プロローグ
生まれてからずっと病院暮らしだった。
医学の発達した現代でも未だに名前さえ与えられていない未知の病気。
私の身体はそんな謎の病気に侵されてたったの十六年でこの世を去ることになった。
これでも必死に頑張ったと思う。
当初は五年も生きられれば御の字と担当医から言われていた寿命の期限を十年とちょっと気力だけで伸ばしたんだから。
悔いは沢山ある。学校に行ってみたかった。友達作ってみたかった。その友達と買い食いとかしてみたかった。試験に苦しんでみたかった。お泊り会してみたかった。あわよくば恋もしてみたかった。
でも何よりも――――もっと生きたかった。
◇
空も地面も白い世界。
そんな世界に複数の何者かの姿。
狸や狐の獣人みたいな者もいれば、人間と同じ容姿の男性・女性の姿をした者もいる。他にも人型でない者も。
その者達の周りに浮かぶ無数のテニスボール大の球・人や動物の魂。私もその一つ。
思うにここは常世の国こと天国と黄泉の国こと地獄の狭間?
だとしたら魂の傍にいるのは死神さん達かな?
様々な姿をした死神さん達が魂の一つ一つに語り掛けて行き先を決めてる。
ただ担当があるみたいで自分達の手前に浮いている魂に話しかけることもあれば、その後は数歩先に浮いている魂に話しかける時もある。
その様を観察していると私も死神さんの一人に話しかけられた。
「こんにちは」
人間と同じ容姿の女性死神さん。
右手を私に差し出してきて、私は彼女のその手に乗る。
『私、死んじゃったんですね』
「はい、そうですね。でも良かったですね~。貴女はすぐに転生出来るんですよ~」
そうなんだ。それは嬉しい。
けど転生して又病弱っていうのは嫌だなぁ。今度は健康な身体がいい。それで長生きしたい。
『あの...』
「はい?」
『私、次は長生きしたいです!!』
寿命がどうやって決められてるかなんて知らない。
でもでも言ってみるだけならタダだよね。
ダメで元々。そういう気概でいれば叶わなくても平気。
「分かりました~。では不老不死の身体をあげますね~」
『へぅ!?』
変な声が出た。
正確には声じゃなくて思念? だけど。
そんなことは今はどうでもいいか。
不老不死ってそれ何!?
『あ、あの...』
「あ! そうですよね。大丈夫ですよ~。キーワードを差し上げます。これを言えばころっと死ねますよ~。つまり生きたいだけ生きて、死にたくなったら死ねばいいんです。どうですか、お得ですよね~」
ノリが軽い。すっごく軽い。本当にいいの? それ。
「キーワードは「刻よ止まれ、汝はあまりに美しい」です」
どっかで聞いた事あるやつだーーーーーー!!
「せっかくだから若い身体がいいですよね。JKと幼女とどっちがいいですか~? 私のおすすめはJKなんですけど」
何その二択。後、なんで女子高生じゃなくて「JK」呼び?
俗世にまみれ過ぎじゃない?
『.....じゃあ女子高生で』
「分かりました。JK限定ミスコンで軽く優勝が狙えるくらいの超美少女ですね。欲張りですね~」
待って待って。私、そんなこと一言も言ってないよ!!!!
「JKっていいですよね。あの大人と子供の中間な身体つき。涎が出ます~。ぐふふふっ」
あ! 薄々分かってたけどこの死神さんダメな死神さんだ。
神様の世界って奥深いなぁ。こんな死神さんもいるんだなぁ。
あれ、そう言えば。
『死神さんはそこまで決める権限をお持ちなんですか? それとどうして私だけ、なんか特別待遇なんですか?』
死神さんって魂の救済、刈り取りが仕事で転生とかそこまで出来る権利とかないイメージがある。
「死神さんじゃなくてディアーナって呼んでください。いいえ~、私は一介の死神ですからそんな権限は持っていませんよ~。でも大丈夫です。いろんな神様の弱み握ってますからね」
うわぁ。弱みちらつかせて言うこと聞かせるつもりだ。この死神さん。...ディアーナさん。
ドン引き。
「ちなみに貴女は私が作った魂なんですよ。ですからぶっちゃけ依怙贔屓です」
『.....はい?』
「いや~、魂って他の神様が作ってるんですけどね。工場見学させてもらった時にどうしても自分で作ってみたくなっちゃって。それで工場の担当を一週間程ストーカーして弱みを握ったんですよ。それをちらつかせたら喜んで作らせてくださいまして。ただ一個だけって制限させられちゃったんですよね~。私としては千個くらいは作りたかったんですけど。でも見様見真似だと上手くいきませんね。ちょっと失敗作になっちゃいました。てへっ」
いろいろ衝撃的なこと言われた気がする。
魂って工場で作られてるんだ...。それと失敗作って言ったよね!! 失敗作って!!
私って失敗作なの? もしかして、だから意味不明な病気にかかったりしたの?
それって私が苦しんだの、全部全部ディアーナさんのせいってこと?
「そんな苦渋に満ちた震え方しないでくださいよ~。だからこうやって罪滅ぼししようとしてるんじゃないですか。転生後は幸せになれますよ~。多分」
『多分って言ったーーー!!』
「きっと大丈夫ですって~。あ! ところで転生先の世界はどんなところがいいですか~?」
話変えたな。でも、う~ん..世界かぁ。地球は嫌だなぁ。いい思い出がないし。どうしよう...。
『う~ん...』
「悩んでますね~。それなら剣と魔法の世界なんてどうですか? 今日本人が転生したい世界観ナンバー1なんですよ」
「あははっ」ってディアーナさんは笑う。
しかし何処かの企業のキャッチフレーズみたいな言い方だなぁって...。
ああ、もうずっと突っ込みどころが多くて疲れてきたよ。私。
『けど魔法かぁ...』
いいかも。体調がいいときは本とかゲームとか私も読んだり、遊んだりしてた。
ファンタジーな世界。そう言えば憧れたこともあったっけ。地球には無かった魔法っていう概念。
使ってみたい。楽しそう。
『その世界がいいです』
「は~い、じゃあここまでの転生設定を振り返りますね」
『はい』
「ミスコン・アイドルコンテストで優勝出来ちゃうくらいの不老不死超美少女JK。その実態は天才魔法使いってことで間違いないですね?」
うん? なんか最初より設定が増えてる気がするよ?
そんな完璧人間じゃなくていいんです。並でいいんですよ。並で。
「問題ないみたいですね~。じゃあ第二の人生楽しんできてくださ~い」
『あ! 待っ!!!』
ディアーナさんの右手から落とされて浮遊感を味わう。
一瞬だったような、悠久の刻だったような。よく分からない刻の間。
次に自意識が覚醒したら、そこは一面緑。草生い茂る草原だった。