恋人。
ルナとティアはついに...。
ペナルティの終了後は仲間とのクリスマスイヴ。
玄関前で待ってくれていたステラと共にリビングに行くとそこはもうクリスマスパーティ会場。
プラムが「ルナ姉さん、お疲れ様。プラムはルナ姉さんを見直した。働くルナお姉さん格好良かった」と抱き着いて来て、クレタがケーキを切り分けつつその光景に緩く笑みを作る。
ティアは部屋の飾りつけをする手を止めて「ルナさん、お帰りなさい」と朗らかに微笑んでくれた。
"じーん"とする。
ここが私の居場所なんだって強く感じる。
大好きな仲間達。私は幸せだ。
「よし! ではパーティを始めるか」
「プラムに異存はない」
「あたし、帰りにお酒買って来たから皆で飲む?」
「私は遠慮しておきます」
「私もやめとこうかな」
「プラムは....」
「ダメですよ!」
「ティア姉さんがそう言うならやめておく」
ステラとクレタは二人共少女っぽく見えるけどその実は年齢百を超えている。
プラムも魔族だからステラ達と同じように百年近くは生きているのだろうけど、見た目は十歳前後の子供。
子供がお酒を飲むのは。うん、ちょっとね。
ちなみに私とティアは十五から成人と見なされるこの世界ではお酒も解禁されている。
それでも飲もうと思わないのはだらしない大人を何人か見たことがあるからかな。
全員がお酒やジュース、ガルーダの焼き鳥、ケーキにスープ等々。ご馳走が並ぶ食卓に着く。
それぞれの食前の挨拶を済ませて後は思い思いに食べて飲み、騒ぐ。
ステラは丸々一本シャンパンを空にした後酔い潰れて寝落ちしてしまった。
その姿が大鼾、お腹を出してポリポリ臍の周りを掻くと言うまるで何処かのおっさん。
妹の教育に大変よろしくないので私はステラの部屋から持ってきた布団で彼女を簀巻きにして皆から見えないようリビングの奥へ蹴り転がした。
宴もたけなわ。
一人黙々と飲み食いを続けていたクレタもついに力尽きてその場に転がる。
彼女の周りには大量の酒瓶。ドワーフがお酒に強いのって事実だったんだね!
残ったのは私とティアとプラムの三人。
立ち上がるプラム。
「さてとルナ姉さんとティア姉さん。誕生日おめでとう。プラムは二人の願いを叶えたいと思う。何かあれば言って欲しい」
そう今日はクリスマスイヴでもあり、私とティアの誕生日でもあるのだ。
最初にティアがプラムに願う。
私はその願いがなんとなく予想出来ていた。
「プラムちゃん、不老不死をいただけますか。私やっぱり...ルナさんと皆さんと一緒にいたいんです」
予想通り。
そうだろうなって思ってた。
このパーティメンバーの中だと現在ティアだけが短命。
今は良くてもいつかは置いていかれる。
それが耐えられなかったのだろう。
前にも約束した通り、ティアが悩んで出した結論ならばもう私は何も言わない。
「分かった。プラムはティア姉さんを不老不死にする」
プラムがティアの前に両手を翳す。
その手から赤い魔力が溢れ出し、プラムから離れるとティアを包む。
「暖かいです」
「その魔力はフェニックスの魔力。だから暖かい。今ティア姉さんの身体に染み渡らせる」
まるでティアのオーラのよう。
彼女の身体から紅色の輝き。
それは少しずつ少しずつ光りを弱めていき、最後はティアの身体の中に吸い込まれるように消滅した。
「これでティア姉さんは不老不死。次はルナ姉さんの願いを叶える番」
「じゃあプラム。明日のクリスマス本番が終わるまで娘になって」
........。
一瞬訪れる静寂。
「ルナ母さんって呼んで。ママでもいい」
「私もお願いします」
「...ルナお母さん、ティアママ」
うっ...。
はにかみながらの台詞。
滅茶苦茶いいよ。
ティアも私の隣でぶるぶる悶えて震えている。
「プ、プラム。もう一回」
「うっ。....ルナ母さん、ティアママ。好き」
はい、死んだー。死にました。萌え死にました。
何だこの可愛さ。破壊力ありすぎなんですけど。
私とティアは同時にプラムに手を伸ばす。
それから彼女を揉みくちゃにして、疲れて眠るまで私達はその可愛さを堪能した。
クリスマス終わるまでって勿体ないことしたかもなぁ。
このままずっと私達の娘としていてくれないかなぁ。
たっぷり甘やかす形で明日洗脳してみよう。
そしたら妹より娘がいいって言ってくれるかも。ふふふふっ。
◇
ティアと二人きりになった後は場所を移動してリリンの町で恋人に人気のある広場へ。
はぐれないようにしっかり手を繋いで私達は大勢のカップルの中を歩く。
こうしていると私達も恋人同士に見えるだろうか。
もしそうなら、嬉しい。
クリスマスを彩るイルミネーション。
広場の木々に飾り付けられていて人々を歓迎している。
他にも鉄線に飾り付けられてなんらかの模様やキャラクターを光で現わしている物も。
この辺りは現世日本さながら。
アリマ様はもしかしたら日本からの転生者なのかもしれない。
「はぁ」
ティアが白い息を吐く。
この国は温暖な気候が長いけど寒い季節もある。
具体的に言うと春が半年、秋が三ヶ月、そして冬が三ヶ月。
夏がない。暑いのが苦手な私としてはとっても過ごしやすい。
「・・・・・」
無言でティアの身体を私に寄せる。
驚いたようだったけど、ティアは私に身を任せる。
広場を歩いて目的の場所。
教会が近くにあるのが見える位置で私は立ち止まった。
「ティア、誕生日おめでとう」
ポーチからこの日の為に購入しておいたプレゼントをティアに見せる。
十二月の誕生石・タンザナイトのネックレス。
驚いた顔をするティア。
「あの、私も...」
おずおずとティアが愛用の巾着袋から取り出したものは私とまったく同じ物だった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「「ぷっ...」」
考えることが同じって。
誕生日も同じ、思考もよく似ている。
私達っていいコンビなんじゃないだろうか。
これなら。
「ティア...。その」
心臓が破裂しそうなど早く脈打ってる。
これから私が言うことは一世一代の大勝負。
深呼吸を何度も繰り返して私は――――。
「ルナさん」
腰を折られた。
「ルナさんが前に言ってくださったこと。私まだ返事してないのでここで言わせてください」
「私が前に言ったこと? ....って何?」
「!! もしかして覚えてないんですか!?」
うあ、まずい。
全然覚えてない。
どうしようどうしようどうしよう。
ティア怒るよね。
そうなったら全部ダメになる。
「...ティア」
ティアは顔を俯かせている。
心なしか、若干震えているようにも見える。
これは、ダメだ。私は大変なことをしてしまったんだ。
取り返しがつかないことを...。
「ティア...ごめ」
「それでもいいです!!」
「...えっ?」
「覚えて無くてもいいです。私ルナさんが好きです。初めてルナさんと会ったその日からずっとお慕いしていました。ルナさん、私と一緒の道を歩んでください」
ティアの顔は紅い。
様々なイルミネーションに照らされてそれがはっきりとよく分かる。
"ぎゅっ"と強く目を瞑っているティアに私は近づく。
「ティア」
「っ」
目と鼻の距離。
私はティアの首に手をまわしてタンザナイトのネックレスをつける。
ティアの神官服に似合って映える青の宝玉。
その一連の作業が終わっても微動だにしないティアをしばし見つめて、それから彼女の肩に手を置き、ティアの顔に私の顔を近づけて距離を零にする。
私の気持ちが伝わるように長く。
名残惜しく離れるとティアは目を開いて潤んだ瞳で私を見つめる。
「私も好き。ティアのことが好き。多分二度目の告白だよね? ティア、大好きです」
彼女の身体を抱く。
腰に手を回して唇を重ねる。
ティアの瞳から零れ落ちる涙。
私達はそのまま唇を重ね合わせ続け、離れると私達の一部始終を見ていたらしい周りの人々から惜しみない拍手と祝福の言葉をもらった。
広場には沢山の恋人達。町、公爵領、世界にはもっと多くの恋人達。
その中で私達は一番幸せなカップルに違いない。
それくらいの気持ちになってる。
「ティア、大好き」
「ルナさん、大好きです」
私達は三度唇を重ね合わせた。
転生して来て初めての誕生日・クリスマスイヴ。
私に可愛い恋人が出来ました――――――――。
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第一部 End.




