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ミーハーな皇女様は二人目のお姉ちゃんです?

 セディーネ公国首都セレン。

 別名・神の町とも言われていてその名の通り多くの神官を育成・世に送り出している。

 そんな神聖なる町の北に聳え立つ白壁の宮殿。

 権威を示すその場所に住んでいるのがこの国の統治者であるエレミーヌ皇女殿下。

 彼女は最年少で神官の最高位であるアークプリーストまで上り詰め、又帝王学も同時期に習い修めたことから誰もが認めるこの国に相応しい最高指導者と民衆から謳われている。

 美しく凛とした蒼の双眸、目鼻立ちの整ったきりっとした美しい顔立ち、光に煌く金色の髪、アークプリーストのみが着用を許された白金にも似た全身白の法衣を身に着け威風堂々と歩くさまは、それはそれは絵になり誰もがその姿に見惚れずにはいられない。

 それ程の美貌を持っていて聡明な人物。

 そんな彼女が今、私達一人一人の手を順番に握っては幸せそうに顔を綻ばせている。


「ああ、本物の百合の町の希望者(アルストロメリア)様方にお会い出来るなんて夢のようです」


 随分俗世に染まっているというかミーハー。

 なんか思ってた人と違う。

 神官の最高位な人なくらいだからもっとお堅い感じなのかと思ってた。


「わたくしこの間のコンテストもお忍びで見に行ったんですよ。皆さん、とてもとても可愛らしくて素敵でした。もうすっかりファンになってしまって、見てください。プロマイドにポスター。他にもグッズをつい沢山買ってしまいましたわ」


 今何処から出したんだろう。

 私達のグッズの数々。

 ううん。そんなことよりもグッズ化されてるなんて知らなかった。

 皆は知ってたのかな? ちらっと見てみると全員反応違わず首を横に振って苦笑いする。

 町長さん、これはリリンの町に帰郷したら肖像権の問題とか話し合わないといけないなぁ。

 もう売っちゃってるから回収は無理だろうから売り上げの一部をこちらに渡してもらおう。

 正当な権利だよね! うん。


「アイドル魔導士ルナさん。次のコンテストはいつ開催予定なのですか?」

「えっと...はい。あの...アイドル魔導士ってやめてもらっていいですか?」

「ええ。何故ですか! お可愛らしいルナさんにピッタリですのに」


 恥ずかしいというかなんというか。

 これならまだ<<黒炎の魔導士>>の方が数倍マシだった。

<<アイドル魔導士>>ってどう言ったらいいんだろう?

 私、一応魔法使いの最高位職に就いてる存在なのに何かこう...陳腐な存在に成り下がってる気がするんだよね。この称号で呼ばれると。


「あの。ところで今日はどういったご用件で私達は呼ばれたのでしょうか?」


 いつまでも本題に移らない私に業を煮やしたのかティアがエレミーヌ様にそう聞いた。

 そうだった。今日私達がここに来たのはアリマ様からエレミーヌ様が私達に会ってみたいとおっしゃっているのでという(てい)で招待状をいただいたから。

 一国の(あるじ)が本当にただ会ってみたいっていうだけで招待状を送ってくるようなことはないだろう。

 多分その(てい)に隠された真相があるんじゃないかな。

 私達本業は冒険者だし、何か討伐の依頼とか。


 私がそうであって欲しいと期待する中、エレミーヌ様はきょとんとした顔で真っ向からそれを否定した。


「用などありませんよ? ただお会いしてみたかっただけです。ですがそうですね。しいて言えば..」

「言えば。なんでしょうか?」

「皆さまはあの魔王ナナカと知り合いというのは本当ですか?」


 エレミーヌ様がそう言った瞬間、部屋の雰囲気が突然変わった。

 これまでは柔らかだったのが今はとてつもなく重苦しい空気。

 エレミーヌ様とナナカお姉ちゃんの間に何かあった?

 それを知っているであろう人物は今ここにはいない。

 アリマ様がいれば良かったけど、あの方は仕事で同席されなかった。

 私達がここに到着するまではいらっしゃった。

 けれど私達の顔を見られた途端に苦笑いしながらエレミーヌ様に一言言った後退室なされた。

 もしかして上手くお逃げになられた?


「エ、エレミーヌ様はナナカさんと何かあったんですか?」


 ステラのぎくしゃくした声での質問。

 相変わらず権力者っていう存在に弱いな。ステラ。


「何かあったのかも何もありません。魔王ナナカは。あの女は生かしておいてはいけない存在なのです」


 エレミーヌ様の背中から漆黒のオーラが漂っている。

 あの聖女様からこれだけのドス黒いオーラ。

 ナナカお姉ちゃん。一体何したの――――。


「もし皆さんがあの女の知り合いだというのなら、場合によっては教育的指導を施さないといけなくなるかもしれません。そうではないことを願っていますよ。それでどうなのですか?」


 .......................。

 怖い。顔は笑ってるけど目は全然笑っていない。

 ここは誤魔化すべきだろう。

 しかし私の口からは思っていることとは正反対の言葉が勝手に出てきた。


「魔王ナナカ様は私の姉です」


 ――――――――――――えぇっぇぇぇぇぇ!!?

 これは魅了(チャーム)のせい?

 そうだよね。嘘でしょ。こんな効果があるなんて!!!


「魔王ナナカが姉? アイドル魔導士ルナさん。それはどういうことですか?」


 ああ。これはもうダメだ。言っちゃった以上は素直に全部吐くしかない。


「~~~というわけなんです」


 私が話すとエレミーヌ様は黒いオーラを内に収めた。


「なるほど。そういうことですか。ルナさんもあの女の魔の手に堕ちてしまったのですね。わたくしが育てた神官も何人あの女の手に堕ちてしまったことか。そのせいで一部の信徒からは「魔王に堕ちるなんて神の町の名前を返上するべきではないですか?」などと言われてわたくしはわたくしは...」


 エレミーヌ様はがっかりと膝を落とす。

 うん。これはナナカお姉ちゃんが全面的に悪いね。

 誰でも彼でも魅了するからこんなことになる。

 やっぱり節度って大事だよ。


 私は仲間達を見る。

 皆、神妙な顔。

 ティアに至ってはエレミーヌ様のところへ行って「分かります」なんて手を握り締めている。

 ティアにとってもナナカお姉ちゃんって天敵だもんなぁ。私を巡るライバル。

 その様子をじっと見ていたらルティナがこちらを見ていることに私は気付く。


「ルティナ? どうしたの?」

「ルナお母様、浮気は良くないと思います」

「してないよ? 私、浮気なんてしてないよ?」

「ティアお母様に謝るべきだと思います」

「私何もしてな...」

「ルナお母様!」

「はい!!」


 うう、私は何もしてないのに。

 娘が怖い。それにティアも含みがある顔でこっちを睨んでる。

 横暴だー。理不尽だー。それもこれも全部ナナカお姉ちゃんのせい...。


「ルナさん」

「ルナお母様」

「ルナ姉さん」

「ルナ」

「ルナ殿」


 全員ですか!! 私の味方は誰もいないんですね..。

 私はティアの傍に行って悲しさにうち震えながら土下座した。


「本当に申し訳ありません」


 それからは釈然としないものを感じながらもティアを必死に宥めすかした。

 最初のうちは何を言っても拗ねてこっちを見てくれなかったけど、背後から抱き締めて耳元で何度も「好きだよ」って呟いているうちにやっと機嫌を直してくれた。

 やれやれ。良かったよ。

 

 と安心したのも束の間。

 それまで黙ってただ様子を見守っていたエレミーヌ様が突然「決めました。わたくしもルナさんの姉になります」と高々にそう宣言した。


「「「「「「はぃぃぃ?」」」」」」


 全員の驚いた声。特に私。だっていきなりそんなこと言われても、ね。


「魔王ナナカを姉にするくらいならわたくしもその地位についてもいいですよね? それともルナさんは魔王ナナカの信者なのですか? だとしたら教育的指導を」

「そんなことはないですけど」

「でしたらわたくしも姉にしていただけますよね?」

「あの...。えっと...」


 助けを求めて皆を見る。

 しかし誰も私と顔を合わせてくれない。

 薄情だーーー。私に全部押し付ける気...。


「ルナさん!!」

「うっ...。わ、分かりました。エレミーヌ様」

「様?」

「エレミーヌお姉ちゃん!!」

「はい。よろしくね、ルナ」

「う、うん。よろしくね。お姉ちゃん」


 結局流されてしまった。

 仲間達の冷たい視線が痛い。

 だってだって断るのなんて無理でしょう?

 仕方ないじゃん。


「後、マネージャーもやりたいですね」

「・・・・・」


 この日私に二人目の姉、百合の町の希望者(アルストロメリア)にマネージャーが付きました。

 これにより私達は冒険者とアイドルの二足の草鞋を履くことになった。

 ううう~ん、何故こうなった?


「まったく...」


 どうやら私はそういう波乱万丈な人生となる星の下に転生して来たみたい。

 私は私をこの世界に転生させたあの女神様を思い、微かに笑った後、嘆息した。

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