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ワンコなルナ。その1

 ティアと恋人同士になってから二週間後。

 私達の生活は大幅に変化した。

 仲間が増えたことで手狭に感じていた家をクレタがたったの五日で増築リフォーム。

 ドワーフの技術力を皆に見せつけて彼女は感嘆の声を一心に浴びた。

 照れくさそうにしていたのが何処か可愛かった。

 そのおかげで大晦日は悠々と過ごせた。

 もうほんっと快適。クレタに足を向けて寝られないよ。


 ちなみに私とティアの間も大きな変化がある。

 これまで別々の部屋だったのを増築部で新たに出来た共有の部屋で一緒に住むようになった。

 毎日朝起きた時と夜寝る前には必ず挨拶のキス。

 それ以外にも暇な時間を見つけては抱き合ってみたり、意味もなく見つめ合って微笑み合ったりなどしている。

 仲間やリリンの町の人達からバカップルと呼ばれるようになったのはこんなことしてたら当然だよね。

 自分がこんなにも恋に溺れるタイプの人間だなんて知らなかった。

 ティアとイチャイチャしたくて仕方ない。

 他のことはしたくない。

 冒険も家事も放り出したい。


 ...まぁそんなことしないけどね。

 節度は大事。どの口が言うんだ! って我ながら思うけど。


"ごりごりごりごりごりっ"すり鉢で薬草をすり潰す。

 薬草学も大分板についてきた。

 この調子でいけば本場の「魔女」に負けない薬を作れるようになるのも遠くはないかもしれない。

 

「後はマンドラゴラ...」


 薬の大元は作り終わって後は繊細な部分。

 ここでの出来いかんで薬が高品質品になるか低品質品になるかが決定する。

 神経を尖らせて作業に集中。

 mm単位の仕事をしていたら見計らったように鳴る家の呼び鈴。


"ビーーーーーーーーーーッ"


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 普段ならなんてことない音なのに集中しすぎていた為に飛び上がる程驚いてしまった。

 その際放り投げてしまったすり鉢が宙を舞う。

 それは私の頭の上で放物線上を描いて緩やかに落下して――――。


 中身は全部私が被ることになってしまった。

 

「・・・・・」


 ため息をつかずにいられない。

 全部台無し。

 ぶっちゃけ薬草はほぼ原価無料だけど、マンドラゴラは結構な値段で取引した。

 お金が無駄になった。それに時間も無駄にした。

 

 絶望にも似た気持ちで片付けを始めると急に私の身体に異変が生じた。


「んっ....」


 気持ち悪い。

 身体が熱い。

 まるでインフエンザにかかってしまった時のよう。

 目眩がする。

 身体を「く」の字にして私は床を転げまわる。


「あ、ぐっ...助け...誰か...」


 この部屋は私専用の特別室で今は一人。

 音を聞きつけたらしくドアが激しく叩かれる。


「ルナさん、ルナさんどうしたんですか! ルナさん」


"ドンドンドンドンッ"ティア。来てくれたんだ。


「ルナさん、開けますよ!!」


 ティアは暫くドアを叩き続けていたけど、私から応答がない為実力行使に出た。


「主よ。邪悪なるものに鉄槌を与えたまえ。ホーリークロス」


 吹っ飛ぶドア。

 いやいやいやいや。やりすぎでしょ。

 混乱してたんだろうから仕方ないけどさ、私別に鍵かけてたりしてなかったよ?


「ルナさん!!」


 ティアが部屋に踏み込んで来るのと同時に私を蝕んでいた何かは嘘のように消え去った。


「あれ...?」

「ルナさん、良かったです。無事だったんで...........」


 ティアが私を見て固まっている。

 どうしたというのか?

 

「ティア?」


 声を掛けると彼女はぶるぶる震え、それから一瞬で間合いを詰めて私に抱き着いてきた。


「ルナさん、可愛いです」

「え? あ、うん。ありがとう?」


 何今更? しかしその喜びよう、ちょっと大袈裟じゃない?

 私のことなんて見慣れてるでしょうに。


「ルナさん、ルナさん」


 頬ずりしてきた。嬉しいけど。可愛いけど。

 あっ! 尻尾掴んだらダメ。ぞくぞくするっ。


 ..............................................は? 尻尾?


「ねぇ、ティア」

「はい」

「今って私どうなってる?」


 恐る恐る聞いてみる。

 なんとなく予測は着いてるけど、お願いだからそうであってくれないと嬉しい。


「鏡見ますか?」

「お願いします」


 ティアから手渡された手鏡で私は絶叫した。


「なんじゃこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


「なるほど。薬を被って気が付いたら獣人みたいになってたってわけかい」

「はい...。ハンナさん、なんとかする方法知りませんか?」


 今私の前には雑貨屋のハンナさん。

 先程呼び鈴を鳴らしたのは彼女だったらしい。


「犬なルナさんも可愛いです」


 ティア。あまり尻尾触らないで。もふもふもやめて。

 ひゃっ。耳はダメだって。耳は。


「と言われてもあたしは薬のことなんてさっぱりだし、仮に分かったとしてもルナちゃんが何をどれだけ配合してたか分からないと元に戻る薬なんて作れないんじゃないのかい?」

「うっ。やっぱりそうですよね...」

「役に立てなくて済まないね。まぁそう気落ちせずにその姿も楽しんだらどうだい? おっと忘れるとこだったよ。これお裾分け」


 ハンナさんはピクニックバスケットいっぱいのマドレーヌをくれてそれからすぐ帰って行った。


「どうしよう」

「私は犬のルナさんも好きですよ」

「ティア。もし元に戻れなくてもずっと愛してくれる?」

「はい! ルナさん」

「嬉しい。ありがとう」


 ティアに顔を近づける。

 彼女は目を瞑って私その彼女の唇に――――。


「ルナ姉さん」


 触れる寸前で横からプラムに抱き着かれて床に倒れた。


「ルナ姉さんがとても可愛くなっている」

「ありがとう、プラム」


 プラムは結局姉妹関係に戻ってしまった。

 力及ばず。もっと甘やかしたら良かったよ。


「プラムちゃんもそう思いますか? 可愛いですよね」

「ティア姉さん。プラムは今かつてない感動を味わっている」


 大好きな恋人と妹からそんな風に言ってもらえるなんて。嬉しい。


 ...これ喜んでいいの?


「ルナ姉さんはいつまでその姿なのか。プラムは回答を要求する」

「治す方法が分からないから暫くはそのままになるかもしれないらしいですよ」

「うん、そういうこと」

「つまり暫くもふもふし放題。プラムはその白くてふわふわした尻尾に触りたくて仕方ない」

「くすぐったいからお手柔らかにしてくれるならいいよ」

「許可が出た。プラムは思う存分堪能する」

「私もいいですよね。ルナさん」

「あ、うん」


 二人が嬉々として私の尻尾を触る。

 くすぐったい。変な感じ。

 この騒ぎを他の二人も聞きつけて来た。


「ルナ殿。一体何...が!!」

「ルナ。なんか騒がしいけど何かあっ...」

「ステラ、クレタ」


 この後の展開、私分かるよ。

 二人ももふもふに加わるんだよね。

 二人が四人になったところで同じだ。

 さぁ、来い。


 私は仲間達にたっぷりもふもふされた。

 だけじゃなく犬っぽくなったから頭も撫でてもらえた。

 たまにはこういうのもいいかな。

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