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ワンコなルナ。その2

 私は仲間達にたっぷりもふもふされた。

 だけじゃなく犬っぽくなったから頭も撫でてもらえた。

 たまにはこういうのもいいかな。


 あれから更に一週間。

 私はまだ元に戻る為の手掛かりを見つけられずにいた。

 こうなって来ると感覚が段々と麻痺して現在の状況に馴染んできているから自分が怖い。

 服の着用に尻尾が邪魔! っていう以外のことは特に生活などに支障がないからっていうのもあると思う。

 それに何処に行っても「可愛い」って言ってもらえて甘やかしてもらえるのも大きい。

 特にティアから与えられる慈愛。思い出したら勝手に尻尾が!!

 私の頭を撫でてくれるようになったし、よく抱き締めてくれるようになった。

 案外私は愛情に飢えていたのかもしれない。

 ここのところ知らなかった自分をよく発見してる。

 しかし不安定な奴だな~って感じるかな。

 健康な人って皆こうなのかな?

 この心を天気に例えると晴れたり曇ったり雨が降ったり、かと思えばまたすぐ晴れたり。

 目まぐるしく変わる天候。もしこれが現実になると気象予報士の人は大変だろうなぁ。

 

 などと考えて苦笑いする。

 自分って一つじゃないんだなぁって今更当たり前のことを知って、なんて面倒なんだろうと思いつつもそれが何処か愛しくもある。

 前世私が手に入れられなかったもの。

 それをまた一つ私は手に入れることが出来た。

 

「ルナさん」


 感慨に耽っているとティアの声。

 振り向くとティアはリビングのソファに座っている私と目線が同じになるように屈んで笑む。

 頭を撫でてくれるティアに完全に身を委ねながら私は尋ねる。


「ティア。私が元に戻ったらこうして撫でてくれたりとかしなくなる?」


 自分で自分の顔は見れないから今私がどんな顔をしているのか分からないけど、かなり真剣な顔をしていると思う。目も真っ直ぐにティアに向けて、私の黒の双眸にはティアが映ってる。


「そんなことありません」

「本当に?」

「はい。ただルナさんは素直に甘えてくださいますか?」


 もじもじしながら私の反応を伺う様子。

 私の恋人可愛い。世界一可愛い。こんな可愛い子が彼女の私。世界一の幸せ者。異論は認めない。

 あ~~~、大好き。


「ティア」


 我慢しきれなくてティアに手を伸ばしてソファに導く。

 身体を反転させてティアの身体に触れようとしたらお約束。


"ビーーーーーーーーーーッ"


「・・・・・」

「・・・・・」


 何処の誰かか知らないけど空気読め!!

 現在この家は私とティアの二人きり。

 他の三人はそれぞれやりたいことがあるとかで何処かに別々出掛けている。

 それだけに寸止めせざるを得なくなったのが口惜しい。

 後ろ髪引かれまくりながらティアから離れて私は玄関に向かう。


「はい、どちらさ....ま!??」


 開けた扉からグリフォンらしき大きな魔物がこちらを覗いていた。


 リビング。

 ティアが淹れてくれた紅茶を啜りながら私は目の前の珍客を見ている。

 黒の双眸、黒のゆるゆるふわふわとしたセミロング、黒のとんがり帽子、黒のローブに身を包んだ女の子。

 魔女。玄関で見たグリフォンは彼女の怪鳥(ペット)で名前を"ポチ"というらしい。

 ポチ。何処がだよ!! お世辞にもあれはポチとは言えない。

 ライガーとかそんな感じの格好いい名前のほうが似合うと思う。

 あれ? ライガーだとライオンだっけ? けどグリフォンは下半身ライオンだから当たらずも遠からずかな。


「黒の魔導士ってあんたよね?」

「その称号で呼ぶのやめてください。黒歴史なので。というかなんで知ってるんですか!」

「この国で知らない人はいないと思うわ。王都の吟遊詩人が面白おかしく吹聴してまわってるもの」


 なんだって!! なんてことをしてくれるんだ。私の評判が...。あっああああ...。


「で今困ってるって聞いたんだけど?」

「えっと、はい。でもどうしてですか? それも吟遊詩人が?」

「いいえ、ハンナから聞いたの。彼女私のパトロンをしてくれてるのよ。その縁でね」


 魔女に投資って。ハンナさん、ただの雑貨屋さんじゃなかったんだ。びっくりした。


「猿でも分かる薬草入門って聞いたことないかしら? 私それの執筆者なんだけど」


 知ってる!! 今もお世話になってる。あの本その名前の通り凄く分かりやすいんだよね。

 この魔女さんが執筆者だったんだ!!


「サインください」


 私はいつも世話になっているその本をポーチから取り出して魔女さんの前に出した。


「あら、私の本」

「この本。本当にとてもお世話になってます。その執筆者に出会えて嬉しいです」

「そこまで褒められると照れるわね」


 魔女さんは頬を紅に染めながら私の手から本を受けると裏表紙に達筆なサインをしてくれた。


「コーネリアさん」

「ええ、そうよ。コーネリア・メルクリウス。よろしくね」

「はい。あ、サインありがとうございます。これは部屋に飾って普段用は新しいの買います」

「あ、ありがとう。嬉しいけどそこまでしなくてもいいのよ?」

「いえ、そうしたいんです。嬉しくて嬉しくて」

「そ、そう。ところで話を戻すけど何に困っているかしら?」


"コホンッ"魔女さん・コーネリアさんの照れ隠しの咳払い。

 魔女ってもっとおどろおどろしいイメージあったけど、意外と可愛いんだなぁ。


「見ての通りなんですけど薬作りで失敗して獣人みたいになってしまって。元に戻れる手段もないし、途方に暮れてるんです」

「なるほどね。でもそれすぐに治るわよ?」

「へっ...?」

「一種の毒だから毒消しの薬を使えば。いえ、それより貴女魔法使いなんだから毒消しの魔法を使用したほうが早いわね。試さなかったの?」

「試してなかったです...」


 そんな簡単なことだったんだ。

 拍子抜けしてしまった。

 私が呆けるとコーネリアさんは呆れた顔で立ち上がり、玄関に向けて歩き出した。

 見送る為に私も立ち上がって後ろをついて歩いているとコーネリアさんが不意に立ち止まる。


「どうかしました?」

「ルナだっけ? 貴女の名前」

「え、はい」


 くるりとこちらに振り返って。


「貸し一つね」


 コーネリアさんは私にウィンクしながらそう言った。


 夕方。仲間達全員が見守る中。


「じゃあいくよ」


「プラムは少し残念でもある」

「まぁそう言ってやるな。ルナ殿もやはり人である方が落ち着くだろう」

「今のルナの写真ならバッチリ撮ってあるわよ。一枚三百ゴールドで売るわ」

「ステラさん、買います!」

「プラムも売って欲しい。子供料金で」


 ステラ。私の写真で勝手に商売するな!

 ティア、プラム、それを買おうとしないで!

 プラムはちゃっかり値切ってるし。しっかりしてるな!


「ポイズンイレイズ」


 魔法発動キーを唱え終わると淡い緑の光が私の全身を包み込む。

 すぐに身体に変化が起こった。


「んっ...」


 今度は獣人になった時のような気持ち悪さはない。

 むしろ喉が渇ききっていた時に飲んだ水が身体に浸透するときのような爽快感。

 耳や尻尾が縮んでいく。

 プラムは若干勿体ないって感じの顔をしていたけど、他の皆はただ固唾を飲んで様子を見守っていた。


「ふぅ。人間に戻った...かな?」

「ルナ姉さん、安心していい。もうすっかり人間に戻っている」

「そっか。良かった」

「これで下着もまた穿けるようになるんじゃない? 良かったじゃない」

「ちょ、何を。ス、ステラ!」

「まったくこれだからまな板は。デリカシーがないな」

「はっ。堅物は黙ってたら?」

「誰が堅物だ」

「あんたよ、あんた」


 ステラとクレタの()()()()が始まる。

 喧嘩する程仲が良い。 ...にこれもなるのかな?


「ルナさん、良かったですね」

「うん。ハンナさんとコーネリアさんには感謝かな。今度何かお礼しないと」

「そうですね」

「何かするならプラムも手伝うことにやぶさかではない」

「そう? じゃあ何か決まったらプラムも手伝ってね」

「泥船に乗ったつもりで任せて欲しい」

「それ沈みますよね?」

「ティア姉さん。ナイス突っ込みだった」

「あははっ」


 私達はくだらないことを談笑。

 喧嘩する二人を見守る。

 私の薬調合失敗による暴発事件はやっとのこと幕を閉じた。


 後日。

 

「ルナさん、おはようございます。今日も可愛いですよ」


 朝のキスの後、ティアは明るく微笑んで私の頭を撫で始める。

 

「大好きです」


 それから頭を抱えて胸に私の顔を押し付けて...。



 甘やかして欲しいって確かに私は望んでた。

 けど、けどけどこれはさ。

 心臓が幾つあっても足りない!!!!

第二部にすすむその前に。

↓愛し合うルナとティア。その様子を見てみませんか?

https://novel18.syosetu.com/n2502fe/1/

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