レベル上げをしよう!
異世界生活四日目。
ティアとは一緒に住むことになった。
当人は私に遠慮して本当はこの町に宿を借りるつもりだったらしいけど、パーティの仲間だし、空き部屋もあるしって私が説得してそうなった。
無性にティアのことが気になる。
まだ出会ったばかりなのに、どうしてそんなに気になるのか分からない。
ごろごろごろごろ。プライベートルームのベットを転がりまわる。
時間としてはまだ日が昇ったばかり。
活動し始めるにはまだ早い。
「う~~~っ」
でももう寝れない。落ち着かない。
私は睡眠を諦めてベットから起き上がった。
◇
台所に行ってコンロにフライパンを乗せて火をつける。
電化製品ならぬ魔力製品。
コンロの電源ボタンに触れるとこの魔力製品に内蔵されている魔鉱石が反応して私から魔力を吸い上げ、それで使用可能になるのだ。
火の調節も可能。弱・中・強の三段階。
ガルーダの卵を木のボールに割って入れる。
塩を一振り、ミルクもそこに足したら木箸でしっかりかき混ぜてフライパンにバターを引く。
卵を投入。焦げ付かないように火加減に気を付けながら火を通す。
熱が通ったと感じたら木ベラを使ってゆっくり返す。
それを何度か繰り返してスクランブルエッグが仕上がり。
続いてワイルドボアの燻製ことベーコンを焼く。
焼きあがったら先程のスクランブルエッグと一緒に木皿に乗せて一品終わり。
片手間に野菜サラダとパンも別の皿に盛る。
最後にコップを用意してミルクを注いでいたらティアが起きてきた気配。
「おはよう。ティア」
「おはようございます。ルナさん。あの、手伝えなくてごめんなさい」
「ううん。勝手にやってたことだから気にしないで」
「うぅ。すみません...」
髪に寝ぐせ。服装が寝間着のまま。
神官なのに何処か抜けた感じのあるところがなんだか可愛い。
「くすっ」
つい笑ってしまう。
それに気付いて頬を赤らめるティア。
「あっ、私、いい匂いに釣られてそのまま来てしまいました」
慌てて部屋に戻ろうとするティアを引き止める。
出来た朝食。冷めないうちに食べたほうが絶対美味しいから。
対面で席に着く私達。
「いただきます」
「主よ。今日も私に生きる糧を与えて下さってありがとうございます。いただきます」
食前の挨拶と祈りを終えて食べ始め。
ティアは今更体裁を気にしつつパンに手を伸ばす。
「これ。柔らかいです」
「うん。私の手作りなんだけど、口に合うかな?」
"ハムっ"そんな擬音が聴こえて来そうなティアの食べ方。
咀嚼して少しすると目を丸くしてティアは私に視線を合わせる。
言葉を言ってくれなくてもその顔を見たら気に入ったんだって分かる。
口に入れたパンを飲み込むのが勿体ない。
そんな感じにティアはゆっくり味わった末にパンを飲み込む。
「美味しいです。とっても」
「それなら良かった」
太陽をたっぷり浴びた向日葵みたいな笑顔。
そんなに気に入ってくれるなんて作った私も料理人冥利に尽きる。
ただ、私の料理は魔法と同じで前世で本などから培ったレシピをそのまま再現してるだけ。
だから本当の手料理とは言いにくいかもしれない。
こんなのただの手本。創意工夫なんて全然されてないんだから。
「いつか手料理作ってあげたいな」
ティアに聴こえないように小さな呟き。
それでも彼女には聴こえてしまったらしい。不思議な顔。
「これは手料理ではないのですか?」
「これは...。ううん、なんでもない。ごめんね。変なこと言って」
「ルナさん?」
「・・・・・」
少しだけ気まずくなってしまった食卓。
ティアがそれを察してか、否か、すぐに話題を変えてくれて。
私達はその後は楽しく朝食を済ませた。
◇
朝食後はいつものようにギルドに出向いてジーネさんからクエストを受注。
今回は馬車に乗ってリリンの町から半日。
ホレイリーという町の外でジャイアントトードを倒すことになった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ティアの叫び声が聞こえる。
見るとジャイアントトードに馬乗りになられ、涎を垂らされて身体中ぬめぬめ。
あれは相当気持ち悪いだろうなぁと思いつつ私は冷静に目の前のジャイアントトードを魔法で倒す。
「ルナさん、助けてください!!」
「すぐ行くからもうちょっと待って」
「あっ、うぅ...。気持ち悪いです。ひっ! 舐められました」
嘆息。ティアってかなりポンコツ。
これじゃあ役に立たない。
こんなカエルの魔物くらい一人で倒せるようにレベルを上げてもらう必要がある。
うん。そうと決まったら。
「フローズンアロー」
ティアに跨っているジャイアントトードの喉元に氷の魔法を食らわせて脳天貫通させる。
どんな生物でも脳を破壊されたら生命の灯火は消える。
ジャイアントトードも例外なく死亡して、その身体はティアのほうへ倒れた。
「「あっ」」
"べちゃ"前世日本で「カエルを踏み潰したような」だったっけ?
そんな表現があったような気がしたけど、この場合どっちがカエルなんだろう。
ジャイアントトードの死体の下で必死に手をばたつかせているティアをその身体から引きずり出す。
「もう少しで主の元に旅立つところでした」
震えているティア。
これは完全に私が悪い。
「ごめんね」
謝って手を差し伸べて、感極まったのか私に抱き着いてこようとするティアを避ける。
「ルナさん、これは少し酷いと思います」
「ごめん。そのぬめぬめ無理」
「・・・・・」
立ち上がるティア。
その瞳にはハイライトがない。
「ルナさん...」
「待って。じりじり近づいてこないで。なんか怖い...っ」
「私達パーティですよね? パーティは一蓮托生って言うじゃないですか」
「そうなの? でもさぁ...」
「えーーーーーいっ」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
結局私もぬめぬめになった。
◇
「主よ。そのお力を私に。ホーリライト」
「・・・・・」
ぬめぬめが二人。
もう何も怖いものが無くなった私達はジャイアントトードを倒しまくっていた。
私がサポートしてトドメはティア。
本当は逆のほうがいいんだろうけど、戦闘に慣れてもらう為にわざとそうしている。
また一匹、地響きを立てながらジャイアントードが地面に沈む。
魔力の消費が激しいらしく、肩で息をするティアに土魔法で作り出したメイスを手渡す私。
「ルナさん、これは?」
「今度は物理攻撃してみよっか?」
「...あの。根に持ってますか?」
「なんのこと? ほら、カエル来たよ」
「えっ!!!」
ジャイアントトードの舌攻撃。
顔を舐められて青ざめるティア。
もう何度も同じことされてるのに慣れないらしい。
二度、三度。顔を舐められてティアは呻く。
四度目。ついに彼女はキレた。
「気持ち悪いです!!!」
ジャイアントトードの舌にメイス攻撃。
これには堪らず舌をすぐさま引っ込ませ、ジャイアントトードはティアに背を向けて逃走を図る。
「逃がしません」
背中にメイスを滅多打ち。
撲殺神官誕生。
やけくそになったっぽいティアはその後何匹かメイスでジャイアントードを倒した。
◆
ホレイリーの町のギルドは騒然としていた。
見ね麗しい美少女二人が入ってきたのは良いが二人共ぬめぬめ。
顔を引きつらせる冒険者達に対して黒い笑みを見せる少女達。
「「何か?」」
「いっ、いや...なんでも」
「「そうですか。ふふふっ」」
ギルド内にボタボタとぬめぬめした体液を零し落としながら少女達は目的の場に進む。
受付カウンター。哀れ。一人の受付嬢が犠牲になった。
◇
「すみません。ステータスを知りたいんですけど」
私は全力でこちらの相手を拒否しようとする受付嬢に笑いかけてそう申し出た。
カウンター内では誰が私達の相手をするかで揉めている。
この場合、当然犠牲になるのはギルドに入って日が浅い新人。
少ししてから栗色の瞳と髪、銀縁の分厚い眼鏡をかけた何処かで見たことがあるような人が先輩職員らしき人達に押されるようにして私達の待つカウンターの席に座らされた。
「ジーネさん?」
私の問いかけに新人さんらしき人は驚いた顔をする。
「姉をご存じなんですか?」
姉妹らしい。縁って何処にあるか分からないね。世界は広いようで狭い。
「私達普段はリリンの町で活動していて。ジーネさんにはよくお世話になってます」
「そうなんですか。あ! 私、妹のミーネです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。それでステータスを知りたいんですが」
「はい」
ミーネさんから水晶球が差し出される。
やっぱり何処のギルドにもあるらしい。
ティアに測定するように促して私は彼女から一歩下がる。
おずおずと水晶球に手を伸ばすティア。
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名前:ティア・アリエス
種族:人間
職業:プリースト
レベル:14
体力:60
物理攻撃力:58
魔法攻撃力:90
物理防御力:26
魔法防御力:140
魔力:340
素早さ:40
知力:140(MAX)
幸運:67(MAX)
バッシブスキル:女神ミネルヴァーナの祝福と加護
スキル:光魔法レベル11、打撃系武器操作レベル7
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「やりました。今日だけでレベルが11も上がりました」
「ぬめぬめに耐えた甲斐があったね」
「それを言わないでください...」
続いて私の番。
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名前:ルナ・アマオカ
種族:人間
職業:アークウィザード
レベル:20
体力:90
物理攻撃力:125
魔法攻撃力:300
物理防御力:50
魔法防御力:200
魔力:2000
素早さ:70
知力:120(MAX)
幸運:80(MAX)
バッシブスキル:女神ディアーナの祝福と加護、不老不死
スキル:全属性魔法レベル100(MAX)、打撃系武器操作レベル18、薬草学レベル3
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「うん、私も今日だけでレベルが10上がった」
「ルナさん、魔力凄いですね!」
「アークウィザードだからかな」
盛り上がる私達を余所に茫然とした表情のミーネさん。
私がそれに気付いて彼女の目線を追うとぬめぬめになった水晶球にその視線は注がれている。
うわっ。悪いことしちゃったなぁ。
でもここは...。
私達は逃げ出した。