デートするよ。その2.
ティアとデートの約束をしてから一時間後。
私は待ち合わせ時間よりもわざと少しだけ早く来てティアを待っている。
ナナ公人気っぽい。それとも分かりやすいからかな? 私と同じように誰かと待ち合わせしているらしい人々が目立つ。皆もデートなのかな? お洒落だ。私は自分の格好を見下ろす。
上は白のパーカー、下はいつもミニスカートだから今日は黒のロングパンツ。それと肩から黒のシュルダーバックを下げている。
どうだろう? 悪くはないと思うんだけど。他の服のほうが良かったかな?
いろいろ思いながら身体を捻って自分自身を見る。
そんなことをしていると周りから感じる視線。
「ルナさんだ」
「いつもの服と違う」
「いつ見ても美少女。お持ち帰りしたい」
「ジーネさん来ないかな」
はい、最後の人。不吉なこと言わないように。
今日あの人に捕まったら私は泣くよ?
ううん、泣くだけじゃ済まないよ?
流石に暴れる。
何人もティアとのデートを邪魔する権利はありません。
そんな人いたら<<黒炎の魔導士>>の由縁をその人は嫌と言う程味わうことになるかも。
だからお願いします。私から楽しみを奪わないでください。
今日はそっとしておいて~~~。
「あの」
「はい」
「ルナさんですよね? アイドル魔導士の」
「いえ、違います」
「絶対違いません。私、ファンなんです」
「あ、あの。今日はプライベートなので」
「サインください」
「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」
そんなことを思っていた矢先に人に囲まれる。
揉みくちゃにされてサインやら握手やらを強請られる。
今、どさくさに紛れて胸とかお尻とか触った人いましたね。
先生、怒らないから出て来なさい。
...嘘かも。やっぱり怒るかな。
だってねぇ? 女性同士でもセクハラはやったらダメだよ!!
それより助け――――。
「ルナさん」
手を引かれて人混みの中から無事救出される。
一緒に走り、喧騒が少なくなったところで私は私を助けてくれたティアにお礼を言う。
「ありがとう、ティア」
「いえ、その...ルナさんとのデートを邪魔されたくなかったので」
可愛い。言葉も可愛いけど格好も可愛い。
上は白のブラウスとふんわりとしたカーディガンを羽織っていて下はグレーを基調として白多めで赤少な目な縦横チェックな膝上10cm程のミニスカート。亜麻色の髪はアンダーで二つに結ばれている。
野外に晒されている脚に釘付けになる。
ティアがそんな肌を晒すような衣装を選ぶなんて思わなかった。
学園の制服でもスカートは長めにしていたのに一体どういう...。
「おかしくありませんか?」
「全然ただただ可愛い」
「本当ですか? 良かったです」
「うん、でもミニスカート選ぶなんて意外だったかも。大丈夫? 無理してない?」
「はい、平気です。ルナさんに褒めてもらいたかったので」
可愛いなぁ。もう。しかし困ったことに脚から目が離せない。
白くて細くて。綺麗すぎていつまでも見てられる。
一日中見てていいって言われたら私見てるかも。
...ティアに引かれるな。いい加減に顔を上げないと。
よし! 気合と共に顔を上げる。
ティアと合わさる視線と視線。
頬を紅く染めて恥ずかし気な顔。
ごめんなさい。その顔反則です。可愛すぎるのも程々にしてください。デートの前に私のライフは「0」になって死んでしまいます。
「・・・・・」
「・・・・・」
何とも言えない空気が私達の間に流れる。甘い...。
私がその空気に動けず固まっていたらティアが私に手を差し出す。
「ルナさん、手を繋いでもらってもいいですか?」
「うん、勿論」
「ありがとうございます」
手と手をしっかり握り合って歩き出す。
デート開始。始めに行ったのはアルバトロステイル。そこで朝食を済ませたら私達は最近リリンの町に出来た水族館に向かう。
「私、水族館って初めてです。いろいろな魚がいるんですよね?」
「うん。そう言えば私も初めてかも」
何せ前世は生粋の病人だったからね。
本とかなんとかで見たことはあっても実際に行くのは初めてだよ。
水族館の入り口に辿り着く。
そこにいたのはいつぞやのウンディーネ。
「何故貴女がここに」
「海に関することだからです」
「でもここは陸ですよね?」
「中は小さな海みたいなものです。つまりウンディーネの聖域です」
「あ、そうですか」
なんだか急に面倒臭くなったので気にすることをやめてさっさとチケットを彼女から買う。
ティアと館内に入ると早速出迎えてくれたのは色とりどりの美しい熱帯魚達。
「綺麗です」
「うん」
魚に見惚れるその顔が可愛い。
ティアと距離を詰めて肩を寄せる。
ティアもそれに気付いて私と同じように寄って来て肩と肩が触れ合う。
「ルナさん」
「ん?」
小声。魚から目を離して私を見て微笑むティア。何を言うのかと思っていたら。
だ・い・す・き・で・す。
口パクでそれ。頬が熱くなる。私の妻はずるい。人前でキスしたくなってしまう。我慢。
私はティアにわ・た・し・も。同じように口パクで伝える。
お互い微笑み合って、その後魚に視線を戻し、満足したら移動する。
行き際に「尊い」って聞こえてきたけど何の事だろう?
気になったけど気にしないことにして進むと次は食卓でもお馴染みの魚達。
ここでは「美味しそう」という声が聞こえてきた。私もそう思った。醤油つけて食べたい。
それからもいろいろな魚やらクラゲやらを見ることが出来た。
順路の案内に従い楽しんでは進んで行くと「楽しい魔物達」とかいうコーナーに辿り着く。
今までの水槽よりもひと際大きな水槽。
中にいるのはクラーケン。
「.....こんなの水族館の見世物にしたらダメだと思う」
「そうですね。大きいですね」
「ティア、現実逃避しないで。戻って来て」
「私は正常ですよ」
「ティア...」
ちょっとティアが危ない感じがしたので彼女を連れて行こうとすると「これからクラーケンに餌やりを始めます」との館内放送が流れる。
それに釣られてしまって結局その場に残ったまま水槽を見ていると泳いでくる、これもまたいつぞやのセイレーン達。
「はい、それでは餌やりはっじまるよー」
その声で振り返ると勇者クララ。
あれ? ここってリリンの町だよね?
なんで魔族関係者が沢山いるの?
って突っ込むのはやめよう。デート中だし、面倒臭いし。いるからいるでいいや。今は。
「クラーケンの好物は大きな魚です。では餌やりの様子を見てみましょう」
勇者クララのアナウンスでセイレーン達が水槽の向こうから私達に手を振る。
そしてクラーケンに何やら不気味な深海魚っぽい魚を差し出すけどクラーケンは何故かそれに見向きもしない。
「...無視されてるみたいですけど?」
水槽を指差しながら勇者クララに伝えてみる。
焦っている勇者クララ。
その様子を見るに普段は食べてるっぽいかな?
今日は何か虫の居所が悪い? 私がそう考えているとティアが「あっ」って声を出す。
すぐに視線を水槽に向けるとクラーケンに墨を吐かれているセイレーン達。
あっという間に水槽は真っ黒になる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
私達を含めた客は全員黙ってクラーケンの水槽を後にした。
水族館を出て以降はウィンドショッピングを楽しんだり、この時期に咲く花々を愛でて花冠を作って交換したり、神社にお参りしたり、少し遠出して遊覧船に乗るなどして私達はデートを心から楽しんだ。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎる。
海の傍。沈んでいく陽。遊覧船に乗った港近くの浜辺でその様子を二人で見ている私達。
何処かもの悲しい。人恋しくなってティアを見る。
重なる視線。どちらからともなく抱き着いてキス。
長く、長く。離れて見るとティアが泣きそうな顔をしてる―――?
「ティア?」
「ルナさん、ルナさんはいなくなったりしませんよね?」
「え? 勿論」
「傍にいるって約束してくだちゃい」
あ! 今噛んだ。
泣き顔っぽかったのが恥ずかしそうな顔に変わる。
「約束してください」
言い直すけど最初のが印象が強すぎて私はついつい笑ってしまう。
「ふふふふっ、可愛い」
「も、もう。ルナさんの意地悪! ルナさんなんて知りません」
「ごめんごめん。あまりにも可愛くて」
「・・・・・」
「ティア」
私は臍を曲げてそっぽを向くティアの顎を親指と人差し指と中指とで挟んでこちらに向かせる。
額と頬と唇とにキスを落として。
愛しいティア―――。
「私はずっと傍にいるよ」
「約束ですよ」
「うん」
私はおもむろに胸元から大切な物を取り出す。
それはあの日のタンザナイトのネックレス。
ティアもそれを見て胸元から同じように。
私はティアに伝える。
「石言葉って知ってる?」
「石言葉ですか?」
「うん。タンザナイトの石言葉は―――」
ティアの手を私の胸に。
私の手をティアの胸に。
伝わるお互いの生命の鼓動。
「ティア、愛してる」
「ルナさん、愛してます」
心を愛で満たす。




