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魔族の少女とクサヤとリッチ。

ほんのりギャグ風味です(苦笑)

 ラナンの町。

 私に寄り添うように隣を歩くティアの様子がおかしい。

 ここに来てからじゃない。

 ホレイリーの町からラナンの町まで馬車で移動してくる間もずっと変だった。

 まるで何かを期待しているような。物欲しそうな顔。


 なんだ...?

 もしかしてキスのお返しをして欲しいとか?

 無理無理無理無理無理。ここ町中だし。

 だからって町中じゃなければ出来るのかって言われると大変困るけど。


「ティア」

「はい!!」


 呼びかけると彼女は飛び上がって露骨に私と距離を空けた。

 

「・・・・・」


 傷つく。物欲しそうな顔してたのになんだよー。

「!」私はほんの悪戯のつもりでティアの手を握った。


 ティアは一瞬"びくっ"としてそれからすぐに握り返してくる。

 その握り返し方が「嬉しい」って言っているように感じられて...。

 あれ? 意外な反応。可愛い...。


「ねぇ、ティア」

「はい」


 目と目が合う。

 ティアは微笑んでいて、頬がほんのりと紅い。

 うぐっ。可愛すぎる。私を悶えさせすぎ。一体どうしたの、ティア。  


「えっと、アイスでも食べない?」

「私、食べたことないです」

「そうなんだ。じゃあ食べよう」


 たまたま目に着いたカップアイスを売っている屋台。

 そこでバニラとストロベリーの二つを買って一つをティアに手渡す。

 近くにベンチを見つけて腰を下ろして食べ始めると真横から感じる視線。


「こっちも食べてみる?」

「いいんですか!」

「うん、勿論。じゃあ交換...」


「しようか」って言い終わる前にティアは親鳥が餌をくれるのを待っている雛鳥みたいに可愛らしく口を開けていた。

 食べさせてってこと――――?

 手が震える。アイスはそこまで硬くないのになんか刺さらない。掬えない。

 ティアの口に運ぶまでちょっと時間が掛かってしまった。


「美味しいです。私の分も食べますか?」

「あ、そ...そうね」

 

 期待する目。私もやっぱり口を開けて入れてもらわないとダメなんだね。

 視線を周りに彷徨わせると公爵領の首都だけあって沢山の人、人、人。

 こんな中で俗にいう「あ~ん」って物凄く恥ずかしい。


「ルナさん?」

「ごめん」


 私は覚悟を決めた。

 口の中にアイスを放り込んでもらった時、「美少女二人が。なんて尊い」とか声があちこちから聴こえてきたような気がするけど気のせい気のせい。

 後、間接キスなのも気のせい。


 その後食べた残りのアイスははっきり言って味が分からなかった。


 昼過ぎ。

 ステラとクレタと合流。

 ティアは集合場所を聞き忘れていて申し訳なさそうにしていたけど、こういう時組んでいて良かった。パーティ。

 メンバーの魔力感知のおかげで意外とあっさり発見することが出来た。


「首尾はどう?」


 真っ先に気になっていることを聞く。

 神妙な顔をする二人。

 その顔からしてあまり良くないことが分かる。

 もしかしてまた移動でもされた?

 だとしたら面倒だなぁ。


「それが...」


 結論から言えば移動はしていなかった。

 リッチは変わらずこのラナンの町に留まっている。

 ただよりによって来年開校予定の学園を乗っ取っているらしい。

 そのせいで公爵様は対応に追われて苦慮なさっているとか。

 

 最悪。私のせいだ。

 早いとこなんとかしなくちゃいけない。

 けどどうする? 下手に魔法を使うとせっかく完成間近だった学園を壊すことになる。

 公爵様の夢を奪いたくない。学園に通うことを夢見ている人達の夢も壊したくない。

 絶対に無傷で取り返さなくてはいけない。

 リッチをそこから追い出すことが出来たら。

 それかいっそ学園全体を覆ってターンアンデットの魔法を掛けることが出来たら。


「困ってる?」


 何処からか声。

 仲間達に顔を向けると全員が首を横に振る。


「下を向いて欲しい」

「下?」


 言われて見る。

 目に映る紅の瞳、紅のショートボブ、黒と紅のエプロンドレスで村娘な格好をしている幼女。


「プラムが力を貸してあげてもいい」


 幼女はプラムと言うらしい。

 しかしこの子可愛い。

 私の周りには可愛い子が集まって来る法則。

 それはそれとして、力を貸してくれるってどういう意味だろう?


「プラムちゃん...だっけ? どういうこと?」

「リッチを倒したいと見受けた。プラムは魔王様から派遣されてここに来た。つまり利害は一致してる。手伝いっていうより一緒にどう? って言ったほうが良かったのかもしれない。言葉が足りなかった」

「魔王様?」

「ん。魔王様は人間とか他種族と友好関係を結びたいって思って活動してる。でもどうしてもそれが気に入らない者は出るもの。リッチはそっち側。それで反乱分子を倒すようにプラムが派遣された」


 なるほどねぇ。

 しかし魔王ってやっぱりいるんだ。

 剣と魔法の世界だし、そうだよね。

 でも友好関係を結ぼうとしてるってことは悪い魔王じゃないってことだよね。

 だったら勇者はいないっぽいかな。多分。


「分かった?」

「分かったけど、プラムちゃんはもしかして魔族?」

「そう。紅の瞳を持っているのは魔族。覚えておくといい」

「魔物とはどう違うの?」

「人間と動物みたいなもん」


 なるほど!

 私は今一度仲間達の顔を見る。

 私の一存では決められない。

 全員が了承するならプラムちゃんと行動するし、一人でも反対するなら理由を聞いた上で致し方無いと判断した場合は別行動にする。


「私は賛成です。見た目は小さいですけど、きっとプラムちゃんは私達よりも強いんですよね。ルナさんにも匹敵するくらいの魔力を感じますから」

「あたしも賛成。この際使えるものはなんでも使ったほうがいいと思うし」

「言い方がなっていないな。自分も賛成だ。実力も気になるしな」


「決まりだね」


 私達はプラムちゃんを加えてリッチ退治に乗り出す。


「ところでプラムちゃんは何の魔族なの?」


 リッチが出てくるのは夜。

 それまでは空き時間。

 なのでラナンの町の宿で私達はプラムちゃんを囲んで談笑中。


「プラムはフェニックスとドラゴンの混血。でもドラゴンの方が濃い目。そう言えばルナも不老不死と見受けられる。仲間」

「うん、仲間だね」


 フェニックスとドラゴンの混血。

 この子絶対強いな。


「不老不死になってみたい人いたら教えて欲しい」


 って何聴いてるの。

 これには私も苦笑い。


「出来るん...ですか?」

「ティア!?」

「私もルナさんと一緒になれるってことですよね」

「待って。もうちょっとよ~く考えて? ねっ?」

「でも」

「親しい人が先に亡くなったりするんだよ? この先ずっと見送らないといけないんだよ? 耐えられる?」

「ルナさんがいてくださったら」

「ティア、お願い。もうちょっとでいいからじっくり考えてみて。それでも考えが変わらないなら今度は止めない」

「...分かりました」


 ふぅ。やれやれ。

 ほんとどうしたのティア。

 らしくないこと言い出すからびっくりしたよ。

 冷静になってくれて良かった。


「プラムはいつでも言ってくれていい」

「はい、ありがとうございます。プラムちゃん」


 ティアはそれからプラムちゃんを膝の上に乗せて頭を撫で始める。

 こうして見ているとまるで仲良しな姉妹。

 絵になるなぁ。


 それから全員が思い思いのことを始める。

 私は読書。ティアとプラムちゃんはリバーシやらトランプ。ステラは町の探索。クレタは鍛錬。

 時間は過ぎ、そして夜がやってきた。


 もくもくと学園の窓から入り込む煙。

 リッチを追い出す為にプラムちゃんが始めたこと。

 私はそれを半笑いで見つめている。

 いや、だって真面目に見れるわけないでしょ。

 この煙あれだよ? クサヤ焼いてる煙だよ?


「リッチは生前魚が大嫌いだった。だからこうすれば出てくる」

「へぇ」


 その言動冗談というわけではなさそう。

 到って真面目な顔をしてプラムちゃんは団扇を使ってクサヤを仰ぐ。


「「にゃぁああああ」」


 ああ、何匹か猫が匂いに釣られたらしいね。

 ....疑ってないよ。信じてるよ。

 嘘。全力で疑ってます。


 数分経過。

 突如窓が開いてそこから飛び出してくる一体の不死族。


「出てきた」

「なんだろう。私、今凄く奇妙な扉を開いた気分」

「奇妙な扉ってなんですか?」

「気にしないで」


 さて。


「黒炎よ、すべてを焼き尽くす闇の業火よ。我が前に現れその力を示せ。我が名はルナ、すべての魔法を使役する者。地を抉き、空を切り裂き、燃え盛れ」


「エクスプロージョン」


 魔法の火力を調節する方法はもう覚えた。

 黒炎はリッチを包み、一瞬でこの世から存在を葬り去る。


「あたし達出番なかったわね」

「リッチ単独で飛び出してきたのが敗因だな。余程魚が嫌いだったのか。アンデットを呼び起こしていればまた違っただろうに」

「プラムは魔王様に任務完了の報告に行く。手伝ってくれたこと感謝する」

「また会える?」

「すぐに会える」

「そっか。待ってるね」

「しばしのお別れ」


 プラムちゃんの周りから黒い霧。

 彼女はその霧と共に姿を消した。

 こうして拍子抜けのレベルでリッチ事件は終わった。


 宿に戻って数分後。


「戻ってきた」

「うわっ、ほんとにはやっ!」

「プラムはルナ達が気に入った。これからは姉と呼びたい。パーティに加わることを許可して欲しい」

「分かった。歓迎するよ。プラムちゃん」

「ありがとう、ルナ姉さん」


 ルナ姉さんか。

 うん、悪くない。


「ティア姉さんも呼ぶことを所望する」

「ティア? この部屋に呼びたいってこと?」

「ん。」

「別にいいよ?」

「ありがとう、呼んでくる」


 この後ティアが部屋に呼ばれ、三人で雑談やトランプなどをして盛り上がり、夜はプラムちゃん...。

 妹・プラムのお願いで三人川の字で眠った。

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