あいつだけは絶対無理です。最強の魔法使いでもあいつには敵いません。
その日私達はいつかに私を助けてくれたコーネリアさんから直々の依頼を受け、アリマ公爵領辺境ローズ村から東に5km程離れた場所にある洞窟の前に立っていた。
「~♪」
正直今日の私のテンションは高い。
だって洞窟って言ったらようするにダンジョンだよ?
異世界と言えばダンジョン。ダンジョンと言えば異世界。
この世界に来て初めてのダンジョン攻略。
別に避けてたわけじゃないんだけど、意外と機会が無かったのだ。
「ルナお母様、楽しそうですね」
今日も相変わらず私の娘は可愛い。
にこにことした笑顔。目の中に入れても痛くないって思うよ。
「うんうん。もしかして宝物とかあったりするのかなぁって思うとね」
「そんな都合よく見つかるわけないじゃない」
私の言葉にすぐさまそんな反応が返って来る。
む~、ステラ。少しくらい夢見せてくれたっていいじゃない。
ダンジョンで金銀財宝見つけて皆で喜び合うって冒険者の醍醐味でしょ!!
「もし見つかればステラはパーティを抜けるのか?」
「えっ? なんでそうなるの?」
「ルナ殿、ステラはひと山当てるまでという条件を結んでいた筈だ。ならばそれが見つかれば抜けることになるのは道理だろう?」
忘れてた。
もし仮に宝物が発見されてしまった場合はステラは抜けることになるのか。
それは嫌だな。ずっとこの六人でこれからも一緒にいたい。
「あたしは迷惑じゃなかったらこれからもこのパーティに属してたいって思ってるわ。情が沸いちゃったし、なにより...その、クレタがいるし...」
「あ、ああ。そうか。うん」
クレタがそっとさり気なくステラの傍による。
その左手薬指に輝く金剛石の指輪。
はい。この二人いつの間にか結婚してました。
私達もまだなのに。先越された。悔しい。
「でもどうしてコーネリアさんは私達に依頼なさったのでしょう? ご自分で採集出来る筈ですよね?」
「ティア姉さん、プラムはそこはかとなく悪意を感じる。これには裏がありそう」
「裏、ですか?」
「洞窟の奥に生えるマルマール草。その効果は滋養強壮。これを煎じて飲ませれば天に召されかけている人間も元気になって飛び起きると言われている」
「す、凄い草なんですね」
「但しそれはこの世のものとは思えないくらい苦いからって言われてるけどね」
私はプラムの説明にマルマール草の特徴を補足する。
私はこれを使って薬を作ったことがないから例の本の説明そのままになるけど、恐ろしく苦くて、だからこそそういう効果があるらしい。
ただ天に召されてかけている人も元気になるっていうのは誇大広告。
正しくは魔物なんかに失神させられて起きないと彼らのせいで天に召されることになる冒険者を起こすのに使われるからそう言われてるだけ。それだけ。
「ずっとここで喋ってるのもなんだし、そろそろ行こうか」
「そうですね」
「うん!」
「そうね」
「そうだな」
「プラムも同意する」
先頭にクレタが立ってダンジョンに足を踏み入れる。
おお~、じめじめしてて、暗くて、雰囲気バッチリだよ! わくわくしてきた。
「ルナ殿、明かりを頼む」
「分かった。フレイムフラッシュ」
小さな炎が私の指先に宿る。
それはダンジョンを仄かに照らし.............。
「ひっ! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は絶叫した。
◇
ダンジョン探索開始から僅か一分。
私達はまた入り口前まで戻ってきた。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理.....」
地面に足を開いてベタリと座り込んで頭を抱え、先程見た光景を思い出して一人ぶつぶつと呻く。
「このダンジョン無理。絶対無理。無理無理無理無理無理無理...私抜ける」
「ルナさん、しっかりしてください。一体どうされたんですか?」
「ティア。ティアーーーーーぁぁぁぁ」
寄ってきたティアにしがみ付いて泣く。
嫌だよ。怖いよ。もう入りたくないよーーーーー!!!
「ルナさん?」
「ティアお母様。もしかしてルナお母様はあれを怖がっているんじゃないでしょうか?」
「あれ?」
そう。そうだよ。ルティナ。あれが怖いの。
ダンジョンの壁にびっしりいたの。
だからコーネリアさんは私達に依頼したんだ。
自分で行きたくないから。
「何よ! あれってあれでしょ? あんなの何が怖いのよ」
「ダンジョンでは当たり前の存在だな」
「奥に行けばもっと大きいのがいる。人と同じくらいのも存在している」
「もっといる...。人と同じ...。あっ、あはは...。そうだ。帰ろう」
ふらふら立ち上がってダンジョンと反対側に行こうとする私をティアとルティナが止める。
「ルナさん、ダメですよ。コーネリアさんに失望されてしまいます」
「ルナお母様頑張りしまょう! 怖いと思うから怖いんです」
離して。い~や~だ~。私は帰る。
失望されたっていい。またあれと対面するくらいなら人の信頼を失うくらいどうってことない。
それでも無理矢理私を連れて行くって言うならいっそ私を殺して。
あ! キーワード言えば死ねるんだっけ。
そうだそうだ。忘れてた。
あ、あははははっ。言っちゃえばいいや。言っちゃえば。
「ル、ルナさん。目が虚ろですよ? ルナさーん」
「ルナお母様しっかりしてください。いっちゃやだーーーー」
ごめんね。ティア、ルティナ。弱い私を許して。先にあっちで待ってるね。
本気で自分の世界に浸っていたらステラに頭を殴られた。
「いたっ!!」
「ったく。しっかりしなさい。ルナ」
「ステラ...。それに皆も。どうしてあれが平気なの?」
「それはこっちが聞きたいわ。どうしてあれが怖いの?」
「どうしてって...」
おかしい。なんで皆平気な顔してるの? 女の子は特にあれっていう存在は嫌いな筈なのに。
私がおかしいの? だってあれだよ? 身体が黒光りしてて触覚が合ってかさかさ動く虫なあいつ。
もう分かるよね? 生理的に無理。思い出しただけで寒気してきた。
「皆おかしいよ...」
「おかしいのはあんたよ。ルナ」
「でもルナさんにも苦手なものあったんですね。可愛いです」
ティアが怯える私をその胸に抱き締めてくれる。
温かい。柔らかい。ティアはやっぱり私の癒しだよ。...好きっ。
「あの、ルナさんもこんなに怯えていらっしゃいますし。ルナさん抜きで行くのはどうでしょうか?」
「しかしルナ殿しかマルマール草がどういうものか知らぬだろう? 雑草を持って帰ったら目も当てられんと思うんだが」
「プラムもクレタに同意する。ルナ姉さんには辛いかもだが連れて行くべき」
「ルナお母様」
うぅ。そんな顔で見ないで。ルティナ。
覚悟。覚悟決めないとダメか。
「分かった。迷惑かけてごめんね。皆。よし! 頑張ろう」
「ルナさん」
「ティア。大丈夫。ありがとう」
「ですが」
「ティア、大好きだよ」
「っ。はい」
うん。私は大丈夫。ティアが可愛いから大丈夫。
嘘。全然大丈夫じゃない。今も身体の震えが止まらない。
「ティア」
「はい」
「私の手...繋いでてもらっていい? 出来ればルティナも」
「「はい」」
ティアとルティナに両手をそれぞれ繋いでもらう。
これで私は魔法が使えないけど、多分ルティナがいればどうにかなるだろう。
子供を頼るのもみっともないって思うけど背に腹は変えられない。
こうでもしてないと私は絶対絶対絶対にまた逃げ出す。
この措置は私の勇気を奮い立たせる為。なんて格好いいものじゃなくて逃亡防止措置だ。
私の覚悟を得て私達は再度ダンジョン内へ。
ルティナが魔法を使ってダンジョンが明るくなる。
また見えるあれ。
「あっ...ああ....。いっぱいいる。いっぱい...」
「ルナさん、目を閉じていてください。私達が先導しますから」
「うん。大丈夫だよ。ルナお母様」
「ティア、ルティナ...」
「ったく。情けないわね。虫程度で」
「まあまあ。ステラに苦手なものくらいあるだろう?」
「まぁ...弓とか?」
「プラムはそれは初耳。ステラはエルフの筈?」
「そ、それは。そうよ。誰だって苦手なものくらいあるわよね」
うん。うん。分かってくれて嬉しいよ。ステラ。
じゃあ後は任せるね。ティア、ルティナ。
私が顔を青ざめさせながら目を閉じようとした時、その虫が飛んできて私の顔に止まった。
「ぎっ.......」
「ルナさん!!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
あっ....。私は昏倒してダンジョンの岩に頭をぶつけた。
痛み? それどころじゃなかったから気にならなかったよ。
◇
「うぐっ」
私はどれくらい意識を失っていたのだろう?
口の中に他に例えようのない得体のしれない苦いものが注ぎ込まれて私は飛び起きた。
「にっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「気が付いたみたいね」
最初に目に入ったのは私を呆れた顔で見ている女性。
全身を黒の衣服で包んでいるその人は魔女・コーネリアさん。
「あれ、どうして...」
「気を失った貴女をあなたの仲間がここまで連れて来てくれたのよ。感謝しないといけないわね」
そうなんだ。じゃあ依頼は達成したのかな? 私を起こしたのはまぎれもないあれだよね?
「貴女が使えないものだから大量に洞窟の奥に生えてた草を持ってこられたわ。殆ど雑草だったけどマルマール草もちゃんとあった。貴女は今回何もしてないけど、一応お礼を言っておくわね。ありがとう」
うん、私何もしてないけどね。
でも頭を下げられたんだからちゃんと応えておこうかな。
これであの時の借りは返せたかな。
私は何もしてないけど。
「いえ、お役に立てて良かったです」
「...貴女何もしてないじゃない」
「私の仲間がしてくれたことは私がしたことってことで。今回だけは」
「何よ。その暴論」
「・・・・・」
「・・・・・」
「「ぷっ」」
噴き出して笑う。
そうこうしているうちにその騒ぎを聞いて私の仲間達がこの場所にやってきて。
私は謝罪と感謝を何度も繰り返した後、このコーネリアさんのログハウスを皆で一緒に後にした。
今回はほんとにダメダメだったなぁ。私。
反省....。
◇
それから数日後。
リリンの町のギルドでクエストボードを呆けつつ見ていた私の元にジーネさんがやって来る。
「ルナさん。ルナさんって暫くステータスをご覧になってないですよね? どうですか。もしかしたら成長されてるかもしれませんし、見てみませんか」
そう言えばそうだなぁって思って軽く考えてしまったのが間違いだった。
ジーネさんが差し出してくれた水晶球に手を翳して黒のモヤが文字や数値を作り出すのをじっと待つ。
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名前:ルナ・アマオカ
種族:人間
職業:アークウィザード
レベル:90
体力:300
物理攻撃力:440
魔法攻撃力:2000
物理防御力:260
魔法防御力:1800
魔力:18000
素早さ:280
知力:120(MAX)
幸運:80(MAX)
バッシブスキル:女神ディアーナの祝福と加護、不老不死、一部ステータス2倍
ユニークスキル:魔法創作レベル1(MAX)、魔法同時発動レベル1(MAX)
スキル:全属性魔法レベル100(MAX)、打撃系武器操作レベル22、薬草学レベル8、鑑定レベル7
魔力吸収レベル10(MAX)、魔法反射レベル8、魔法抵抗レベル10(MAX)
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「え?」
「えっ?」
「「えええええええええええええっ」」
大変なことになっていた――――。
↓ルナ達が自由奔放な性格の魔王に振り回されてちょっと酷い目に遭うお話。
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