ステラの相談。砂糖水を飲まされた気分になりました。
停学期間も無事に明けて、再び学生生活と冒険者家業の両立が始まった。
黄昏時。オレンジに染まる校舎。何処かもの悲しさを感じて教室で日誌を書いていた私は外界との繋がりが欲しくなって窓を開けて空気と音を身体いっぱいに吸い込む。
部活動に勤しむ生徒達の声。そんな中喧噪に負けじとクレタの声が聞こえて来る。
「エトワール女子学園生徒会長に立候補しました。クレタです。生徒会選挙ではクレタに皆さまの清き一票をお願いします」
そう。クレタは近々行われる生徒会役員選挙生徒会長に立候補した。
なんでも学園生活を楽しく送っているうちに皆が生涯忘れられないような学園生活にしたい。よりよい学園にしたいって思うようになったんだとか。
真面目な彼女らしいって思う。
ひと癖もふた癖もある私達のパーティメンバーの中で唯一の良心。
彼女がいなければ私達はもう少しバラけたパーティになっていたかもしれない。
年長者の余裕もあるのかな。
うん。見た目私達と変わらないから普段よく忘れがちになるけどクレタって年長者なんだよね。
ドワーフもエルフも魔族も長寿の種族。人間の凡そ十倍の寿命を持つ。見た目はこの世界の成人十五で止まってそのまま。十五って言っても彼女達がその年齢になるには百五十年必要だけど。
彼女がいて、次にステラ、プラム、それから遠く離れて私とティア、最年少は勿論私達の世界一可愛い。この世界で一番じゃないよ? 並行世界とかパラレルワールドとか何もかも全部入れた世界で一番可愛い娘のルティナ。例によって異論は認めない!!
そう言えばルティナは六歳までは普通の人間だったのに、こないだギルドでステータスを一緒に見たらいつの間にか不老不死が付与されていた。
永遠の十歳。永遠の幼女。私の娘が尊い。
けど可愛すぎるから心配もあるかな。
もし誘拐とかされて犯人に爆発魔法なんかを放ったりしたら大変なことになる。
よく言い聞かせておかないといけない。加減するようにって。
ルティナのことはこれくらいにしてクレタ。
彼女は誰よりも真面目。そこは私は保証する。
ただそんな彼女もお酒が入れば性格が壊れて困った人になるっていう欠点もあるけど。
「クレタに清き一票を」
私の楽しい仲間と学園の皆の声をBGMに私は日誌を書き進める。
今日の出来事や担任教師に伝えたいこと。などなど。
やっと書き終えたところで廊下側から私に掛かる、これもよく知った声。
「ルナ、いる?」
「ステラ?」
この学園では私とティアよりクレタは二つ、ステラは一つ上の学年に在籍している為授業を受ける階が違う。
なのでクレタは兎も角、面等臭がりのステラとは学園ではあまり会わないのだけど、そのステラがわざわざ別の階にまで私を訪ねて来るとは珍しい。
「いるけど、何かあった?」
「あ、あのさ...」
「うん?」
「聞きたいことがあるのよ」
「聞きたいこと? とりあえずこっち来れば。どうせ今は私しかいないし」
「じゃあお邪魔します」
なんか借りてきた猫みたいだなぁ。
らしくないっていうか、どうしたんだろう。
ステラは私達の教室に入ってきて私の隣の席。
今はルティナと一緒に先に帰宅したティアの席に座る。
「それで?」
何か言いにくそうにしているのでこちらから彼女の欲しいものを促してみるとステラは頬を紅に染めてここに来た理由を語り始めた。
「実はクレタから応援演説っていうの? それをあたしにして欲しいって頼まれたのよ。引き受けたのは良いんだけど、あたしそういうのしたことないから何を言えばいいか分からなくて」
「なるほど。で、私に聞きに来たと?」
「そうよ。教えて、ルナ」
ステラはそう言うと目を瞑って顔の前で両手を合わせてお願いのポーズを取る。
「あたしのせいでクレタが落選したってことになるのは嫌だし、何よりあたしはクレタに生徒会長になって欲しいって思ってる。あいつが相応しいって思うのよ。だからルナ」
「ステラはさ、クレタのどんなとこが良い所だと思う?」
私が聞くとステラはお願いのポーズを辞めてリラックスした姿勢となる。
視線を私から背け、顎を掻きながら。
「クレタは真面目だし、他人のことをよく見てると思う。それに」
「それに?」
「さり気ない優しさがあって気遣いが出来る女性だと思う」
「例えば?」
「そうねぇ。こないだ二人でクエストした時に獣道を行かないといけない時があったのよ。その時クレタがさり気なくあたしの前に立って草を薙いで道を作ってくれたおかげで助かったわ。それとあいつ二人で歩いてる時に馬車が通る道だと自分が馬車側に移動するのよね。そういうところが...」
ふーん。クレタ、イケメスすぎない?
後、ステラはクレタをよく見てるじゃない。
私が出る幕ないと思うなぁ。これ。
「そういうことを書けばいいと思うけど?」
「えっ?」
「だからクレタの良いところを書いて、そんな縁の下の力持ち的なクレタが学園の生徒会長になった暁にはきっと今よりもいい学園になること請け合いです。みたいに書けばいいんだよ」
「なるほど。ありがとう、ルナ。ルナに相談して良かったわ」
そんな、目から鱗みたいな顔する必要ないと思うよ。
ステラは全部自分で気付いてたんだから。
でも...。
「どう致しまして?」
「こうなれば善は急げよね!」
ステラはそう言うと教室から一目散に飛び出していく。
きっと家に帰って原稿を纏めるつもりでいるのだろう。
「やれやれ」
私は嘆息しつつ慌ただしいステラを見送って日誌を担任の元まで持って行った。
あ~、なんだか口の中いっぱいに砂糖水を飲まされた気分。
他人の惚気ってこんな気分になるんだなぁ。
嫌じゃないけど。
後日、ステラの応援演説は他のどの候補の応援演説よりもガッチリと学園の生徒達の心を掴み、それに後押しをされる形でクレタは見事エトワール女子学園七代目生徒会長の座に輝いた。
ルティナ誕生秘話。
↓愛し合うルナとティア。その様子を見てみませんか?
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