魔王が目指すのは世界征服なんかじゃありません。
わたしの名前はナナカ・ワダ・バエル。
この世界・フォーレストの魔王をやっている永遠の二十ニ歳。
わたしには前世の記憶がある。
わたしは前世地球という世界・日本という国で生きていた。
それがどうしてこの世界に今はいるのか。
忘れもしない十数年前。前世日本での出来事。
わたしはその年の冬も夏と冬に行われる某即売会に客として参加していた。
戦利品を無事買えて懐は寒々になったけど心はぬくぬく。
両手に大量の百合本。
「わたし家に帰ったらこの百合本一気読みするんだ」
なんてフラグめいたことを言ってしまったのが悪かったのかもしれない。
わたしは信号無視で突っ込んできた酒酔い運転のタクシーに撥ねられて即死した。
無念無念無念無念。何が無念って当然即売会で買った百合本が読めなかったこと。
無念を拗らせて募らせたわたしの魂はこの世界に引き寄せられ、気が付いたら魔王として君臨していた。
第二の人生。わたしは歓喜した。
百合本はもう読めないけど、あっちの世界だと出来なかったことをこっちの世界だとやることが出来る。
その為の力も魔王になったわたしにはある!!
世界征服? そんな一文の得にもならないようなものに興味なんてさらっさらないです。
わたしがやりたいこと。やることはこの世界で百合ハーレムを作ること。これよ、これ。
まず手始めにわたしは城と城下町の男性魔族を一人残らず左遷・島流しにした。
わたしが治める国にムサい男なんていらない。
わたしの周りにいていいのは、いて欲しいのは女性だけ。
男共はわたしが用意した元・無人島でよろしくやればいい。
こうして男共を追放したわたしは次に側近という形で百合ハーレムを作り始めた。
魔王という人の輪から外れた存在になったからだろうか?
人形と少し違う異質な魔族も可愛いと思える。
アラクネとかメドゥーサとかまじ可愛い。
アラクネのくねくねした足めっちゃ触りたいし、メドゥーサの髪の蛇一匹一匹シャンプーしてあげたい。
最初は何故かドン引かされてたけど、わたしが本気だと知ると女性魔族達はわたしに心を開いてくれるようになった。
この間に勇者と呼ばれる人間の少女も来た。
彼女は意気揚々と乗り込んで来たくせにわたしを見ると何故かすぐ降伏した。
わたし、別に何もしてない。
「僕が間違えてたんだよ。貴女は全然悪い魔王じゃない」
「えっ...。あ、そう。それどういう判断なの?」
「可愛いから」
「え」
「可愛いから」
これ勇者とのやり取り。
彼女はそれから海が見える崖まで行ってこの世界で唯一わたしを葬ることが出来る聖剣を親の仇の如く海に全力で放り投げ捨てた。
「良かったの?」
「あれは邪悪な剣だから」
「聖剣でしょ?」
「邪悪な剣だから!!!!」
「あ、はい」
変な子。勇者はそれからわたしのハーレムに加わった。
面倒くさいことになるかなって思ってたけど、ならなかった。
わたしのハーレムを作っている魔族全員と同じように立場をわきまえて行動するものだからわたしも含めて皆に彼女はすぐ認められた。
夜の勇者可愛い。何がって? 言わせんな! 恥ずかしい。
…
こうして勇者も成り行きで取り込んだことになったわたしは本格的に活動を開始した。
魔族だけではなく他の種族と仲良くなるべくこれまでの魔族のイメージを払拭する為の活動だ。
最初に城を前世地球・フランスのシュノンソー城そっくりに立て直した。
次にその周りの毒の泉とかいう気持ち悪い泉の水と毒を全部抜いて普通の水で浸した。
後は城の周りの不気味な植物とか引っ込抜いて普通の植物を植樹して、抜いたのは一定のところに移し替え。
魔族な植物っていうコーナーを作って観光客に楽しんでもらおうって思ったから。
当然城下のほうも大幅に変えた。
温泉が出るみたいだったから温泉街にして名物とか作って観光客の呼び込みを始めた。
その結果、観光業でウハウハ。
他種族とも仲良くなれたし、わたしの目論見通り。
なんだけど...。
中にはそれが気に入らない魔族もいるのが現状。
特にわたしが追い出した男性魔族。
各地で勝手に暴れるのやめて欲しい。
他種族も「魔族」っていう種族で一括りするのやめて欲しい。
こっちは友好関係築きたいんだからさ。
全部上手くやるっていうのは難しいなぁ。
うーーーん。
…
「そう言えば近頃面白い噂を聞いたよ」
新生魔王城のわたしの部屋。
わたしの首に手を回してわたしに甘えていた勇者が突然そんなことを言い始める。
「どんな噂?」
聞いたのはわたしではなくわたしのハーレム群の中の一人。
「それがねぇ」
不愉快そうな顔をすることなくニヤリと歯を見せて微笑する勇者。
「魔王様と同じ世界からこっちの世界に転生してきた子が確認されたって」
これでわたしが知っているだけで三人目だ。
わたしとアリマっていう人間ともう一人。
と言ってもそのことはとっくにわたしの知るところなんだけど。
「ルナって子のことでしょう!?」
わたしが言うと勇者は驚いた顔。
「どうして知ってるの?」
「ああ。それは...」
この城の侍女をしていたプラム・ノア・ドラゴニア。
少し前、わたし達の評判を貶めようとしていたリッチにムカついて彼女を派遣したところ、その彼女が遭遇したのがルナだったから。
随分気に入ったらしくリッチ討伐の任を終えて帰ってくるなり「プラムは今日から人間と暮らすことにする。魔王様、お世話になりました」と言うだけ言ってさっさとそのルナのところへ行ってしまった彼女。
今はどうしているのだろうか。
向こうで出来た仲間と一緒にこちらに招待してみるのも悪くないかもしれない。
わたしはわたしに肌色で抱き着いて来たりしている勇者を含めた五人の女性達に言う。
「風邪引くから服着なさい」
健康は大事!! 愛する者達に風邪引いたりして欲しくない。
彼女達はわたしがそう言うと皆一様に苦笑いを浮かべた。
なんでよ――――?
うん、決めた。もう決めた。
そうと決まれば招待状を送ってこちらに来てもらっておもてなし。
どんな子達なのだろう。
会うのが楽しみだ――――――――。




