公爵様が国を鞍替えするようです。でもそんなことより。
冒険者ギルド。
酒場に食堂も併設されているだけあって時にここは噂話や情報交換などが行われる場にもなる。
たまには外食でもとたまたま休憩時間になったジーネさんと一緒にガルーダの照り焼きをもりもり食べていた私は思わぬ話を彼女の口から聞いた。
「そう言えば知っていますか?」
「はい?」
「このアリマ公爵領が属する国をトゥラソス王国から隣国のセディーネ公国に鞍替えするらしいんですよ」
「え? どうしてまた?」
「それがですね」
ジーネさんの話によるとアリマ様は前々から水面下でこの計画を推し進めていたらしかった。
なんでもトゥラソス王国国王の男尊女卑な政策とそれが無くても民のことを考えず自分達ばかり私腹を肥やす政策ばかりを次々に打ち出す国王に辟易していたのだとか。
アリマ公爵領。特にここリリンの町に住んでいたらあまり感じないことだけど、トゥラソス王国は男尊女卑だっていうのはその国の近衛騎士だったクレタから聴いたことがある。
特に王都はそういう傾向が強いのだと。
うん、対オーク戦で私達女性を生贄にしようとしてたくらいだしね。
・曰く、女性の社会進出は難しい。男性は働いて女性は家にいるものだという考えが一般的だから。
・曰く、女性が例え社会進出が出来たとしてもそれは若いうちだけで加齢が進むとどんなに優秀な人間であってもクビにされる。
・曰く、女性に結婚、子供を作ることを望むくせにいざ子供が出来たらその女性を煙たがる。
・曰く、特に若い女性には露出多めの格好をさせようとする。
・曰く、医学の道を進もうとする女性に対し、女性であるというだけで減点・失格にさせる。
・曰く、女性はコミュニケーション能力が高いからと医学の道を閉ざそうとする。
などなど。
クレタにしては珍しく憤りを露にして私に愚痴っていた。
「それならどうしてクレタはその国の近衛騎士なんてやっていたの?」って聞いたら彼女はそういう女性を守りたかったからって真面目な彼女らしいことを言っていたっけ。
うん。私、最初の町がこのリリンの町で良かったなぁ。
もしトゥラソス王国王都が最初だったりしたら、きっと今みたいな生活はなかった。
苦労してたと思う。もしかしたら望まぬ相手と無理矢理結婚させられてたりなんて未来もあり得たかも?
「でもそれって危険が伴うんじゃないですか? トゥラソス王国がアリマ様を裏切り者として糾弾したりとか」
「それなら心配いらないと思いますよ」
「その理由を一応聞いてもいいですか?」
「アリマ様がセディーネ公国に領地ごと亡命するにあたってその存在を盤石なものにする為に亡命先のセディーネ公国だけでなく周辺国にも自分達の領地の有益さを認めさせる働きをしておいでになっていますし、それに正式にセディーネ公国に属することになった暁にはアリマ様はその国のエレミーヌ皇女殿下の元で宰相となられることが決定しているからです。宰相に手を出すなんて国に宣戦布告したのと同じになってしまいますからね」
へぇ。さすがアリマ様。
私みたいなただの小娘にはただ漠然と凄いことしてるんだなぁとしか分からないけどあの人やり手なんだなぁ。
それにしても。
「その話ってまだ公にされてない話ですよね? 聞いてると今はまだ水面下でアリマ様が動いている段階っていう話し方でしたし」
「あら、そうでしたか?」
「そうですよ」
「ルナさん、この話は内緒でお願いしますね」
そう言って人差し指を立てて口の前に持っていくジーネさん。
茶目っ気を出して笑ってるけど、逆にそれが怖い。
アリマ様程の人ならこんな重要案件は余程信頼出来る相手にしか話さない筈。
その上でそれが表に出るなんてことのないよう厳重な緘口令を敷く筈だ。
それなのにジーネさんは知っている。
一体どんな「耳」をこの人は持っているのか。
「もし話されるとルナさんも私もただでは済みませんからね。アリマ様のようにお優しい方でもさすがに厳しい処分を私達にお与えになると思いますよ。例えば毒杯とか」
「言いませんから。言わないのでそんな怖い顔をこっちに近づけるのやめてください」
「はい。ルナさん、これで運命共同体ですね」
「........はい?」
「私、ルナさんのことは信頼してますけど。それでももしもということがあったらと思うと怖くて怖くて。なのでギルドしてはルナさんを監視させて欲しいんですよね」
「それはどういう?」
「アルバトロステイルから依頼が来てるんです。またルナさんに働いて欲しいっていう。本来ならペナルティが発生したら受ける依頼ですけど、監視しなくてはいけなくなりましたし、アリマ様が公国に亡命するまで大体ひと月くらいでしょうか。ルナさんにはリリンの町から出て欲しくないんですよね。そこでひと月アルバトロステイルで働くってことで」
「私に拒否権はありますか?」
「ありません」
うっわ...。理不尽すぎる。
勝手に話したのになんで私がそんな目にあわないといけないのか。
これは怒っていい案件の筈。
私はラノベとかアニメの主人公みたいにただ言いなりにはならないぞ!
「それはいくらなんでも....」
「報酬は給料と他にティアさんの幼少期の写真をつけます。彼女の上司さんからいただきました」
「私に任せてください!!」
ジーネさんからちらっと見せられたティアの幼少期の写真。
可愛いなんてものじゃない。本物の聖女だよ。欲しい。喉から手が出るくらい絶対欲しい。
「それではお願いしますね」
「頑張ります!!」
それからひと月。私はいろんな視線に晒されながらも懸命に働いた。
すべては写真の為。その為ならこんな労働くらいなんともないよっ。
◇
そしてひと月という時間が経過した。
「ルナさん。アリマ公爵領は正式にセディーネ公国に属することになりました。その発表はアリマ様から一週間後に領民に向けてされるらしいです。それでですね、これまでよりクエストの報酬も少し上がることになりまして」
「そんなことはどうでもいいです!! それより」
「目が血走ってますよ。怖いです。怖いですって。ルナさん」
「約束の品ください」
「はい。すぐ出しますから」
ふふふふふっ。
私は念願のティアの幼少期の写真を手に入れた。
可愛い。可愛い。
これは私の永遠の宝物です。
転生したら最強の魔法使い。ルナと仲間達の異世界奇譚。
https://ncode.syosetu.com/n9402fe/
この物語の外伝となります。
ここから分岐。
登場人物などは同じですが、こちらは緩くないです。
完全なるアナザーストーリーと思ってください。
正史はあくまでもこちら。ゆる物語。




