「好き」を伝えるのは人前で!?
そんな一部始終をゆっくり動く世界の中、どうすることも出来ずただ見つめていた。
◇
無事フラグを回収し、絶対にやってはならないことを仕出かしてしまった私達はその後騒ぎを聞いて駆けつけてきた城の近衛兵達に囲まれて全員仲良く地下牢に閉じ込められてしまった。
私達以外誰もいない。
リリンの町と同様に普段は暇なのだろう。
看守達は連行されてきた私達を見て感動の涙を流していた。
「久しぶりにまともな仕事が出来ます」って。
牢屋って初めて入った。
うん、そんなの当たり前と言えば当たり前なんだけどね。
ティアが左手、ルティナが右手。私の手をそれぞれ握って茫然としている。
「これからどうなるんでしょうか」
分からない。よりによってあれだけのことを仕出かしてしまったのだから厳罰に処せられることになるのは間違い無いと思うけど。
火炙りの刑とか毒杯とかギロチンとかアイアンメイデン...。
私の脳裏に中世ヨーロッパで実際に行われていたらしい拷問、処刑の器具などが次々と思い浮かぶ。
私達は死ねない。これは永遠に苦痛を与えられることになるということ。
私はいざとなれば<<キーワード>>がある。
でもティアとルティナは...。
地下牢の奥。城と労を繋ぐ入り口側から足音が聞こえて来る。
それは徐々にこちらに近づいて来て、やがて私達の前で立ち止まった。
「お、お前達大変なことを仕出かしてしまったな。....くっ、生きている間にこの台詞が言える日が来るなんて...。感動だ」
「良かったっすね。隊長」
二人組の女性魔族。さっき見た看守達。二人共腰に木刀を下げている。
「苦節うん十年。給料は年々下がってついには見張り用の武器まで奪われて鋼の武器から木刀にされてしまう始末。この悲しみがお前達に分かるか!? ああ、やらかしてくれてありがとう」
「わっちからもお礼を言うっす。嬉しいっす」
........。
あれ、なんでもしかしたら私達は良いことをしたのかも? って気になって来るんだろう。
後、さっきまでの重たい気持ちが全部どっかに飛んでった。
なんだこれ。
「隊長、拷問とかしてみたいっすね」
「ピコピコハンマーで尻叩きとかくすぐりとかだな。楽しそうだ」
ああ~、平和だなぁ...。
楽しそうに盛り上がっている看守達の前。
ティアやルティナ、ステラ達を見ると全員毒気を抜かれて逆に唖然とした顔になっていた。
だよねー。
「よし! お前達これから取り調べを...」
「それはわたしがするからいいよ」
突然分け入ってきた声に地下牢の鍵を嬉々としながら開けようとしていた看守の隊長の顔が固まる。
「ま、魔王様。ご苦労様っす」
もう一人の看守はその声の主の姿を見止めるとすぐに敬礼。
隊長も鍵を開ける手を止めて部下の隣に並ぶ。
「二人共ご苦労様。鍵を貸して?」
「は、はいっ!」
"がちゃがちゃ"魔王様の手で開けられる鍵。
牢から出された私達は私と同じ黒い髪を持つ魔王様に連れられてこの場所を後にした。
その折、看守さん達が寂しそうにしてた。
なんか...ごめんね?
◇
この世界の魔王様。
やや吊り上がった、芯の強さを感じさせる紅の瞳、全体的に凛々しい顔つき、お尻の辺りまで伸びた黒く美しい艶のある黒髪、黒のブラウスと黒のミニスカート、首元にワンポイントの紅のリボン。
なんとなく私と似たような雰囲気を漂わせる魔族。
魔王様は私達を自室らしきところに招くと開口一番。
「皆、美少女揃いね」
そう言うと魔王様は私達を値踏みするかのように順番に上から下まで視線を這わせる。
ねっとりしたものなのにあまり嫌な気分にならないのはどうしてだろう?
「うんうん。美少女最高」
うっとりとした表情。
そのうち何やら自分の世界に入っていく魔王様。
涎...垂れてますよ? あの方の世界では一体何が行われているのか。知りたくない。
それはそれとして。
「あの...。今回のことですが」
私は話を切り出す。
その私の言葉で一気に緊張した様子を見せるステラ。
大丈夫。貴女達は私がなんとかして守るから。
「ステラがやらかしてしまったことは取り返しがつかないことだと思います。弁償します。何百年かかっても全額払います。ですからどうか処刑は許していただけないでしょうか」
虫のいい話なのは分かってる。
大体何百年で足りるのかどうかも分からない。
ううん、足りなければ千年かかったってなんとかするつもり。
私は不老不死なんだから。時間はたっぷりある。
「ああ、そのこと。別にいいよ?」
「「「「「「......はい?」」」」」」
部屋におかしな空気が流れた。
「あれらは全部複製品だし、それに仲間を庇おうとする黒炎の魔導士の心意気が気に入ったので許します」
「は...はぁ...」
なんか分からないけど許された?
気が抜けてへなへなと私はその場に座り込む。
「よ、良かったぁ...」
その私の後ろで全員手に手を取って喜び合い。
私は脚に力を入れて、立ち上がり魔王様に頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。でも.....」
「でも?」
魔王様が黒い笑み。
あれ、なんだかまた怪しい雲行きになってきたぞ。
仲間達もはしゃぐことをやめてそれぞれ"ごくりっ"と唾を飲んでいる。
「黒炎の魔導士とそこの神官って恋人よね? ここでキスして見せて。それで許すことにする!」
なっ、ななななななななな!?
「さっき許してくださると...」
「なんのこと? あ、あれ複製品でも高いのよね。それを壊されちゃったからな~」
う、うぅっ...。悪いのはこっち。逆らえない。
「ティア」
こういうのは勢いだ!
ティアを呼ぶ。
彼女が反応を示す前に私はその手を引いてこちらに引き寄せ、腰をもう片方の手で抱いてそのまま唇を奪う。
「んっ!!!?」
ティアの。私の恋人の真っ赤な顔が可愛い。
最初は驚くだけだったティアもいつしか瞳を閉じて私のキスを受け入れ味わう。
「・・・・・」
「・・・・・」
長い時間そのまま。
一旦離れてもう一度。今度はティアから。
「「はぁ」」
二度目のキスから幸せいっぱいに唇を離したとき、私とティアは漸く思い出した。
「ご馳走様。思ってたより凄いの見れたんでもう全然許します。頬にキスとかそんなもんだろうなぁって思ってたんだけど」
「「うっ」」
「お母様」
「「あっ...」」
「プラムはルティナの目を隠そうと思ったけど間に合わなかった」
「「・・・・・」」
「ルナ殿、ティア殿。感服しました。自分達の為にここまでしてくれるとは」
違う。そんな綺麗な目で私達を見ないで。クレタ。
これは違うの。そんな称えられるようなことじゃないの。
「あたしは...クレタと人前でする勇気はないな」
ステラ!? 今の聞き捨てならないよ? 爆弾発言したよね?
クレタとそこまでいってるの? 詳しく!!!
「ルナさん」
「ごめん。だからそんな茹蛸みたいな顔しないで。可愛いから」
「~~~!!」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁ。照れるの可愛い、可愛い、可愛い。誘惑しないでってば。ティア。
「....ここまで惚気られると潔いって思うかな。わたしも皆に会いたくなってきた」
この部屋にいる全員、壊れ気味。
その後ウルレレさんが魔王様に呼ばれて部屋にやってきたけど、この惨状に訝しい目をしていた。




