


 対象を前にして手も身体も前。

 剣なら分かる。でも弓はそうじゃない。

 それよりどうしてそれで矢が飛ばせるの? まぁ弦を引く距離も足りてないから飛距離も短いけど。


「嘘? 弓の構えってこうじゃないの?」

「..........ステラって本当にエルフ?」

「正確には人間とエルフのハーフね。人間の村育ちだから弓なんて使ったことなかったのよ」

「だったらどうして弓?」

「エルフっぽいかなって思って」

「それだけ?」

「ええ、それだけよ!!」


 胸を張って威張らないで欲しい。

 あ、でもエルフって本当まな板なんだね。

 私とティアより小さい。

 そんなことどうでもいいけど。


「ねぇ、他に武器無いの?」

「短剣ならあるわよ!?」

「そっちにしたら?」

「ええ!! どうしてよ!!?」

「だって..ねぇ? ティア」

「そうですね。そっちのほうがいいと思います」

「えーーーーっっ」

「・・・・・」

「・・・・・」


 それまでじっとしていたスライムが突如仲間を呼ぶ。

 巨大スライムとなり、ステラを飲み込んで服を溶かし始める。


「「あああああああああああっ!!」」


 私達は大慌てで救出に入り、危なげなくステラを無事助け出した。


 リリンの町自宅。

 ティアが人数分の紅茶を淹れて持ってきてくれる。

 用意が終わると私の隣に座るティア。

 その対面にはすっかり落ち込んでしまったステラの姿。


「エルフなのに弓が使えないなんて...」

「今まで弓を扱ったことが無いんだし、仕方ないんじゃないかな」

「でもエルフのアイデンディティが」

「けど短剣の扱いは上手かったですよね」

「だね。職業もシーフみたいだし、そっちを熟練させていったほうがいいと思う」

「うぅぅぅぅ。しかし...」


 この世の終わりみたいな顔をして唸るステラを一人置いて私達は紅茶を飲む。

 美味しい。ティアの意外な特技発見!! これからは紅茶は彼女に淹れてもらおう。


「貴女達にお願いしたいことがあるの!!」

「弓の訓練なら勘弁して」

「違う。実はあたし帰る家がなくて...」

「うん?」

「だからこの家においてくれない」

「まず事情を話して?」

「分かった。情けない話なんだけど...」

 

 ステラはそう前置きをして語り始める。

 よくあることで冒険者になることを大反対していた家族に反発して家を出て来たらしい。

 これまでは貯金を気に崩して何とかしていたけどそろそろ限界に近いんだそうだ。

 なので冒険でひと山当てるまでこの家に置いて欲しいという、そういう話。

 私は眉を顰めて、ティアはそんな私を期待に満ちた目で見ている。


「ルナさん、その....」

「はぁ...。分かった。その代わり家事はやってもらうからね?」

「分かった。ありがとう」

「ルナさん」

「・・・・・」


 だからキラキラした目で見ないで欲しい。

 私、なんだかんだでティアに弱いなぁ。

 なんでだろ...。


 こうして我が家に一人居候が増えました。

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