新入生合宿
来たる新入生合宿──
騎士科1年生が入学式以来に全員がずらりと集まることになる
現在は新入生合宿のメインとなる樹海マラソンの説明が始まる
樹海マラソンとは約半日をかけて王国内に存在する樹海外から樹海内に存在するキャンプ地を目指して進むマラソンのことである
いわゆる行軍訓練に近く、約10キロほどのキャンプバッグを背負って険しい樹海の道を進むことになる
そしてここからが一番重要なポイントなんだが、マラソンという名前があるからには順位が存在しその順位によって学年順位に影響するポイントが計算されていくようだ
つまりマラソンの結果が俺たち生徒の成績に直結していくわけだ
意識の高い奴らはやる気満々、そして俺は特にやる気がなく周りの熱についていけてない状況である
そしてそんな熱を持ったやつが俺の隣にも一人
「............」
物凄い険しい顔をしながら地面を睨んでいるエリシア、物凄い集中している
はっきりいって怖い、まじで怖い
そして全体への説明が終わり、次は各クラスごとによる担任により話がはじまる
「よしお前ら、この時間は担任からのアドバイスタイムなんだが特に私から話すことは無い。気合で進み続けろ、そしていい結果を残して私の評価をあげ給料を増やしてくれ、以上っ!!!」
流石は我が担任のシルビア先生、適当がすぎる
この人と出会ってまだ1週間だが、この人の授業やホームルームを受けてこの大体こんな感じの人ってのはクラスのみんなが知っている
「おい貴様ら、そんな微妙な顔をするんじゃない。そうだな、この樹海にはモンスターなどの危険性物は既に王国騎士団のおかげで駆除されているから安心してマラソンを楽しむといいぞ」
いや逆にモンスターがいたら危ないだろ。例え騎士科の生徒と言っても油断したら命の危険があるからな
そこら辺の安全は考慮されてるわけか
「今回のお前たちの敵は自然となるわけだ。決して侮るなよ?モンスターはいないといっても熊や狼みたいな猛獣はチラホラといる、森に飲み込まれたらゴールするのは至難の技だ。重々注意して進むように、コンビ同士の協力が大事になってくるぞ」
そしてなんだかんだ言って俺達に助言をくれるシルビア先生、こういう所が憎めない担任である
そしてしばらくしてスタート目前となる
「ねぇ、ちょっといいかしら」
「.....いきなりどうした」
スタート目前となって急にエリシアに話しかけられる
「お互い一緒にいるのは嫌だから、お互い単独行動でゴールを目指すことにしない」
「......そうだな、それの方がお互いのためか」
「えぇそういうことよ。だけど私の足を引っ張らないでちょうだいよ、上位を目指してるから全力でゴールを目指さないとあんたを殺すわ」
「......わかったよ、努力させてもらいますよ」
こいつもやっぱり意識高い系の一人だったが
まぁ単独行動だったら逆に難易度が下がるからな、なんならエリシアよりはやくゴールしてやろう
身体を慣らして目の前の森を見つめる。森の地図はゴールが大まかに記された雑なものしかない
詳しいことは自分たちで考えろってわけだ。慣れない森の中を頼りにならない地図を使ってゴールを目指す、思った以上にハードそうだな
そしてスタートの合図が鳴り響き、生徒達がどんどんと駆け出していく
「さて、どうしますかね...」
走り出す生徒達を見送りながら俺は立ち止まり考える
辺りを見渡すと数人の生徒がチラホラまだ残っている。こいつらわかってる奴らだな
そして俺の期待通り残ってるものはみな魔法を唱え、様々な方法で高く上り詰めていく
ある者は風魔法で飛び、ある者は土魔法で高所を生み出す
やっぱり騎士科の中にもこういった魔法が使える奴らはいるらしい、予想的中だ
「というわけで俺も拝借」
土魔法で生み出された細長い塔に勝手に登りゴールであるキャンプ地を視認する
これで詳しい道はわかったし、森の大まかな地形も理解出来た
これだけで樹海マラソンは楽になる
魔法で空を飛ぶのは禁止されてるけど、こうやって魔法を工夫して使うのは禁止されてない
設定されてる規則は自分の足でゴールすることのみ
んじゃ、当初の目的は達成されたわけだしゴールを目指すかね
なんか登った塔の頂上から文句が聞こえてきた気がするけど、そんなの無視だ。使えるもんは使っておかなきゃな
そして俺は森の中を掛け進んでいく
だいたい距離は50キロほどか?その距離に加えて大自然の悪路だ、確かに半日ほどかかりそうな距離だな
ただ大体のコースさえわかればそんなに辛くはないだろう
懸念があるとすれば空の様子だろうか、まだ遠いがどす黒いくて厚い雲が見える
そして雲が流れる速度が速い、あの雲がこっちに来るまでにはゴールしておかないとな
そして俺は集中力を高めて森の中を駆け抜けていく──
◇
「ふぅ...よし、何とかゴールか...」
俺は一息ついてキャンプ地の入口へと歩いていく
「ルークじゃないか、この時間帯で来るとは中々やるじゃないか」
「ん?シルビア先生じゃないですか、どうしてここに?」
「私はゴール記録係なんだよ。そうだな、お前のとこで全体で5組目のゴールだな。もちろんうちのクラスでは1番だ...それで、お前の相方のエリシアはどこにいる?」
「あー...あはは、エリシアはですね...」
「はぁ...お前らもしかしてそれぞれ単独でゴールを目指したのか?」
「いやー...まさしくその通りっす...」
シルビア先生が再び深くため息をつく
「ゴールはコンビ一緒じゃないと認められないぞ。それにわかってるか、今回はお試しとはいえコンビ同士の連携などが評価されるものだ、この先もそういうことが多い単独で勝手にやってるやつは評価されんぞ?」
「まぁそうっすよね...それエリシアのやつにもしっかり言ってくださいよ。俺は別に成績とかどうでもいいですけど、あいつは意識してるみたいなんで」
「まったくお前も実力あるんだからいい成績を残してくれないと私が困る。とりあえずエリシアもちょっと待ってればくるだろ、ゴール前で待ってろ」
俺はシルビア先生の言葉に従いゴール前で待つことにする
そして3時間後──
「お、ルークじゃんこんな所で何やってんだ?」
「おぉマルカス、ロイドかお疲れ様だな。俺はエリシアより先にゴールしちまったからあいつを待ってんだよ」
「先にゴールってルークはいつここについたんだ?」
「あー...かれこれ2.3時間くらい前か?」
「おいおい...2.3時間前ってかなり早いんじゃないか?」
「まぁ全体で5番目くらいとか言われたな」
「おい、それって凄すぎじゃないか?ところで俺たちの順位ってどれくらいかわかるか?」
「あぁそうだな...だいたい15番目とかそれくらいじゃないか?うちのクラスじゃ多分お前らが1番早い」
俺の解答にマルカスとロイドが「よっしゃ」と喜ぶ
俺がここに来てから俺が出くわしたやつは大体10組くらいだから、たぶん俺が言った順位はあってるはずだ
正直俺を含めた俺より早くゴールしたヤツらがゴールするのが早すぎたんだ
「とりあえずキャンプ地にあるロッジで休めるらしいぞ、俺はエリシアが来るまで中に入れないからここで待たなきゃいけないけどな」
「エリシアさんなら優秀だし、もう少ししたらつくんじゃないか?」
「まぁそうだといいんだがな、とりあえずお前ら2人はゆっくり休んでこい。それで余裕があったら俺の話し相手として来てくれると助かる」
俺は2人がロッジの方に向かうのを確認し、また再びエリシアが来るのを待つ
そしてまた数時間後──
「おいルーク!!先生達が流石にもうロッジに入っていいって言ってるぞ!!」
強い風が吹き荒れる中マルカスが俺の元まできてくれる
「いや、俺はまだ残るわ。あいつ帰って来てないし」
「は?お前何言ってんだよ。このままここにいたらお前も危ないぞ、先生が言うには嵐がもうそこまで来てるって話だぞ!!先生達がエリシアの捜索隊を組んでるみたいだから、あとのことは先生に任せた方がいい!!」
マルカスの暴風に負けないくらいのデカい声をあげる
そしてポツリポツリと雨が降り始める
既に陽は落ち、灯りがないと周りが見えない状態だ。既にエリシア以外全ての生徒はゴールしている
「はぁ...くそ、仕方ないか...」
「お、おい!!ルークどこいくんだ!!」
「俺はエリシアを探してくる。悪いがシルビア先生があたり伝えてく
れ!!」
俺は一気に駆け出し森の中へと戻っていく。マルカスの叫ぶ声は暴風の中へと消え何を言ってるのかは分からなかった
森の中は既に光が届かない闇とかしていた
雨はどんどんと勢いを増していき、既に嵐という領域にまで達している
こりゃ使うしかないか、ここなら誰にも見られないしね
俺は立ち止まり、目を閉じ、そして唱える──
「龍よ──!!」
一瞬俺の周りの暴風がやみ、静寂になる
俺が唱えたワードは「龍」、そう俺が使用する魔法は龍の魔法
これがハードモードを選ばされた俺が手にした特別な才能この世でただ唯一の龍の力を使える人間だ
そう俺は最凶の邪龍に育てられし龍の力を司る男なのである!!
「──っと、ふざけてる場合じゃねぇか」
俺は生み出した龍の魔力を使い魔力感知を発動させる
最強種ドラゴンが使う魔力感知、そんじょそこらの魔力感知とは大違いの能力だ
俺は目を瞑り、感知できる魔力をたぐりよせエリシアであろう風の魔力を探し出す
集中的に感知できるのはロッジにいる騎士科の生徒と先生達だ
そして他にチラホラと魔力が感知できるがこれは人間とは違うモンスターの魔力、駆除されたと言ってたがまだ残ってんじゃねぇか
「......見つけた」
そして糸のように細い風の魔力を探知する、これが間違いなくエリシアの風の魔力だ
だが、何かがおかしい。エリシアの近くに大きな魔力反応が1つある
大きいというかかなり密度の濃い不純な魔力。これは人間がもつ魔力じゃない...どっちかというモンスターよりのやつだ
この魔力の形は......かなり危険だ
そしてエリシアから感じ取れる魔力はかなりか細く、エリシアがかなり危険な状況だと考えられる
嫌な予感しかしない
俺は足に魔力を込め、地面を蹴り出す
「何か変なことに巻き込まれてんじゃねぇぞ、エリシア!!」