百合の町のDon踊り! そして私に新しい称号が付きました。
ステラと家の庭で草むしりに勤しんでいたときのこと。
家の呼び出し音が鳴り、対応したプラムにお客様が来たことを告げられて行ってみるとこのリリムの町の町長だった。
「ルナさん、突然の訪問申し訳ありません」
「いえいえ。それでどういったご用件ですか?」
私が客室に入ると先に通されていた町長さんが頭を下げようとしたのでその必要はないと目で語る。
頭を下げるべきはこっちだと思う。
身分的に私達は町長さんにお世話になっている側なのだから。
「実は近々リリンの町でイベントを企画していまして。その企画に百合の町の希望者達の皆さま方もなんらかの形で参戦していただけないかとご相談に参りました」
イベント...?
町長さんから差し出された企画書を手にパラパラと捲ってみる。
ご先祖様を歌って踊って皆で騒ぎ。明るくお迎えしよう! Don踊り。
町の広場の中央に櫓が建てられ、そこでは太鼓が叩かれて、その下では町の人々が円になって踊る。
立ち並ぶ屋台。花火の打ち上げ予定。見るからに楽しそうだ。
ただこれ私知ってる。何処かで似たようなイベントを見たような気がする。
はて...? 何処だっただろう?
記憶を追想させてみて思い当たる。
「これ盆踊りだ!!」
「盆踊りとはなんですか?」
「あ、いえ。なんでもないです。すみません」
盆踊りか。そう言えばこっちに来てからこういうイベントってなかった気がする。
アリマ様は少しずつ日本の行事をこっちにも取り入れているからいつかは大々的に行われるようになったりするのかな。
いずれにしても盆踊りならぬDon踊りはここリリンの町が一番乗りだ。
成功させたい。後、個人的にこういうイベント大好き。是非参加したい。
そうと決まれば。
「仲間達にも相談したいので少しだけ待っていただいても良いでしょうか? きっと良いお返事をすることが出来ると思います」
「はい。お待ちしてます」
町長さんは私の言葉に嬉しそうに笑うとまだ他のところにも行かないといけないらしく腰を浮かせて立ち上がった。
忙しい町長さんを見送った後、私は早速仲間達に相談を持ち掛けてその日のうちに参加表明した。
◇
Don踊り二日前。
届いた衣装などに不備がないか慌ただしくチェック。
今回私達がやるのはパン屋さん。
この世界のパンはあんまり美味しいものではないから日本で食べてきたようなパンであれば受けるだろうってことで私が皆に提案して即決された。
実際私が作るパンはパーティの皆に評判いいしね。
だからきっとリリンの町の人々にも受け入れてもらえる筈。そう思う。
「ルナさん、この衣装可愛いです」
「変わった衣装。プラムは初めて見る」
「ルナお母様似合いますか?」
「ルナ、どう?」
ティアやプラム達が私が用意した衣装を着てはしゃいでいる。
うんうん。良く似合ってる。皆可愛い。
「ルナ殿。自分はこれを着て宣伝をすればいいのだろうか?」
「うん。お願いね。クレタ」
「任せて欲しい」
クレタも似合ってる。
全部注文通りだ。
さすがリリンの町の服飾屋さん。
最初はハロウィンの如く皆に仮装をしてもらってパン屋の店員をやってもらおうってそう思った。
けれどすぐやめた。
だってアンデットとかエルフとかドワーフとかドラゴンとか普通にいるこの世界でそれらの仮装をして何の意味があるというのか。間違いなく仮装だって気付かれない。それってかなり虚しい。
なので観点を変えてクレタを除く私達は浴衣。クレタには鹿の着ぐるみを用意した。
なんで鹿にしたのか。なんか日本って思ってると何故か鹿のイメージが頭の中に湧いたから。
和風なパン屋さん。学際のノリ。学際やったことないけど。
「よし! 皆当日は頑張ろう」
「「「「「お~!」」」」」
絶対楽しいものになる。思い出になる。
私達は全員心躍らせながら当日を心待ちにした。
そして当日...。
◇
「メロンパン十個お願いします」
「こっちはジャムパン二つください」
「すいません。このワイルドボアのカツサンドください」
パン屋さんを一日だけ貸し切り、朝早くから皆で用意したパンが飛ぶように売れていく。
店の前に大行列。まさかここまで大盛況になるとは思ってなかった。
嬉しい誤算だけど忙しい。休む暇が少しもない。
「ルナさん、メロンパンの在庫ってまだありましたっけ?」
「もう少しだけ残ってると思う。裏から出してきて」
「分かりました」
「ルナお母様、クロワッサン五つ袋詰めお願いします」
「分かった。ルティナ大丈夫?」
「大丈夫です」
「無理しないようにね」
「はい」
「ルナ姉さん、写真を撮っていいか聞いている客がいる」
「混雑してるから断っておいて。申し訳ないけど」
「分かった」
「ルナごめん。ちょっと通して」
「あ、ごめん」
目が回る忙しさ。
誰もかれも必死。
はっきり言って目の前のパンに集中してないとすぐ注文が入って来るから間に合わなくなる。
店の内外に気を配る余裕はない。けれどちらりと横目で見てみるとお客さんの多くはパンだけじゃなく私達の格好にも目を向けている。
「可愛い」とか「あれ何処で売ってるのかな」とか女性だけの町だしね。
お洒落にはやっぱり敏感。
外ではクレタが子供達に懐かれている。
腕を引っ張られたり、身体の上に乗られたり大変そう。
あたふたしてるクレタには申し訳ないと思うけど、彼女にこの役割り当てて正解だったなと思う。
他の誰かだったら倒されて、着ぐるみの首取られて「正体見たりー」みたいな大騒ぎになっていただろう。
足腰の強いクレタだから子供達の突進にも耐えられる。
大変な役押し付けてごめんね。クレタ。頑張って。
私は心の中でクレタにエールを送ってお客さんの注文通りパンを袋詰めする作業に戻った。
それから僅か一時間と少し。
余分に用意しておいたパンを含めてすべて完売。
私達のパン屋は大盛況のうちに閉店となった。
◇
"どーんどどーーーん"
闇の空に咲く炎と光の花。
私達は屋台群の中を全員で歩きつつその綺麗な光景を眺めている。
仕事を無事終えたクレタも今は浴衣姿。
ステラが横に寄り添って仲睦まじく笑い合って幸せな婦々そのもの。
でも私達だって負けてない。
ティア、ルティナ、プラム。
私は彼女達を両手を広げて抱き締めようとして...。
「ルナお母様、私も踊りに参加したいです」
「プラムもそれに同意する」
ルティナとプラムにスルーされる。
彼女達は駆けて行って踊りの輪に加わる。
後に残された私とティア。
「・・・・・」
「ルナさん、私達も行きますか?」
「...そうだね」
手を繋いで私達もルティナ達の後を追った。
◇
後日談。
またうちに町長さん。
「実はあの時のパン屋さんが好評で」
「それは良かったです。私が作ったパンが人気で私も嬉しいです」
「いえ、それもなんですが皆さまがとても可愛らしいと評判で」
「はい?」
「で、ですね。また新しい企画を用意したので是非皆さまにまたご協力願えないかと」
町長さんが差し出した企画書を見ると私達が様々な衣装を着ては色直しするっていうコンテストみたいなイベントだった。
「もうすっかり街の服飾屋もやる気になってるんですよねぇ。後は皆さまの了解だけなんですが」
ちらちら上目使いでこちらを見る町長さん。
外堀から埋めてるってずるく無い?
逃げ場ないよね。これ。
「....分かりました。やります」
「おお。ありがとうございます」
暫くの後に開催されたコンテスト。
評判が評判を生んでまたやって欲しいと私達百合の町の希望者達と町長さんの元に多くの嘆願書が届けられ、町長さんは三度私達に頭を下げに来た。
ちなみにこの時私は頭を抱えていた。
<<黒炎の魔導士>>に次いで新しい称号が私に付いたことをその日の朝ジーネさんに聞かされていたから。
<<アイドル魔導士ルナ>>
何処かの魔法少女アニメの主人公みたいじゃない――――。




