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女の子、拾いました。

初めに謝っておきます。

お食事中の方、ほんっとに申し訳ございません。

あわわわわわっ。怒らないで(。>﹏<。)

 異世界生活三日目。

 朝から強烈な腹痛で目を覚ました。

 どうやら昨日食べた何かがあたったらしい。

"ぐるるっ"という結構切羽詰まったお腹の音を聞きながら慌ててトイレに駆けていく。

 なんとか間に合って"ホッ"と胸を撫で下ろしたのも束の間。

 すぐに襲い掛かって来る第二陣。

"ぐるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ"


「うっぐっ。なんで...。昨日あたるようなもの食べたっけ....」


 お腹を押さえながら便器に座り、痛みに耐えつつ昨日食べたものを思い出す。

 朝食はミルクにパンにリンゴ。どれも新鮮だった。これにはあたる要素はない。

 昼食はベヒモスの串焼き。もしこれが原因なら今頃これを売っていた屋台は営業停止になっているだろう。

 夕食は自分で作ったパンとガルーダの卵で作った卵焼き、それと一昨日町の外で取ってきた野草とキノコのスープ。


「あ...。原因絶対それだ。毒キノコか雑草が混じってたんだろうなぁ...」

 

 私って女性の魔法使い。つまり魔女?

 何かの本だったかゲームだったかで魔女は薬草を見分ける能力があるって見たことあった気がしたから大丈夫だって思ってた。

 甘かった。ハチミツより数倍甘かった。

 そんな特殊能力私には無かったみたい。

 っていうより魔法使いと魔女ってやっぱり別物なのかなぁ。似て非なる者。

 魔法に秀でていても薬草学に関しては全然素人。

 そんな素人が野草なんかに手を出したら...。


"ぐるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ"


「あぐっ....」


 私はそれから数時間トイレから出ることが出来なかった。


 昼近くになって漸く腹痛は収まった。

 手痛い失敗をしたことで逆に薬草のことを知りたいと思うようになって「猿でも分かる薬草入門」という名前の本を雑貨屋で購入。

 どこぞの聡明な魔女がこの本を出版しているらしい。

 ギルドでは羊皮紙が使われていたけど、この本は植物紙。

 説明書きの横に絵が添えられていて確かにかなり分かりやすい。

 

 それを片手にギルドに行って薬草集めの依頼を受ける。

 クエストが無事受注され、町の外へ行って本を読みながら間違えないよう気を付け、慎重に依頼通りの草をぶちぶち抜いては十草ずつ糸で縛り、束にしてポーチの中に入れていく。

 とっくに依頼の数は達成している。

 でも私にはそれ以外にも目的があった。

 薬草学を身に着けるっていう目的が。

 あったら便利だと思うんだよね。

 食材としても、薬としても役に立つし。

 これから先私は旅もしてみたいって思ってる。

 その時絶対に必要になる筈!!


 もくもくと時間を忘れて薬草を集める。

 太陽が真上に上がり、それからやや西に傾き始めた頃聴こえて来た悲鳴。


「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! やめてぇぇぇぇ」


 声質からして女の子の悲鳴。

 この辺りでそんなに強い魔物は出ない筈だけど。

 と考えてふと気付く。


「巨大スライムかな」


 だとしたら服を溶かされて大変なことになっちゃったりしてるかも。

 野外で全裸は恥ずかしすぎるだろう。

 早急に助けるべく私は自身に身体強化の魔法をかけてそちらに走る。

 通常の何倍もの速さで現場に辿り着くと複数の巨大スライムに囲まれて絶体絶命のピンチ。

 というよりもすでに遅かったらしい。裸にされて泣いている女の子がいた。


「こんのっ、女の敵がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 私は自分で言うのもなんだけど、大人しめな性格だと思う。

 だからあんまり怒ったりしない。

 けどこの時は本気で頭にきて巨大スライムに怒りをぶちまけた。


「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 一匹目の巨大スライムは土魔法で鬼の金棒に似た形状のものを作り出してそれでぶっ叩いて核を強引に身体の外へ押し出して、それにより身体が維持出来なくなったスライムは"べちゃ"っと音を立てて地面に零れる。これで戦闘終了。

 二匹目のスライムは炎の魔法で丸焼き。

 三匹目の巨大スライムは金棒をぶん投げて核に当ててそれを外へ。一匹目と同じ末路を辿る。

 四匹目の巨大スライムは拳を無理矢理体内に入れて核を奪い取って絶命させた。


 全部の巨大スライムの掃除が終わった後、両手で身体を隠して蹲っている女の子のところへ行く。


「遅くなってごめんね。怪我はない?」

「はい。大丈夫です。......っ」

「?」


 私を見た女の子の頬が紅い。

 一瞬、なんだ? と思ったけど、多分この顔のせいかな。

 それにしてもどうしよう。着るものなんて持ってない。


「え~っと...。裸のままだとまずいよね」

「..............ハイ」


 仕方ない。女の子には申し訳ないけど、背に腹は代えられないってことで許して欲しい。

 女の子を立たせ、手を引いて近くの森の中へ連れていく。

 大きな葉っぱを毟り取り、二枚合わせて女の子に着せた。


「原人になった気分です...」

「町まで我慢して。服買ってあげるから...」


 町まで女の子を連れて歩いていく。

 途中何人かの冒険者とすれ違ってそのたびに"ギョッ"とした目で見られたけど全部無視した。

 ついでに私の数歩後ろを歩く女の子からも「うぅ...」って小さな泣き声が聴こえてきたけどそれも無視した。


 それから約束通り町中で服を買ってやり、ついでにベヒモスの串焼きも買ってあげて手渡すとその子は漸く一心地ついたようだった。

 町の憩いの広場のベンチに座り、どうしてあんなことになったのか事情を聴くとポツリポツリとその訳を話し出す。

 

「私、これでも冒険者なんです」


 女の子は隣国の出身者らしい。

 その国の首都の教会で育ち、今年で十五になって正式に神官(プリースト)になった女の子は外出も認められるようになって意気揚々と冒険者ギルドに登録。

 自分の力がどれくらいなのか試そうとスライムを倒しながら歩いていたら仲間を呼ばれて巨大スライムになられ、その結果あんなことになってしまったらしい。


「それは...お気の毒だね」


 女の子から目を逸らしながら私は呟く。

 野外、町中での痴態。いろんな意味で忘れられない初冒険になったことだろう。

 自分じゃなくて良かった。私がそうなってたら当分立ち直れない自信がある。


「うぅぅ....」


 女の子が耳まで真っ赤にして呻く。

 見ていると本気で気の毒になり、頭を撫でて上げていると顔を少しあげた女の子と目と目があう。

 

「っ」


 可愛い。潤んだ翡翠色の瞳、痴態に震える瑞々しいピンクの唇。

 頭に乗せていた手が無意識に動いてその子の長い亜麻色の髪をひと房掴む。

 絹のような滑らかな手触り。指と指の間をさらさらと零れ落ちていく。


「名前聞いてもいい?」

「私、ティアです。ティア・アリエスって言います。あの、魔法使いさんですよね? 私もお名前お聞きしてもいいですか?」

「私はルナ。ルナ・アマオカ」

「ルナさん」


 ティアが視線を逸らす。

 蚊の鳴くようなか細い声で私に尋ねて来る。


「あの。ルナさんはもうパーティは決まっていらっしゃいますか?」


 パーティ。私はまだ誰とも組んでない。そのお誘いかな。

 ティアとなら組んでもいいかも。

 

「ううん、まだだけど」

「良かったら私と...」

「うん、お願いします」


 ティアが私の言葉を受けてこちらに向き直る。

 その顔はさっきよりもより紅い。


「じゃあ善は急げということで」

「はい!」


 私達はギルドに行き、ジーネさん立会いの下でパーティ結成の申請をする。

 と、ここでも水晶球が使用された。

 私とティアと二人、手を重ねて水晶球に手を翳す。

 浮かび上がるお馴染みの黒いモヤ。<<結>>の文字が現れてそれでパーティ結成は終わる。

 ジーネさんの説明によるとこれで半径1km以内であればお互いの魔力の探知が可能になるらしい。

 この水晶球、ハイテクすぎじゃないかなぁ。

 現代日本よりも遥かに高度な技術が使われてる気がする。


「「「いいなぁ」」」


 水晶球に気を取られている間にギルドのあちこちから恨めしそうな声。

 パーティは六名までであれば誰とでも組めるそうで、このままここにいたら希望者が名乗り出て来てややこしいことになりそうな気がして。


「ティア」


 私は今のところティア以外と組むつもりはない。

 どうしてティアとは組むのもいいなぁなんてことになったのかはよく分からないけど。

 

「ルナさん? きゃっ!!」


 私はティアの手を引いてギルドから素早く退散。そのまま家に連れ帰った。

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